知の渇きの巻 その④
稀によくある、予約投稿できていなかったパターンです。すみません。
「あのクロとかいう男も言っていたのだけれど、わたくしたちが邪魔なのよ」
「どういう意味です?」
「恐らくヌエ一家も狙っているのだわ、神の遺骸を。だからわたくしたちを排除しようとした」
「それは分かります。ですが、ヌエ一家という団体はオークションにも深く関わっているんですよね? だとしたら、オークションで落札することなしに、不正な方法でも手に入れることができるのではないですか?」
「そうしなかったということは、ヌエ一家とやらも苦しいのですわね……」
アルに髪を梳かされ、ラミアが恍惚とした表情を浮かべる。
「お嬢様?」
「……ねえ、アル。頼みごとがあるのだけれど、いいかしら?」
「下着だったら、脱ぎませんよ」
「何の話?」
「……いえ、何も」
※※※
「市庁舎の見学ですか?」
庁舎の受付の女性は、ラミアとアルを奇妙なものを見るような目で見た。
「そうですわ。錯誤異物研究の一環として、その発見地の情報も書類にまとめなければなりませんの。そのために、市庁舎を見学させて頂きたいのですわ」
「昨日の内に見学の旨は了承して頂いたはずです。市長の方に既に話はつけてつけてあります」
有無を言わさぬラミアとアルの語り口に、女性は少し戸惑ったような表情を浮かべた。
「わ、分かりました。担当の者を呼びますので、少しお待ちください」
※※※
担当の者と名乗って出てきたのは、白髪交じりのいかにも小役人といった風貌の老人だった。
「こんなところを見学しても、何か良いことがあるわけでもありませんでしょうに、あなたがたも物好きですなあ」
「錯誤異物研究家とは、そのようなもの好きの集まりですもの。よろしくお願い致しますわ」
ラミアがモノトーンの派手な装飾のついたドレスの裾をつまみ、老人に一礼する。
「……ま、いいでしょう。一周見て回るだけでよいのですな?」
「ええ。もちろん。ご協力感謝致しますわ」
アルは内心、少し安心していた。
なぜなら、市長に話がついているというのは真っ赤な嘘だったからだ。
それでもあの受付嬢は信用して、話を通してくれたらしい。
人を信じやすいというのも考え物だな、とアルは思った。
しかし、こうした一連の流れすらも罠かもしれない、ラミアの考えていることが当たっていれば……。