母親
「こんな日が来るなんて!
祈り続けていれば、願いはかなうのね!
神様ってホントにいらっしゃるんだわ!」
抱き着かれたままで、その表情まではわからなかったが、
感極まったアナスタシアの声は震えていて、たぶん、泣いていた。
「うちの愚息もやるときはやるのねー。
樹里ちゃん連れて来ちゃうなんて、お手柄だわ!」
「は、はは」
アナスタシアの勢いに圧倒され、乾いた笑いしか出てこない樹里。
「レオンが結婚しないって言い出した時は、どうなることかと思ったけれど、
結局、これでよかったのよね。
離れていたのも、二人に課せられた試練だったんだわ!」
興奮冷めやらぬ様子のアナスタシアは、
全てを都合のいいように解釈しているように見えた。
それは樹里が責められないための配慮のようにも感じられ、
レオンも樹里も、あえて反論や訂正はしなかった。
「形だけでいいからって言ってるのに、
政略結婚まで頑なに拒否するんだもの。
おかげで変な噂立てられて、それを否定しようともしないのよ!
もう、この子に普通の幸せはありえないんだって、すっかり諦めていたの」
それを言われると、樹里も胸が痛い。
本当なら、母親の立場からすれば、
樹里を憎んでいたっておかしくはない。
アレクみたいに文句の一つも言いたいんじゃ…?
そんな樹里の心配は、杞憂に過ぎなかったと、
レオンに聞かされるのはもう少し後のことで、
この時の樹里は、もう少しで土下座してしまいそうなほどに、
いたたまれない気持ちでいた。




