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ロマン・ストーリー 剣に導かれし者たち  作者: 灰庭論
第一章 勇者の条件編
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第二十九話 七人の山賊

 カイドル州の州都へ向かうルートは二つある。一つは海岸線の村々を伝って遠回りする道だ。その道だと王都札の使用が可能なので快適な旅が約束されている。島の北東地域は畑も広大なので食べ物に困ることはないという話だ。


 もう一つは山岳ルートと呼ばれる山脈越えの道だ。どの山もそれほど標高が高いわけではないが、点在する村を見つけるのが難しいので旅行者には難度が高い道という話だ。それでも遠回りとなる迂回路の約半分の日数で州都へ行けるのが魅力だ。


「どうするよ? 俺は近道の方がいいと思うんだがな」


 と山岳ルートを薦めてみた。

 それに対して、ケンタスはまだ決めかねている様子だった。


「戻って来るまで二週間も掛かってしまうところ、一週間から十日で済むなら近道を選んだ方がよくないか?」


 そんなことはケンタスも分かっているだろうが説得を続けてみる。


「別に道なき道を行くわけではないだろう? ちゃんと山岳部族も生活しているというじゃないか。それに『馬で行けないこともない』とも言ってたしな」


 ケンタスが心配する。


「書簡を預かっていなければ迷うこともないんだけど、急流に出くわすと立ち往生してしまうからな。初めての道はやっぱり怖いよ」

「おいおい、ケンよ。俺たちは騎馬隊への配属を目指しているんじゃなかったのか? お前がそんな及び腰で誰が後に続くというんだ?」

「そんなこと言ったって、この任務は速さより確実性を求められているからな。早く着いても書簡を失くしてしまっては、もう二度と重要な仕事は回って来なくなる」


 煽ってみたが、冷静な口調で返された。


「いや、俺はどうしてもジェンババが五倍の戦力差を跳ね返して撤退させた、あの『テノンの奇跡』をどうやって起こしたのか、この目で確かめたいんだよ。どうやって誘い込んだのか、また、なぜ誘い込まれたのか、それをお前だって知りたいだろう?」


 ジェンババがテノンで奇跡を起こしたから停戦協定を結ぶことができたといわれている。


「確かに五十年前の戦争では五千人の兵を山岳ルートに進軍させたんだったな。ということは、当時の行軍の指揮官が行けると判断したわけか。準備を重ねて五千の兵を強行させたなら大丈夫かもな」


 ケンタスの腹は決まったようだ。こうして俺たち三人は山岳ルートから州都カイドルを目指すこととなった。といっても、この日はひたすら田園地帯を進むだけだ。カイドル州、つまりは自国領の国境もまだ先という話だった。


 オーヒン国は都市部に人口が集中しているが、食料を自給するだけの畑があることも忘れてはいけない。話ではとても狭い領土に思えたが、広大な畑を有する北東地域を治めているということは、思ったより大きな国として認識を改めた方がよさそうだ。


 どうやらこれは自治権を持つ荘園の領主がオーヒン国に土地を手放しているから領土が増えていっているようである。その中には借金を返せなくなった領主もいれば、争いに敗れた者もいるだろう。俺たちの知らないところで小さな戦争が起こっているのかもしれない。


