冒険者ラミアの巻 その②
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錯誤異物と呼ばれる物体を知っているだろうか。
世界各地に点在し、手にした者に人智を超えた力を与える物体である。
そして、錯誤異物を探求する者の中で、政府から特別な認定を受けた者を錯誤異物研究家と呼んだ。
ドレスの少女――ラミア・フォン・ハルフォードは、錯誤異物研究家の一人であった。
「アル、サーシャの町まであとどのくらいかしら?」
昼間の人通りの多い街道を歩きながら、ラミアは隣を歩くアルに尋ねた。
「ここを抜ければすぐにマギラ湖が見えるはずですから、そこまでたどり着けばすぐです」
二人分の旅行鞄を抱えたアルは、頭一つ分高いラミアの顔を見上げ、答える。
「そう。旅路はおおむね予定通りといったところね」
「はい。オークションには十分間に合います」
「錯誤異物『神の遺骸』。……まさか、オークションに出品されるとは思いもしなかったわ」
ラミアは、自分の銀髪を束ねる髪飾りに触れながら、何かを考えるように目を細める。
ラミアとアルの二人が、サーシャの町で『神の遺骸』のオークションが行われるという情報を掴んだのは数週間前の話だった。
それから二人は、屋敷のあるアールハイトの町を飛び出し、馬車や船を乗り継ぎながらサーシャの町へと旅を続けてきた。
「見えてきましたよ、お嬢様。あれがマギラ湖です」
アルが指さした先には、大きく広がる湖があった。
まだ昼時の日の光を受けて煌めいている。
そしてその向こう側には、背の高い建物が立ち並ぶ街並みが見えた。
「ということは、あの町がサーシャの町なのね」
「はい、お嬢様」
「町まではどう行けばいいのかしら」
「湖を渡してくれる船があるそうですよ」
小さな手帳を見ながらアルが言う。
「そう。道案内は任せるわ」
「はい、お任せください。あちらの方です」
アルは手帳を懐にしまいこみ、歩き出した。
しかし、ラミアは立ち止まったまま動かない。
数歩歩いてラミアの様子に気付いたアルは、慌てたように彼女に駆け寄った。
「どうしました、お嬢様!? 具合が悪いのですか?」
「……いえ、違うわ。髪飾りが反応しているの」
「髪飾りが? あの、錯誤遺物の?」
見れば、ラミアが髪につけた髪飾りが薄く発光していた。
「そう。この反応は、錯誤遺物が近い証拠だわ」
「髪飾りの力ですか?」
「ええ。私の髪飾りは、所有者に錯誤遺物の在り処を感じさせてくれるの。どうやら情報は間違っていなかったみたいね」
ラミアが髪飾りに触れると、髪飾りの光は徐々に収まっていった。
魔法の力で光を抑え込んだのだろう。
「さあ、行きましょう、アル。錯誤遺物が呼んでいるわ」