一夜明けて~リン~
朝方、ようやく眠りについた樹里の部屋に、
控えめなノックが響くと、リンがそっと入ってきた。
とうとうこの日が来てしまった、と、
憂鬱な気持ちをなんとか振り払い、
物音を立てないように、仕事にとりかかる。
レオンに仕えるようになって、そろそろ3年
が立とうとしていた。
リンが出会った頃のレオンは、すでに立派な魔術師だったが、
天才イコール変わり者という扱いで、
陰で色々、好き勝手言われていた。
女に興味がないんじゃないか、とか、
男として不能なのでは、なんてどれも無責任なものばかり。
いちいち腹を立てていたリンに、決まってレオンはこう言った。
「いいんだよ、リン」
「でもっ!」
「ボクには大事な人がいるんだ。
時が来たら、迎えに行こうと思ってる」
そう言って誰かを思い浮かべながら、
幸せそうに微笑む横顔に思わず見とれてしまった。
あの時、レオン様が思い浮かべていたのは、きっと樹里だったのだ。
よりによってなんでこんな人。
リンは声に出すのをぐっとガマンして、
眠る樹里を眺めていた。
これといって、秀でた何かがあるわけでもない、
ごくふつーの女性にしか見えないのに。
ずっとレオンを想ってきたリンからすれば、
樹里は突然現れたライバル。
イジワルの1つでもしてやりたかった。
でも、あんまりレオンが幸せそうに笑うから。
その笑顔を守りたい。
それにはまず、目の前で眠るこの女を、
見極めないと。




