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ロマン・ストーリー 剣に導かれし者たち  作者: 灰庭論
第一章 勇者の条件編
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第十八話 王位継承問題

 ヴォルベの言葉に我が耳を疑った。少年は確かにフェニックス家の家名を口にしたはずだが、そんなことは有り得るはずがない。王家に連なる子息が、俺の目の前で不味い泥水のようなお茶を飲んでいるはずがないからだ。


「驚くのも無理はないけど、フィンスは本当にフェニックス家の正当なる後継者なんだ」


 ケンタスが尋ねる。


「王族の方が、どうしてこのような場所に匿われているのですか?」


 ヴォルベが微笑む。


かくまっていることをすぐに理解できるなんて流石はケンタスだ。それならば話が早い。フィンスと王妃様が隠れなくちゃいけなくなったのは、全部あの悪魔みたいな老婆のせいなんだ。ああ、そう言っても分からないか。悪魔の老婆というのは前王の側室だった女のことさ。前王には世継ぎが生まれなかったのは知ってるだろう? それで弟が王位を継承して現在に至るわけだからね。ところが三十年前に前王が亡くなった後に、その女がオルバ・フェニックスの子を宿したと言い張ったんだ。タイミングといい、何とも胡散臭い話さ。ただし生まれはしたが、それでどうなるものでもない。だって、もうすでに現在の国王陛下が即位していたからね」


 生々しい話をサラッと話す。貴族の子はやっぱり変だ。


「ところが数年前から問題が起こったようでね、それは生まれた子どもが前王にそっくりに成長してしまったということなんだ。それでフィンスに決まり掛けていた王位継承問題が三十年前まで戻ってしまったというわけさ。それだけなら身を隠すことはなかったんだけど、その悪魔の老婆が王宮に出入りするようになってから七政院の官僚が対立するようになったんだ。その一方で失脚させた後の後任候補もしっかり抱きかかえているみたいで収拾がつかないんだ。おまけに国王陛下の体調が優れないのは老婆が毒を盛っているからではないかと思われている。それで王妃やフィンスを匿うようにしたんだけどね。このことは国王陛下にも内緒だよ。だって聞くところによると、もう話せる状態ではないようだからね」


 子どもの話なのでどこまでが本当のことか定かではない。


「ケンタス、お願いだ。僕たちの味方になると約束してくれ。僕たちには一人でも多くの仲間が必要なんだ。フィンスのために戦ってくれたら、いずれは五長官職のポストを約束するよ。だからこの場で誓って欲しい。誓ってくれるなら、今すぐガサ村に行って部隊長になれる試験を受けて欲しいんだ。そうすれば一個小隊を指揮することができるだろう? ドラコだって君と同じ年齢で試験をクリアしたというじゃないか。兄にできて弟にできないなんてないはずさ。あの悪魔の老婆が姿を見せてから遷都の話が持ち上がったって言うし、つまり仕掛けているのはあの魔女なんだ。七政院を分断して、再編するために戦争を始めるに違いない。その時にドラコやケンタスが敵側にいてほしくないんだ。これは王位継承を大義とした、官僚同士の勢力争いになるだろうから、どちらがより多く私兵を集められるかに懸かっているんだ。州が抱えている兵士だって、どちらに寝返るか分からないからね。ケンタスが王都の兵士だろうと関係ないよ」


 ケンタスの表情が険しいので、嫌な予感がする。


「ケンタス、何か言ってくれないか?」


 ヴォルベが不安げに尋ねた。


「では、お尋ねしますが、邸の二階に居られる方は本当に王妃様ですか?」


 その言葉にヴォルベが下を向いてしまった。

 代わりにフィンスが口を開く。


「現在の母上は正妃ではありません」


 ケンタスが頷く。


「失礼を承知でお聞きしたことをお許し下さい。新しい王妃はまだ二十五歳を迎えたばかりだと聞いていたので、現在の王妃陛下はフィンス王子のご母堂ぼどう様ではないと思いました」


 フィンスが謝る。


「試すような真似をして申し訳ないことをした」


 ヴォルベが泣きそうな顔になっている。


「ああ、ケンタス、フィンスは悪くない。全部僕がいけないんだ。何もかも僕が一人で考えたことだからね。だからお願いだよ、フィンスのことを悪く思わないで欲しいんだ。冷たい目で睨むなら、僕の方を見ておくれ」


 子どもは嘘をつくものだ。


「止して下さい」


 ケンタスは冷たい目を子どもに向けるような男ではない。


「許してくれるのかい?」


 ヴォルベが懇願した。


「私は許しを乞われる立場の人間ではありません」

「それなら、僕たちに協力してくれるんだね?」


 ケンタスはどう答えるのだろう?

