後継ぎ
「ま、樹里は、
元の世界で楽しくやってたんだろうから、
兄上に色々教えてあげてよ。
手取り足取り、ね?」
いちいちイヤなところついてくるアレクに、
イラっとするものの、樹里には何も反論できない。
ホントは、
そんなに楽しいことばっかじゃなかったよって、
言ってやりたいけど。
血筋なのか、寄って来るのはダメ男ばっかりで、
ろくな恋愛してこなかったし、
私の数少ない経験じゃ、人に教えるなんてレベルにはない。
そもそも、最後に彼氏がいたのはいつだったっけか…?
「兄上は言えないだろうから、
オレが言ってあげる。
謝罪なんてどうだっていい。
兄上の子供を産んでくれれば、それでいい。
そしたら、元の世界へ帰してあげるよ。
元いた場所、元いた時間に戻れば、
何もかもなかったことにできるでしょ。
もちろん、記憶も消しとくから、心配しなくていいよ」
さっきまでのおふざけ口調なんかじゃない、
国王としての言葉だった。
1ミリの冗談も、混じっていない、本気が伝わる言葉。
「我が国最強の魔術師である兄上の血を引く後継者が、
どうしても必要なんだ」
涼しい顔して、残酷なことを次から次へと…。
それなのに、樹里は不思議とすっきりしていた。
「そういうこと、かぁ」
今の話でようやく腑に落ちた。
おかしいと思ったんだ。
こんないい歳した自分のところに、
三十路過ぎとはいえ、あんなステキな王子様が迎えに来るなんて。
それならそうと最初から言ってくれればよかったのに。
大昔の約束なんて引っ張り出してくるから、勘違いするところだった。
危ない、危ない。
プロポーズなんて人生初だから、
ちょっときゅんとしちゃったじゃない。
騙されちゃダメだよ、樹里。
あくまで後継を産ませることが目的なんだから。
樹里は何度も自分に言い聞かせていた。