「あの馬車、様子が変じゃないか?」


 最初に気がついたのはボボだった。


「確かに不自然だな」


 ケンタスも異変を感じているようだ。


「積み荷の検査かな?」


 俺にはそう見えたのだ。


「畑の真ん中でか? それに検査をする身なりではないな」


 すぐさまケンタスが否定した。


「殴られたぞ」

「急げ!」


 ケンの合図で馬を飛ばす。

 不意の出来事だが、心構えは充分だ。

 三人で何度も繰り返し話をしてきた。

 まず初めに状況確認。


 ――全部で十人。


 被害者と加害者の選別。


 ――被害者三人と加害者七人。


 手にしている武器の確認。


 ――槍が二人、短剣が二人、長剣が三人。


 予備の武器。


 ――弓矢を持つ者がいないので直進あるのみ。


「オレが槍を片付ける。二人は馭者と馬を守ってくれ」


 厄介な槍使いの相手をケンが引き受けてくれた。


「一気にいくぞ」


 ケンに従って突進した。

 躊躇してはいけない。


 ――躊躇えば殺される。


 隙を見せてもいけない。


 ――軽傷が致命傷にも成り得る。


 相手の言葉に惑わされてはいけない。


 ――背後から刺される。


「馬を頼む」


 とケンが先に馬を下りて走って行ってしまった。

 七人の山賊はこちらの動向に気がついて身構えている。

 俺もボボに馬を託して援護に向かう。

 しかし追いつくまでにケンが槍使い二人を死体にしてしまった。


「ペガ、お前は馭者の盾になれ」


 指示を飛ばす間も、ケンは山賊を殺していく。


 ――長剣使いが空振った直後に、相手の喉に致命傷を加えて鮮血が飛び散る。


 向かって来ない相手には、ケンの方から仕掛けていく。


 ――相手はケンの大振りを上段で受け止めるが、その直後に腹をぶっ刺されて死んだ。


 その間に残り三人は怖気づいて逃げてしまった。


 ――それをボボが得意の弓で正確に矢を突き刺していく。


 弓矢の射程外に逃げた足の速い男も助からなかった。


 ――更に足の速いケンが大剣を持って追い掛けていったからだ。


 相手は迫りくるケンに膝を折って命乞いをする。


 ――その行為も虚しく、首を切り落とされてしまった。


 矢の攻撃を受けた二人の男が這って逃げようとしている。


 ――その二人に止めを刺したのもケンだった。


「……ハ、……ナシ、ガ、……チガウ」


 ――それが山賊の最期の言葉だった。


 重いはずの大剣を持って追い掛けてくるのだから、相手にしてみればケンタスは悪魔のように見えたことだろう。命乞いをする相手に隙を与えないところも、俺に言い聞かせていた通りの行動だ。


 結局、ボボが二人の男に矢で傷を負わせたものの、ケンタスが一人で七人全員を殺したわけである。俺は馭者の盾になるように言われたとはいえ、実際は四人でケンの立ち回りを見ていただけだ。


 その昔カレンに『ケンは家に入って来た強盗を躊躇なく殺せるけど、ペガ、あんたはどんな人でも話せば分かると思い込んでいるから殺されちゃうのよ』って言われたことがる。それが俺たち二人の決定的な違いなんだそうだ。


 これはケンタスばかりモテるのが不思議で、その理由をカレンに尋ねたところ、そのような答えが返ってきたのだ。それを聞いて、俺は妙に納得してしまったのだ。爺様や親父たちのタフな生き様を知っているからだ。


 つまり戦争が終わって平和になったように思えても、平気で強盗殺人を犯す輩がいる限りは、いかなる理由であっても、己の命を守れる人間であらねばならない、ということである。


 貴族の中でも知識層と呼ばれる連中のごく一部には『殺されるようなことがあっても、絶対に他人を殺してはならない』などと宣う人たちもいるが、そういう人が市中の警備兵に守られていることを見過ごしてはいけないのだ。


 暴力を受けても犯人が捕まらない世の中で、ケンタスのような人物が望まれるのは当然だ。それでも俺にだって自分たちの命を守る方法はある。それがジェンババを崇拝してしまう理由でもあるのだろう。


「本当にありがとうございました」


 馭者と警護兵の二人がケンタスにお礼の言葉を繰り返した。


「やっと国に税金を納めてきて良かったと思えましたよ」

「流石は王国の兵士だ」

「ああ、ぜひウチの村で働いてもらいたいもんだな」


 当たり前だが、強い男というのは男にもモテるものだ。


「隣村の治安が悪いと聞いていたものでしたから」


 ケンタスは七人も殺した直後だというのに涼しい顔で剣に付着した血を拭っていた。


「いや、春先から急に狙われましてな」

「交易品ばかりやられちゃってね」

「護衛を二人つけて、荷を分散させてもご覧の有様だ」


 色々考えたようだが、工夫ではなく、解決させないと金づるにされるだけだ。


「村の方は大丈夫ですか?」


 ケンタスが気にしているのは、ここから目指す先の治安だ。

 そこで三人が勝手に喋り始める。


「それなら心配いらん」

「奴らは荷物しか狙わないからな」

「そうそう、荷車や馬には手を出さねぇんだ」

「楽をして共存しようとしてやがる」

「でもこれでもう大丈夫だろう」

「全員やっつけたんじゃないのか?」

「ああ、賊の数が七人だから数はピッタリだ」

「そいつは最高だ」

「清々したよ」

「なんのために働いてるか分かんなかったからな」

「ほんとだ。やつら知ってたかのように現れるしよ」

「でもこれで身内を疑わなくて済んだな」


 話が長くなりそうなので太陽を見上げることにした。


「お話の途中ですいませんが」


 ケンタスが俺のサインに気づいてくれたようだ。


「我々は先を急ぐので事後処理をお願いできませんか?」

「ああ、そいつはすまなかったな」


 そこで簡単に自己紹介を済ませた。彼ら三人はこれから目指すツノ村の住人だった。交易をするためにオーヒン国に行く途中で山賊に襲われたようだ。地元の警備兵への報告は彼らに任せることにした。