 俺だけではなく、ボボもケンタスを凝視している。

 全員の視線が集まったところで、ケンタスは首を振った。


「お力にはなれません」

「どうして……」


 とヴォルベが呟いた。


「それは、現在の私たちは国王陛下に仕える兵士だからです。もしもこの場でフィンス王子に誓いを立てたら、主君を裏切る行為となってしまいます。そのような兵士は信用できないではありませんか。私たち平民は逆賊行為を疑われるだけで先祖から受け継いだ土地を奪われてしまうのです。私は長兄の土地を、ぺガスは二人の兄の土地を、そしてボボは、もしかしたら村の土地をすべて取り上げられるかもしれないのです。どうか私たちの事情も察してはいただけないでしょうか」


 幼いフィンス王子の顔が陽光に溶けて輝いた。


「『モンクルスの再来』は兄のドラコではなく、貴方の方かもしれないですね。ここにいる見張り番だって、いつ僕たちを裏切るか分からないのです。ですから、貴方はまず家族を大事にされたわけですよね。とても賢い選択だと思いました」


 フィンス王子は幼い顔をしているのに、態度はやけに大人びていた。


「僕たちは戦争を望んでいません。王位などどうでも良いのです。母上が無事ならそれでいい。そのことに、つい、さっき気が付くことができました。戦場以外で、また会える日が来るといいですね」


 こうして俺たち三人はフィンス王子の隠れ家を後にした。とりあえず町に下りて、役所に行って王都札の清算を済ませないといけなかった。それから今日はガサ村の演習場に行って、俺の兄貴を見つけられれば上出来だ。


 それにしても、これで本当に良かったのだろうか? ケンタスの兄貴のおかげとはいえ、せっかくフェニックス家の縁者と知り合うことができたのに、あっさりと断っちまったからだ。強力なコネを持つことができたというのに、もったいなく感じてしまう。


「なぁ、ケンよ、お前の選択は正しかったのか?」


 州都を出て周りに人がいなくなったので本音を問うことにした。


「悪いが、それは今の段階では判断できないな。でも、できるかどうか分からない約束を結ばなかったというのは正解だったんじゃないか? 相手が誰であれ、あの状況で約束を交わすのは危険だったと思う」


 平原の一本道がどこまでも続いている。


「だってそうだろう? いくら王子や州都長官の息子だって、大人にいいように吹き込まれているだけかもしれないじゃないか。話の裏を取る時間も与えられずに信じろというのは無理な話さ。それに実際はもっと複雑な話だと思うんだ。確か新しい王妃には五年前に生まれた子どもがいたはずで、となると第一継承権はその幼子になる。だとしたらフィンス王子が係わる問題ではないということだ。その前王の忘れ形見と悪魔の老婆とやらにも会ったことはないし、どんな人物かも知らないうちから敵愾心てきがいしんを持つのは禁物だ。というのも、会うことはないかもしれないけど、会った時に変な先入観はできるだけ持ちたくないからな」


 それでも俺としては、二人の印象は悪くなかった。


「二人が騙しているようには見えなかったけどな」


 ケンタスは慎重だ。


「それも分からないな。正室が王宮を出て身を隠しているということは、本来なら考えられないわけで、オレたちではなく、周囲の者をあざむいている可能性だってある。死んだことにしておかないといけないくらい逼迫ひっぱくした状況だったのかもしれないし」


 そこでケンタスが首を振った。


「いや、分からないのは国王も同じか。現国王は国民の前に姿を見せないことで有名だが、その極端な人間不信が戦後三十年に平和をもたらしたとする見方もある。その一方で、実際は豊作に恵まれただけだという見方もあるが。それでも国政に混乱をもたらさなかったので、それだけでも高く評価すべきなのかもしれない。というのも、戦争が終結した年に二人の国王が死んでいるわけだからね。父王は病死で、その嫡男は暗殺されたわけだ。次男の現国王がいなければ、そこでフェニックス家の血筋は途絶えていたかもしれないんだからさ」


