ケンカの原因
楽しい時間を思い出しながら、中庭を散歩していると、
誰かが言い争うような声がして、
思わず物陰に隠れた。
「ボクは樹里のためなら、何もかも捨てる覚悟だよ」
「それは、どういう意味ですか?」
声からして、レオンとアレクのようだ。
自分の名前を出されては、このまま立ち去るわけにはいかない。
樹里はもっとよく聞こえるように、
柱の陰からそっと顔覗かせた。
「そのままの意味だよ。こっちの世界には何の未練もないしね」
「本気で言ってるんですか?
このままだと戦争になるかもしれない大事な時期に、」
「大丈夫だよ。うまくやれば避けられる戦だ」
「そのために兄上の力が必要なんじゃないですか!」
「国王はお前だろ?」
「ふざけんなっ!
樹里を迎えに行きたいからどうしても代わってくれって、
兄上が頭下げるなんてこと、初めてで、だから…。
だから、オレは、引き受けたんじゃないか!」
「樹里がいなくなったあの日からずっと、
ボクはこの日だけを夢見て生きて来た。
魔術の勉強だって、樹里の世界へ行く方法を知るためだ。
王になるためじゃない」
「じゃあ、この国はどうなってもいいっていうのか!?
自分さえよければ、それでいいっていうのかよ!?」
「はい、ストーップ!!」
気づいたら二人の間に飛び出していた。
「「樹里!!」」
心配そうに駆け寄るレオンが、そっと樹里の肩を抱いて、
顔を覗きこんでくる。
そんな子犬みたいな目してもダメなんだから!
私は怒ってるんだよ!
「いい加減にして!
そんなお国の一大事に、私を巻き込まないで!」
「ボクは本気だよ」
「兄上っ!」
きっぱりと放たれたレオンの言葉は、
アレクだけでなく、樹里に向けられたもののような気がした。
レオンはアレクを振り返ることもなく、無言で樹里を部屋へと送り届けた。
その強硬な姿勢からも、レオンの本気が伝わってくる。
さっきの喧嘩、二人ともすごい剣幕だった。
今にも掴み合いになりそうなくらい。
私のせい、なんだよね、きっと。
レオンは国王の地位を捨ててまで、会いに来てくれた。
だけどそれは国のためで、樹里を好きだからじゃない。
さっきまで、そう思ってた。
そしてそのことに、傷ついている自分がいた。
そうじゃないかもしれないとわかった今、
どこかで嬉しいと感じる自分がいる。
そのことに樹里は戸惑っていた。




