欲求不満
「樹里―!」
今度は間違いなくお母さんの声だった。
一気に現実に引き戻されて、
反射的に時計を見た。
「やばっ!」
急がなきゃ、遅れちゃう!
でも、このままじゃ…。
ベッドの真ん中に視線を戻すと、
そこにはもう、誰もいなかった。
え?
だって、今、目の前にいたはずなのに。
「王子様…?」
私ってば、そうとう寝ぼけていたらしい。
そりゃあ、そうだよね。
あるわけないよね、あんな…。
思わず、触れられた頬に手を当ててみる。
「樹里」
名前を愛しげに呼ぶ声。
あれも、夢?
夢、だったんだ…。
「ぼーっとしてたら、ケガするわよ」
玄関で靴を履いていると、
背中からお母さんの声がした。
「大丈夫?
さっきも、コーヒーこぼして…」
「な、何でもないって!
いってきまーす!」
私、まだ引きずってるのかな。
さっきの、あれ。
夢にしてはやけにリアルだった。
…って、いやいや、あるわけないじゃん。
だって、一瞬でいなくなるとか、ありえないし。
妄想?
だとしたら、いよいよ私ヤバイのかも。
あの夢も、最近じゃ毎日のように見るようになって。
年配の男性ばかりの今の会社に入ったのが原因?
日常に、一切の潤いがなくなった気がするもんなぁ。
心なしか若さを吸い取られている気さえする。
そして恐ろしいことに、ストライクゾーンがどんどん広くなってきている。
父親くらいの年齢でも、ちょっとダンディな男性だと、
キュンとしちゃう自分がいたり。
どんだけ飢えてんだっての!
危ない危ない。
いくら周りに若い男がいないからって!
いつも行くコンビニのお兄さんに、
おつり渡されるだけでドキドキするとか、
どうかしてる。
だけど、そうなっちゃうくらい、
刺激のない日々を送ってるんだもん!