 そこでケンタスの表情が険しくなる。


「もっとも、その二人の死に現国王が関与していないとは言い切れないわけで、盲目的に現国王を神格化することはできないけどな。オレたちには歴史の検証すら許されないのだから、これからも王宮内の陰謀など知りようがないんだ。そうなってくると、もう、何を信じていいのか分からなくなってくる。『現国王に誓いを立てた』と言ったものの、それは法を犯していなければの話だし、これだから国王も裁ける『法の下の平等』という概念が必要なんだ」


 現代にそのような崇高な概念は存在しない。ないものを生み出す頭があるからケンタスは天才なのだ。しかしそれを実現させなければ偉人として名前を残せないわけで、この時代にはそう考えている人が一人もいなかった、と後世の人に認識されてしまうわけだ。


 大昔の人も記録に残せなかっただけで、多くの人が挑戦してきたことに違いない。王政や院政が陰謀まみれだと、どうしたって悪事を働く権力者を裁く法が必要になってくるわけで、『王様が法律』では、社会は立ちいかなくなるのが容易に想像できるからだ。


 そのためにも俺たちがまず知るべきは、ケンタスの言う、『三十年前の終戦の年に何が起こったのか?』ということだ。そこに真実が隠されていると思われるからだ。口承ではモンクルスがジュリオス三世との決闘に勝利したことしか語られていなかった。


 同じ年に二人の国王が死んでいるというのに、戦争に勝利したことで有耶無耶になってしまっている。現国王の兄王を暗殺した犯人の動機は謎のままで、一般的には『黒金の剣の呪い』として流布されているのが現状だ。歴史の闇は三十年前の終戦の年に凝縮されているはず。


「なぁ、ケンよ」


 疑問が口に出る。


「こんなこと人前じゃ言えないけど、やっぱり現国王が暗殺の黒幕なのかな? 父親を毒殺して、次に兄貴の暗殺を指示したとか? 噂話すら憚られるけど、考え方としてはまったく不自然じゃないよな?」


 馬上のケンタスが即答する。


「それはどうかな? 事情が分からないから断定できないだけであって、そこまで野心的な人物とは思えないんだ。確かに最終的に玉座に納まったから最大の利益を手にしたように見えるけど、その後はまるで暗殺に怯えているようじゃないか。三十年前といえば、オルバとコルバの二人の兄弟にはまだどちらも世継ぎが生まれていない時期だったからね。その時点で父親と長兄を殺せば、お家断絶も危ぶまれるわけで、わざわざ血筋の流れを悪くするとは思えないんだよな」


 道の先に森が見えてきたので、目的地のガサ村は近い。


「こういうのは二人の父親であるジルバ・フェニックスが即位した時代まで遡らないと因縁が見えてこないような気がする。そうなると、もうオレたちに考えられることはないよ。あとは全部想像の世界になってしまうんだ。ここに来て長兄オルバの子を騙る親子が現れたとしても、すでに次男である現国王が王位を継承しているわけだから、今さら割り込めるとは思わないけどね。顔つきが似てきたというだけで保守層を取り込めるとは思えないからさ。だとしたら、やっぱり終身職である七政院の再編騒動に巻き込まれたか、それともその騒動の首謀者か、そのどちらかだろうな。前者の場合は親子の他に黒幕が存在しているわけだから、それはそれで怖い話ではあるけどね」


 ケンタスの兄貴から情報を得ているだけなので、俺たちに考えられるのはこれくらいが限界だった。その兄貴も中枢から追い出されてしまったので、今後は得られる情報も極端に減っていくだろう。



 それより今はガサ村でウチの兄貴を見つけることの方が先決だ。ガサ村といってもハクタ州の兵士が演習を行う場所なので、税を納めているような村人はいないという話だ。軍隊の根拠地みたいなものだ。


 ガサ村は豊富な森資源に囲まれているので、まずそこで新兵は森で自活する生活を身につける訓練をする。敵対するカイドル国が山岳部族を味方にしていたので、それに対抗するためにゲリラ戦対策として始めたというわけだ。


