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第十七話(193) ミルヴァの展望

 それから『アニーティア』に変身したミルヴァと一緒にハクタ国へ急いで飛んで行った。まさに降り立つとはこのことだ。ただし人目を避ける必要があったので、着地点は立ち入り禁止区域に指定されている森の中だった。


 それから歩いて新王宮に向かった。到着した頃にはすでに夕暮れ時になっていた。門兵が私たちの到着を上官に伝えると、すぐに中から高官が迎えにやってきて、そのまま王の間へと案内してくれるのだった。


「マルン、わたしから離れちゃダメよ」


 先導者に気づかれないように、ミルヴァが声を掛けた。



「まさか、おいでになるとは思わなんだ」


 玉座に座っているのはデモン・マエレオスだった。衛兵が整列している王の間には椅子が二つしかなく、それは本来ならばマクス国王とオフィウ王妃だけが座ることを許されているはずだ。それなのに、なぜかデモンが座っていた。


「それはどういう意味でございますか?」


 ミルヴァがとぼけた。


「いや、妙に避けられていると思ってな」

「避ける理由などございません」

「では、今日はまた、どういった風の吹き回しで?」

「戦の準備をしていたのは、猊下だけではないのですよ?」

「準備とな?」

「はい。この日のために膏薬こうやくを仕込んでいたのです」

「その膏薬とやらは?」

「それはわたくしが直接お持ちしたいと考えております」


 デモンが笑う。


「自ら前線に赴くと」

「はい。医療兵として志願しに参りました」


 デモンが恐ろしいほどの長いでミルヴァを見つめた。

 見られているミルヴァは、微動だにしなかった。

 傍から見ているだけなのに、身のすくむ思いがした。


「どうやら、わしは貴女を誤解しておったようだ」

「どのように誤解なさっていたのですか?」


 デモンがワインで喉を湿らす。


「初めはシスター・アナジアらを含めて貴女らのことをオーヒン国の手先だと思っていたが、調べてみると、そうではないことが分かった。わしは昔から順調すぎる時ほど慎重になる性質たちでな。なぜこうもハクタ国にとって都合の良いことばかりが起こるのかと気になっていたのだよ」


 彼はミルヴァの魔法を最も身近で体験してきた人物だ。


「今回の出兵計画で最も重要なのは、開戦の期日を決めることだった。それにはエムル・テレスコが都を離れていることが望ましく、まさに明日行われる大型船の記念式典が最適だったのだ。しかし、わしはこれをカグマン国による罠だと思った。ハクタによる奇襲攻撃は、大義の上で再統治へのいい口実になるからな」


 デモンは常に罠に怯えて生きてきたようで、見た目ほど楽ではなさそうだった。


「それで大型船を就航させるに至った経緯を調べたところアニーティア、貴女の名前が出てきたではないか。そこで初めはオーヒン国の味方の振りをしたカグマン国のスパイであると疑ったのだが、最大の功労者であるはずの貴女の名が記録から抹消されておるではないか。それで分からなくなったのだよ」


 新しい七政院に手柄を横取りされたので記録にすら残らないわけだ。


「そこで一度、わしは、アニーティア、貴女を歴史の主役として考えてみたのだ。そうすると面白い具合に話が繋がるではないか。王宮を襲撃させたのも貴女ならば、ハクタ国を独立に導いたのも貴女で、そのハクタ国を戦争で勝たせようとしているのも貴女ではないかとな。オフィウ・フェニックスを操り、貴女の思うままにしてきたのだ。つまり『ハクタの魔女』とはアニーティア、貴女のことだったのだよ」


 デモンが正解を導いてしまった。

 見破られたミルヴァはどうするつもりだろう?

