知の渇きの巻 その②
再びラミアは庁舎に背を向け、歩き出した。
既に日は沈み、街灯が灯り始めていた。
「明日の予定は? アル」
「明日は街の観光になっています。オークション会場の下見もスケジュールに入っていましたが、どうなさいますか?」
「中身は見せてもらったものね。だったら、明日は散歩がてら外を見て回るのはどうかしら? 良い気晴らしになると思うわ」
「はい、そう致します」
何気ない風を装って、二人は会話を続ける。
だが、彼女たちは、徐々に自分たちの方へ近づいて来る気配を感じ取っていた。
その気配は一人や二人のものではなく、十人近い大勢のものだった。
アルの表情が変わる。
それを見て、ラミアは、
「アル……任せてもいいかしら?」
「当然です。そのための私ですから」
いつの間にか二人は、人気の少ない裏通りにいた。
そちらの方が人目につかず、大きな騒ぎにならずにすむからだ。
そして、その裏通りの行き止まりに当たる箇所で二人が立ち止まったとき、それを待っていたようにして数人の男が現れた。男たちは、手にナイフ程度の刃物や片手で持てるような鈍器を装備していた。
そうした様子から、彼らがまっとうな筋の者ではないということは、容易に察することができた。
アルがラミアを自分の背後に隠し、男たちと対峙する。
「何者ですか、あなたたちは」
そう言って男たちを睨むアルを見て、リーダー格らしき男が笑った。
「それを知ったところでどうしようもねえだろ、お嬢さん方。あんたたちにはこの街から出ていってもらうぜ。そうじゃなきゃ、ここで少し痛い目に遭わせていいって命令を受けてるんだ」
「命令?」
「おっと、口が滑っちまったかな。まあいいさ。要するに、あんたたちみてえなのがオークションに参加すると困るんだよ。あんたたちだって、あの干からびたミイラ――神の遺体ってやつが目当てなんだろ?」
「そうです。錯誤異物を研究するのが、お嬢様の仕事ですから」
「だとしたら、ますます放ってはおけねえな。いいかい、あんたたちのすべきことは一つ、今すぐにこの街を出て家に帰ることだな。そうじゃなきゃ痛い思いをすることになるぜ。……遺体のためにな」
リーダーらしき男の言葉に、その後ろで控えている手下たちが笑う。
「何が面白いのか分かりません。あなたたちは自分のおかれている状況が分かっているんですか?」
アルが胸元の、十字架のペンダントを首から外し、構える。
「おお? なんだい、そんなもんで俺らとやろうってのかい? 怪我しても知らねえぜ?」
「試してみますか? 多分、怪我じゃすみませんよ」
「そっちがそういうつもりなら、容赦しねえ。お前ら、やっちまいな」
男の号令で、チンピラたちはそれぞれの武器を振り上げ一斉にアルへ襲い掛かって来た。
だが、アルは全く動じることなく、しかも一瞬で男たちを無力化した。