愛しの錯誤異物の巻 その③
「今回のオークションも変わらず上質なものを取りそろえることが出来ました。期待しておいてください」
得意そうに言うビノ。
一方でラミアは硬い表情を浮かべていた。
「……ビノさん。お尋ねしたいことがございます」
「なんでしょう。なんでもお答えしますよ?」
「わたくし、今回のオークションでは錯誤異物が出品されると伺ってこの街へやってきたのですわ。ですが、どうもそれが見当たりませんわ。いったいどういうことなのかしら」
ラミアはビノの心中を探るような言い方をした。
しかし、ビノはまったく動じる様子を見せなかった。
「それも当然です、ラミア嬢。あれは今回のオークションにおいて目玉中の目玉。ですから、特別厳重に保管してあるのです。どうぞ、こちらへ」
両脇に出品物が陳列された通路をビノは歩いていく。ラミアとアルはその後ろをついていった。
「こことは違う場所にあるのですか?」
「そうですとも。なあに、そう遠い場所ではありません。この向こうでございます」
ビノは古びた鉄製の扉の前に立ち止まると、どこからともなく鍵の束を取り出し、その扉を開けた。
その部屋にはわずかな明かりしかなく、薄暗かった。
「ここに錯誤異物が?」
部屋を覗き込むように前かがみになるラミアを、ビノが右手で制する。
「おっと、気をつけた方がよろしいですぞ。ここには罠がしかけてありますからな」
「罠……?」
「ええ。ご覧になりますかな?」
ラミアが頷き、ビノは上着のポケットからハンカチを一枚取り出した。
そして、そのハンカチを部屋の中へ放り投げた。
ハンカチはほんの一瞬だけ部屋の中を舞ったかと思えば、次の瞬間には見えない何かによって切り刻まれ、断片となって床に落ちた。
「侵入者を検知し排除する魔法を仕掛けてあるのです。もしこの部屋に収められたものを盗もうなどと言う不届きものがいれば、部屋に入った瞬間にすぐさまバラバラになるでしょう」
「だとしたら、この部屋には入れないのですか?」
「いえ、そういうわけではありません。魔法ですから、特定の条件のもとで発動しないよう設定することはできるのです。さあ、私の後ろからついてきてください。そうすれば安全ですからな」
ビノは薄暗い部屋の中に入っていく。
「……お嬢様、私が先に入ります」
ラミアの前に割り込むようにしながら、アルが言った。
万が一の場合は、ラミアの盾になるつもりなのだ。
「アル、大丈夫?」
「ここで私たちを殺してもあの男には何の利点もありません。安全だというのは信用していいと思います。……少なくとも、私はあの男から悪意は感じていません」
「アルが言うのなら、信じるわ」
ラミアが頷くのを見てから、アルは部屋の中に足を踏み入れた。
ビノの言う通り、アルの体が切り裂かれてしまうようなことは起こらなかった。
「大丈夫みたいですよ、お嬢様」