 ハクタの魔女は平然としていた。


「いささか買い被りではありますが、お褒めの言葉として受け取りましょう」

「やはり否定せぬか」

「それで猊下はどうなさるおつもりですか?」


 そこでデモンが立ち上がった。

 殺すなら今しかない。

 しかしミルヴァは身構えることもなかった。

 デモンがゆっくりと歩いてくる。


「アニーティアよ、どうだ? わしと手を組まんか?」


 と、デモンが手を差し出す。


「貴女とわしは境遇がよく似ておる」


 ビーナもミルヴァとデモンが似ていると言っていた。


「国に貢献してきたのはこのわしらだというのに盗まれるばかりだったではないか」


 と、デモンがミルヴァに手を伸ばす。


「貴女こそ、玉座に座るに相応しいお方だ」


 どうするのだろう?

 またこの男に騙されるというのだろうか?

 しかし、ミルヴァは差し出された手を取ろうとはしなかった。

 しびれを切らしたデモンが催促する。


「隣に座るのが、わしでは不満か?」

「いいえ」


 ミルヴァが微笑む。


「わたくしが座りたいのは、こんな歴史のない玉座なんかではありません」


 その言葉に、デモンは大笑いするのだった。


「それでは貴女のために本物の玉座を用意致すとしよう」



 それからミルヴァが「前線に行く」と言い張り、デモンが「貴女自ら行かなくても」と引き止め、「兵士にはわたしの医療技術が必要だ」と言って説得し、「貴女にお任せしよう」と言って、城門まで見送りにきてくれたのだった。


「しかし猊下、ランバ・キグスを前線の指揮から外したのはなぜですか?」


 外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。


「新婚の娘を早々に未亡人にさせるわけにもいくまい」

「そんな理由で?」

「いやいや、本丸はオーヒン国の遠征隊なので、そちらに当たらせたのだ」

「応援が必要になってからでは手遅れになるかもしれませんよ?」


 デモンは暗殺で出世した男なので、ミルヴァは実績を評価していないのだ。


「若きカグマン王が人質の命を軽視するようならば戦は長引くが、おそらくはそうならんだろう。ユリス・デルフィアスのように甘いのだよ。人質を盾にとることを卑怯だと考え、それで歯ぎしりしながら降伏するのだ。その人質にしても百人も必要とせず、十人も捕えれば充分というわけだな」


 戦争にも色々あるけれど、いかにもデモンらしい戦争だ。

 ミルヴァが問う。


「七政院の自治領からの援軍が続々と集まってくるかもしれませんよ?」


 デモンが余裕たっぷりに答える。


「もう既に根回しは済んでおる。貴女も知っておろうが、自治領といっても細かく区分けされており、自治領主の一存では派兵できないのだよ。奴らなど手前の自治権さえ保証しておいてやれば、国王が誰に変わろうが気にも留めんのだ」


 まるで自分のことを言っているようだ。

 ミルヴァが念押しする。


「出兵計画が漏れて、敵に知れ渡っているということはありませんね?」


 デモンが自信を持って答える。


「その心配は無用だ。計画が漏れているということは、こちらが派兵する兵数も知られているということだが、その兵力に匹敵するどころか、半数ほどしか都に駐留していないとの報告を受けておる。どこかに隠しているのではないかと隈なく調べさせたが、どこにも部隊は存在しなかった。七政院の自治領にいる内通者に探らせておるが、戦に備えている様子もないようだ。いや、それはそれで問題なのだがな」


 と言って、呆れたように笑うのだった。


「では、わたくしが都に到着する頃には既に制圧しているかもしれませんわね」

「だから引き留めているではないか」

「それでも兵士の治療は必要でございましょう」

「うむ。真の敵はオーヒン軍だからな」


 ミルヴァの興味がオーヒン国に移る。


「オーヒンの遠征軍に対する勝算はおありですか?」


 そこで初めてデモンが難しい表情をする。


「勝算がなければ始めない、と言いたいところだが、それほど容易ではないだろう。カグマン国を制圧した後、第一陣は娘婿に任せるとして、第二陣は七政院の自治領軍に遠征させようと思っておるのだ。それは南部を再統合する上で兵力を削ぎ落しておく必要があるからな。その編成された討伐軍を第二陣として投入できれば余裕を持って勝利を手中にできよう」


