負けられない競りの巻 その①
※※※
「すごい人だかりですね、お嬢様」
オークション会場へ着くと、そこは既に人でいっぱいだった。
「さすがというべきなのでしょうね。これでは壇上も見えませんわ」
「ご安心を、お嬢様。お嬢様のご指示通り、既に手を打ってあります」
「あら、そう?」
「ええ。もうすぐいらっしゃるはずです」
アルが視線をラミアのさらに向こうへやった。
すると、
「おお、ようこそいらっしゃいました、お二方!」
そう言って駆け寄ってきたのは、先日ラミアたちを案内してくれたオークション会場の管理人、ビノだった。
「ビノさん、お世話になりますわ」
「いえいえ、このくらいはサービスです。錯誤異物について教えて頂きましたからな、講釈料と思えば安いものです」
ラミアに対して、ビノは体を揺すりながら笑って見せる。
「さあ、参りましょう。このビノ、ラミア嬢のために特別席をご用意いたしました。さあ、こちらへどうぞ」
ビノが回れ右をして歩き出す。
そんな彼をラミアは呼び止めた。
「ビノさん、顔色がよろしくありませんわ。悩み事でもおありなのですか?」
ビノはぎょっとしたようにラミアを振り返った。
「……いやはや、これはいけませんな。ラミア嬢、よい目をお持ちだ。よろしい。まあ、行きながらお話ししましょう」
※※※
「つまり、一度盗まれて戻って来た、というわけですの?」
ビノがラミアたちのために用意してくれた席は、席と言うよりも豪奢な個室のようになっていて、オークション会場のメインステージが一望できた。
アルは、ビノにここまでさせるラミアの権威を誇らしく思いながらも、一方でビノに対しどこか信用しきれない部分があることも感じていた。
ビノが商人らしい男だからかもしれない。商人というのは、顔では笑いながらも腹の中では何を考えているのか分からないからだ。
「ええ、その通りですとも。あそこまで厳重に保管していたにもかかわらず、錯誤異物――『神の遺骸』は姿を消し、そして時間が経ったのち再び戻って来たのです」
「それはいつの話ですの?」
「深夜から明け方にかけてのことですから、ついさっきのことです。いや、戻ってこなければ今回のオークションは最悪の場合、失敗ということになってしまうかもしれませんでしたから、私としては助かったという思いしかありませんがね」
「しかし、妙ではありませんか? 犯人は一体何が狙いでそのようなことをしたのかしら」
「いやあ、そればかりは私にも分かりませんな」
「このオークションには、表立って名前を出せないような方々も一枚かんでいるといううわさがありますわ」
ラミアの言葉に、ビノが眉を顰める。
「……正直ですな、ラミア嬢。その正直さも美徳かもしれませんが……いいでしょう。我がオークションにそのような者が関わっているということは否定しません。が、彼らはそのようなことはけしてしないでしょう」
「なぜです?」
「そういった暗黙の了解があるからです。それを破れば、ただではすみませんからな」