知の渇きの巻 その③
男たちが呻きながら横たわる中、アルはリーダー風の男に十字架の先端を向けた。
「……さあ、次はあなたがかかってきたらどうです?」
「おいおい、冗談じゃねえよ。どういう手品だ?」
「この道は狭く、大人数で襲って来ても私に攻撃できるのは同時に一人が限界です。人数の差が決定的な戦力の差ではないことを教えてあげただけです」
「そんな馬鹿な……」
男の頬を冷たい汗が伝った。
「もう一度いいますが、次はあなたの番ですよ。そして、これも繰り返し言いますけど、多分怪我じゃすみませんよ」
「てめえ、名前は?」
「アル。ラミア・フォン・ハルフォードお嬢様の忠実な番犬です」
「俺はクロ・シバルツ。ヌエ一家の喧嘩頭だ。よく覚えとけよ!」
「ヌエ一家?」
「チッ、また口が滑っちまったか。まあいい。とにかく覚えておくんだな!」
その言葉と横たわるチンピラたちを残し、クロと名乗る男はあっという間にアルの目の前から消えた。
「……ヌエ一家と言っていたわね? 何者なのかしら」
アルの背後で、ラミアが呟く。
「気になりますね、お嬢様」
「どうにかして調べる方法はないかしら」
「調べる方法? それでしたら……」
アルが、倒れたままのチンピラを顎で指すと、ラミアも何かに気付いたように頷いた。
「その方法がありましたわね、アル」
※※※
残されたチンピラたちに対して、爪を剥いだり指の関節に切り込みをいれたりするような聞き取り調査を行った結果、アルとラミアはヌエ一家についてある程度の情報を得ることができた。
ヌエ一家とは、サーシャの町のオークションを裏から支配する数ある組織の中の一派だった。
一派といってもその影響力は大きく、伊達ではないということも分かった。
「しかし、そのヌエ一家が私たちにどのような用があったのでしょう?」
宿に戻った二人は、寝る支度をしていた。
既に夜も更けている。
「あの男たちは、神の遺骸のことを知っていたわね。そこから察すると……」
ベッドに腰かけたラミアは、風呂上りの髪を梳かす手をとめ、少し考えるようなそぶりを見せた。
「何か思い当たることがあるのですか?」
ラミアの隣にアルが座ると、ラミアは右手の櫛をアルに差し出した。
髪を梳かしてほしいというアピールである。
アルはその櫛をラミアから受け取ると、ラミアの美しい銀髪を梳かし始めた。
アルは、ラミアの髪から果実のような甘い香りがするのを感じた。