 そうなれば南軍の兵力は圧倒的だ。

 ミルヴァが深刻ぶる。


「その統合された討伐軍の指揮が問題というわけですね」


 デモンが唸る。


「娘婿ではどうにもならんのだよ」


 奴隷上がりの貴族の命令に七政院の兵士が言うことを聞くはずがない。


「動かぬようなら脅迫も辞さぬが、現実的には領土を餌にする他ないのだろうな。しかし領土を拡大させて力をつけてもらっては後々面倒でもあるのだ。終戦後の混乱に乗じて反乱を起こすやもしれぬからな。勝利は揺るがぬが、勝ち方を誤れば、天下も長くは続かないということだ」


 ミルヴァが助言する。


「七政院に拘るから考えが窮屈になるのではありませんか? 何も国政を担う主要ポストが七つじゃなければならないということもございません。いっそのこと倍にしてもいいではありませんか。運輸官や文部官などにも自治領を与えるというのはどうでしょう? 権力を細分化して、一つのポストに占める発言力の割合を低下させるのです」


 同じことをビーナも言っていた記憶がある。


「改革案は大昔からありましたが、残念ながら実行できる者は一人もいませんでした。しかしこれから島が一つになれば、すべての土地が猊下のものになるわけですから、デモン・マエレオスにはそれができると信じております。大陸と張り合うには島から戦争をなくして、すべての島民が豊かになることを考えなければなりません。そのことを理解しているのは現在、わたくしと猊下しかいないのですからね」


 本気だろうか?

 いや、ミルヴァはハトマを女王にすると言っていたはずだ。

 デモンが何度も頷いている。


「アニーティアよ、貴女とは三十年前に会いたかったぞ」


 いや、出会ったけど、あんたが裏切ったんだ。



 デモン・マエレオスと別れてから川辺に移動して、ミルヴァが河原に座って川面に映った月を退屈そうに見ていた。魔法を使えば前線に瞬間移動できるけど、人間と同じ移動速度に合わせなければ怪しまれてしまうから使えないというわけだ。


「ねぇ、ミルヴァ、まさかとは思うけど、デモンにこの島の未来を託したりしないよね?」

「当たり前でしょう?」

「でも、また一緒に協力するような口振りだったから」

「あの男はね、自分に得があるって思わせておかないと危険なのよ」


 よかった。


「あいつはね、背中から刺す男だから、もう二度と顔を合わせない」

「戦争が終わったら殺すってこと?」

「そうね。でも、魔法が効くとは思えないけど」


 私も同じように感じた。



 それから頃合いを見計らって、夜中のうちに移動して、王宮軍が本陣を構えている旧・ハドラ領へと出向いた。そこは王都まで徒歩でも半日で往復できる距離にあるので、ハクタ軍にとっては王都を陥落させるための絶好の位置取りというわけだ。


 旧・ハドラ領は神祇官の自治領だけど、後任のサッジ・タリアスに領土が与えられたわけではなく、王宮襲撃に関与した疑いのあるダリス・ハドラの所在が不明だったため、処遇問題が先送りにされていたようだ。


 多くの町や村は以前と変わらないと聞いたが、領主に国賊の疑いが掛かったため、集団で逃げ出した領民がいたとも聞いた。また、ハドラ神祇官から直接棄村するように指示を受けていたらしく、中には数千人規模の村が廃村になったという話だ。


 そこに目をつけたのが王宮軍だった。廃村となった村に物資を隠して、重たい武器や防具を前もって運び入れることで、開戦に備える兵士の肉体疲労を軽減させたわけだ。カグマン軍にしてみれば、いきなり目の前に大軍が現れた感覚に陥ることだろう。