 手柄を取られる心配はないだろう。殺したことを吹聴して回ると報復として狙われる可能性があるからだ。だから俺たちもわざわざ王都札を見せて身元を明かしたのだ。


 それでも自分たちが山賊を殺したと自慢するなら、村がどうなろうと知ったことではない。自慢する以上は自分たちで勝手に守ってくれ、と思うだけである。


 兵士になるということは、それなりのリスクを伴う。彼らは国の法ではなくファミリーの掟で生きているので、こちらの論理が通用しない場合があるというわけだ。


 ドラコとケンタス、二人の兵士が躊躇せずに、勇気を持った行動ができるのも長兄夫婦のおかげではないかと思っている。


 長兄はオルグというが、人生における大事なことを全部教えてくれたと思う。といっても、悪事に手を染めてはいけないとか基本的なことばかりだ。


 物事を考える時に、どのように考え、何が正しいのか悩む時があるが、突き詰めなければいけないのが、弱者は誰なのか、ということだ。弱きを助け、強きを挫きなさい、と何度も繰り返し教え込まれた。


 しかしこれはこれで難しい問題なのだ。というのも弱者がいつまでも弱者のままでいるとも限らないし、強者がいつまでも強者であり続けるわけではないからだ。だからこそ、情報が命なのである。


「待ってくれ」


 ボボが足を止めた。

 何事か。


「どうした?」

「こちらに向かってくる者がいる」


 ボボから教えられるまで気がつかなかった。


「賊の仲間か?」

「いや、オーヒンの警備兵と同じ格好だ」


 ケンタスが答えた。


「しかし格好だけ真似ているだけかもしれないから、警戒は解かない方がいいな」


 勢いよく馬を走らせているのですぐに追いついて来た。三人一組での行動は王都と同じ原則のようだ。衣服の胸元につけたバッジで階級が分かるのも同じだ。あくまで推察だが、先頭の男は小隊長に相当する位だった。


「我々はオーヒン国・陸軍所属の騎兵隊だ。サイギョク方面の警備を任せられている。これより前に荷馬車を襲った賊を始末したのはお前たちだな? 襲われた者たちが三人とも名前を正確に覚えていなかったので確かめに馳せ参じたというわけだ」


 三人の名前を同時に告げたのでゴッチャになったのかもしれない。


「馬から下りろ」


 ということで素直に従うことにした。初任務の最中に初手柄を立てるというのは悪くない展開だ。こういうのはしっかりと評価されるべきだからだ。実際はケンタス一人の手柄だが、こういうところが三人一組の利点でもあった。


「私たちはこういう者です」


 とケンタスが王都札を見せた。


「どこのどいつかと思ったら、南部の田舎兵士か」


 ん? 南部の田舎兵士?


「まったく余計なことをしてくれたものだ」


 え? 余計なこと?


「ここをどこだと思っているのだ?」


 小隊長の言葉が予想外だったのでケンタスも答えられないでいる。


「通行以外の許可はないのだぞ」


 俺たちは手柄を立てたのではないのか?


「奴隷の分際で剣など振り回しおって」


 やはりオーヒンには俺たちの国のような徴兵制がないということだ。


「身の程を弁えたらどうなんだ?」


 オーヒン国は王都よりも差別が激しいようだ。


「いや、どうやら言葉を理解する頭がないようだ」


 その言葉に他の二人も笑った。


「まあ、よい。まだ子どもということで、今回だけは見逃してやろう」


 手柄どころか、罪人と思われているようだ。


「しかし警告は一度だけだ。田舎へ帰る時は目を瞑って通り抜けるのだぞ」


 これが国民の命を守る男の言葉だろうか?


「そして田舎へ帰ったら、二度と我々の前にその面を見せるな。特にお前だ」


 と言って、ボボの腹に前蹴りを入れた。

 直後にケンタスが隊長に詰め寄ったが、引き止めたのは地面に這ったボボだった。


「なんだ、その目は?」


 ケンタスが隊長を睨み続ける。


「手を出してみろ。二度と帰れないようにしてやるぞ」


 そう言うと、今度は這っているボボの顔面に蹴りを入れた。


「ハハッ、これで少しは笑える顔になったではないか」


 その言葉に他の二人が大笑いした。


「命が惜しければ、この場から去れ」


 ケンタスが呟いた。


「何か言ったか?」


 小隊長がギロリと睨んだ。

 ケンタスが睨み返す。


「死にたくなければ失せろと言ってるんだ」


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