愛しの錯誤異物の巻 その⑤
アルは、ラミアの肩越しに『神の遺骸』を眺めた。
それから、一瞬曇ったラミアの表情を。
「……お嬢様?」
「なんでもないわ、アル。気にしないで。それよりビノさん、次はどこを見せて頂けますの?」
「もうよろしいのですかな?」
「ええ。十分見させて頂きましたわ」
「それは何よりですな。では、次は舞台裏に参りましょう。こちらもまた普段は公開しておりません。いい土産話になるでしょう」
※※※
オークション会場を後にした二人は、サーシャの町の庁舎へ向かっていた。
市長との面会があるからだ。
「間に合うかしら、アル」
「少し見学が長引きましたが、それでも問題ありません。スケジュールは余裕をもって組んでありますから」
「さすがアルだわ。いつもありがとう」
アルは笑みを浮かべるラミアから目を背け、
「と、当然です。それが私の仕事ですから。それよりお嬢様、先ほどはどうされたのですか?」
「先ほど?」
「はい。錯誤異物をご覧になっているときに、何か考え事をされていたようでしたが」
「ああ、あれね……まだ考えがまとまっていないの。市長さんとのお話が終わって、宿に戻ったら教えてあげるわ」
「予想外のことが起こっているのですか?」
アルの言葉にラミアが足を止める。
「……それも含めて、宿に戻ったら話すわ」
※※※
庁舎を訪れた二人は、そのまま応接室に通された。
市長が現れたのは、それから間もない頃だった。
「いや、お待たせしてすみません。私が市長のラスカ・ロメジです。お会いできて光栄です」
言いつつ、彼はラミアに右手を差し出す。
市長は痩せた、眼光の鋭い男だった。
薄く黒色の入った眼鏡をかけていて、どこか有名なブランドが作ったようなしっかりした形のスーツを着ている。
ラミアは市長の右手を握り返しながら、
「ラミア・フォン・ハルフォードです。こちらこそ、お会いできるのを楽しみにしていましたわ。彼女は私の秘書です」
「……初めまして」
ラミアとアルに儀礼的な笑顔を返しながら、市長はソファに腰かける。
「この街はどうです? オークション会場はご覧になりましたか?」
「はい。ちょうど午前中に伺ったところです。素晴らしい建物でしたわ」
「そうでしょう。なんといってもこの国、いや、世界で一番のオークション会場です」
市長が満足そうに頷く。
そこへ市長の部下らしき男が会釈をしながら入ってきて、ラミアと市長の間にあるテーブルの上に、飲み物を置いて出て行った。
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