「おお、シスター・アニーティアではないか」


 私たちの突然の訪問を歓迎してくれたのは王宮軍における最高司令官のリアーム・キンチ将軍だ。モンクルス隊以外の軍人の中で最も功績を立てた人物として有名だ。ガルディア系カグマン人なので血統にも恵まれた軍閥の重鎮というわけだ。


 エムル・テレスコよりも武勲は劣るけど、得た地位はテレスコの州都長官に対して、キンチは最高司令官なので比べ物にならなかった。それもすべてはガルディア系の大貴族出身という出自の違いがあるからだ。


「さぁ、シスター、座って休まれるがいい」


 私たちがいる場所は、ハドラ領の自治領軍が練兵場にしていた軍事施設だ。その中でも最も安全な場所である兵舎の指令室の中にいる。おそらく現場の指揮は別の者に任せているのだろう。


「話し相手がおらず退屈しておったところでな」


 開戦当日の朝とは思えない様子だ。指令室には十以上の椅子があるけれど、今は二人の護衛官しかいなかった。ここで作戦会議が開かれていたようだけど、もうすでにキンチ将軍は仕事を終えたような感じだった。


「わたくしは将軍の話し相手を務めるために来たわけじゃありませんよ?」


 ミルヴァが微笑みながら返答した。


「おお、そうであったな」


 キンチ将軍も余裕たっぷりの表情で返した。


「はい。すぐに発たねばなりません」

「発つとは?」

「最前線を希望しておりますので」


 そこでキンチ将軍の表情が変わった。


「いやいや、待ちなさい。その必要はないのだ」

「どういった意味でございましょう?」

「前線には雑兵しかおらぬからな、治療を必要としないのだよ」

「しかし、オーヒン国との戦争にも備えなくてはならないのですよ?」

「だからといって、貴女もすべての負傷兵を手当てすることはできまい」

「それは仰る通りではございますが」


 ミルヴァは同意しつつも不服そうだ。


「いやなに、貴女には後衛に控えてもらいたいのだ。そこで息子が指揮を執っていてな、レオーノの側にいてもらいたいのだよ。それに愛娘のようにご寵愛を受けているアニーティアを前線へ送ったとなれば、このわしが王妃陛下に何と言われるか分からんでな」


 そう言って、お茶目に笑うのだった。

 ミルヴァが微笑む。


「キンチ将軍は立派なご子息をお持ちですものね」

「ふふっ」


 息子を褒められて嬉しそうだ。


「若い者には戦争が必要だ。レオーノに必要なのは武勲だけであったからな。地位は与えてやることもできるが、戦果だけはどうにもならんでな。まぁ、しかし此度の戦争が終われば、わし以上の地位を手にするのだから、実の親子と言えども腹立たしくもあるがね」


 それを嬉しそうに言うのだった。


「南軍の最高司令官ではなく、全島を指揮するわけですね」

「それでもレオーノには小さすぎるくらいだ」

「ご子息は血に恵まれたのでございましょう」

「ふんっ」


 キンチ将軍がバカにしたように笑う。


「テレスコの息子が盗人になったと聞いたが、驚きはせんかった。そういうところに出自の違いが出るものだからな。優秀な兵士を育てることはできても、手癖の悪さを直すことはできんのだ」


 それからキンチ将軍はエムル・テレスコの悪口を続けて、彼の師匠に話が及ぶと、そのモンクルスさえもこき下ろして、どうして自分の半生が舞台化されないのかと不満をぶちまけるのだった。


「まったく嘆かわしい世の中ですわね。キンチ将軍はレオーノという立派な後継者を育てられた功績があり、それもまた世間に承知されて然るべきなのです」


 ミルヴァが適当に相槌を打ちながらも、強引に話の主導権を握ろうとする。


「そうそう、息子といえば、デモン・マエレオス神祇官の義理の息子さんが今回の出兵計画から外されたと聞きました。しかし、ランバ・キグスといえばドラコ隊の中でも特に指揮能力に定評があると聞いています。前線の指揮を任せるならばキグス閣下が適任だったのではありませんか? いえ、意見するつもりではなく、最高司令官であるキンチ将軍がどのように判断をされたのか伺いたいのです」


 そこでキンチ将軍がミルヴァの方に顔を近づける。


「そなたは、このわしと、マエレオスの、どちらの味方だ?」


 小声だが、威圧感は充分すぎるほど伝わってきた。


「ハクタ国は両閣下のお力なくして成り立ちません。それ故、両者を仲違いさせるような行為や言動は国家に対する反逆にも成り得ます。どちらの味方かと問われれば『マクス陛下のお味方です』と答えるより他ありません」


 そこでミルヴァの方からもキンチ将軍に顔を近づけるのだった。


「しかしながら、北部生まれを信用するには早急すぎるような気もいたします」


 それを聞いたキンチ将軍がこの日一番の笑顔を見せた。


「ふははははっ、誠に賢い女子おなごだ。そなたが初めて王宮に現れた日のことを今でも憶えておるぞ。畑仕事を好む陛下のために、当時としては誰も知らなかった甘芋を献上しにきたのだったな」


 甘芋というのは、ミルヴァが西の大陸で見つけた野菜のことだ。でも、本物を持ってくるのが面倒だからと、王国の畑に植えた山葵大根に魔法を掛けて、甘い野菜だと騙して食べさせているというわけだ。そんなふざけた魔法を思いつくのも彼女くらいだ。


「大陸から渡ってきたというから経験を積んだ修行者だと思ったが、見ると若く美しい少女ではないか。いや、現在の貴女もお美しいが、とにかくその博識ぶりには驚かされたものだ」


 また話が逸れていく。それでもミルヴァは無理には止めようとしなかった。将軍はミルヴァが七政院の領地で起こした奇跡の数々を振り返り、目が不自由なオフィウ・フェニックスに対して献身的な世話をしたことを褒め称えるのだった。


「つまり過去にわたくしがしてきたことと同じことを、現在はデモン・マエレオス神祇官がオフィウ王妃陛下に対して真似されていると、そのようにキンチ将軍には見えているということですね」


 そこでミルヴァが話を戻す。


「それとランバ・キグスを前線の指揮から外したことに繋がりはあるのでしょうか?」


 ミルヴァの会話には魔法が掛けられているので本心は隠せない。


「あの男はわしを恐れているのだ。真の敵は、このわしだと思っておる。北部討伐を成し遂げれば、その地位は不動のものとなるでな。これまでの歴史がそうであったろう? それをレオーノではなく、娘婿に手柄を立てさせたいのだ」


 そこでキンチ将軍が首を振る。


「ふんっ。しかし合併後に七政院の自治領軍を統合して率いるなど、わしの他に誰ができるというのだ? 他におらぬではないか? それでも彼奴きゃつめはこのわしに低頭せぬのだ。奴隷上がりのテレスコにそれができると思っておる。これだから口先だけの政治屋は信用できんのだよ」


 キンチ将軍は一度しゃべり出すと止められない。


「男というのは戦場に出なければ何も得られんのだ。これまでの自分は不遇だったと抜かしておるが、あの男がこれまで何をしてきたというのだ? 遇されないとか、実績に見合わぬ処遇を受けてきたと愚痴をこぼすが、わしから見れば、妥当な評価と言わざるを得んな。それでも高すぎる地位にあるくらいだ」


 それから私たちはデモンの悪口をしばらく聞かされることとなった。



「ハクタはお終いかもしれないわね」


 兵舎を出てからミルヴァが呟いた。


「あらゆる条件で勝っているハクタが負けるというの?」


「定石では考えられないけど、何となく嫌な予感がするの。だってそうでしょう? 目の前の戦に勝利しない限り、その先はないというのに、デモンやキンチ将軍ですら、もうすでにオーヒンとの戦争ばかりに囚われている。しかもそれすら勝った気になって、今から終戦後の権力争いをしているんですもの。これって、三十年前のわたしたちがそうだったのよね」

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