 上級者ともなると弓矢で小動物を狩ることも求められるようだ。水産物に恵まれている地域なので、弓矢を扱える人そのものが不足しているからだ。こういうのは必要に迫られなければ身につかないものだ。


 ケンタスや俺は馬に乗りながら矢を放つ騎射きしゃを子どもの頃から練習してきたが、そんなことをしているのは俺たちだけだ。といっても、環境に恵まれただけであって、やりたいと思っても始められることではないのである。


 伝え聞いた話だが、『戦争に負けたくなければ地の利を活かせ』というのはジェンババの言葉だ。兵士の質というのは生まれた環境で決まるので、敵を知ることが重要というわけだ。狩猟が得意な山岳部族に弓矢で勝てる半漁半兵はいないのだから、納得だ。


 しかし地形学を理解したジェンババも自陣で敗れるというのだから、何が起こるか分からないのも戦争である。だが、それについては一昨日聞いたばかりなので、もう少し詳しく調べてみたいものだ。



「兵舎が見えてきたぞ。あれがガサ村じゃないのか?」


 森の中にある道が、両端の高い木でアーチ状になっており、まるで緑の洞窟にでも入ったかのような感覚だ。それほど深い森なので、光が差し込む出口が見えた時には、ほっとすることができた。


「どうやら森の真ん中に中庭を作る感じで切り開いたわけだな」


 ケンタスの言う通り、森を抜けると大きな二階建ての兵舎が四棟ほど建っているが、その周りは木々に囲まれており、突当りにまた森を抜ける洞窟の入り口みたいな穴が開いているので、まるで浮き島にいる感じだ。


 兵舎の他に厩舎もあり、周遊できるトラックも造成されていた。王都の徴兵は公共事業に駆り出される者の割合が多いが、ハクタ州は倍の人口があるので、見込みがありそうな新兵はどんどん精鋭部隊へと育てられていくというわけだ。


 ヴォルベとフィンスに触発されたわけではないが、仮に王都にいるカグマン軍と遷都先のハクタ軍の全面戦争になったら、どちらが勝つのか気になった。おそらくだが、合同練習で隊列の組み方しか教えないカグマン軍の惨敗で終わることだろう。


 王宮では新兵に歴史を必死になって擦り込んでいるが、歴史そのものをひっくり返されたら、すべてが無になるかもしれない。カイドル国の歴史が三十年前に抹消されたように、俺たちにだって同じことが起こるかもしれないというわけだ。


 島の覇権を懸けた戦争は終わったが、内戦が起こらないという保証はないのだ。王都が制圧されたら兄貴の土地まで奪われかねないわけで、王都の連中は危機感が足りない、とトラックで走り込みの練習をしている新兵の姿を見て、俺はそんなことを考えてしまった。


「あれはカニス・ラペルタじゃないか?」


 最初に気がついたのはケンタスだった。目を凝らしてみると、確かに走り込みをしている新兵の中にカニスが混ざっていた。他の連中は知らない顔なので、ハクタ兵の演習に混ざって陣営隊長の息子が参加しているということだ。


「向こうも気づいたみたいだぞ」


 まだ休憩の合図が掛かってもいないのに、アイツだけニヤニヤしながらこちらに向かって歩いてきやがる。下級といえども、貴族の次男坊様だとキャンプ地の教官では厳しく指導できないようだ。


「よおっ、やっと到着か」


 とカニスは俺に話し掛けてきたため、ここは俺が相手をしなければならない。


「どうしてここに?」


 バカにしたような顔で説明する。


「自分たちだけが特別任務を受けたと思ったか? 残念ながら俺たちも受けているんだよ。まぁ、俺の場合は部隊長になるための試験だがな。といっても、試験を通るのは決まったようなもんだし、お前らが任務を終える頃には階級が変わってるだろうよ。いや、本当はもう試験が始まっててもおかしくないんだけど、俺の前に受けている奴らがモタモタしてるから、こっちはグラウンドでひたすら走らされてるんだ。何でも馬が暴れてからおかしくなったっていうからな。まったくさっさと始めてほしいぜ」


 親元を離れて寂しいのか、今日のカニスは妙にれしかった。それはいいとして、異変が起こったのは知っているが、依然として原因が分かっていないようで、そちらの方が気になった。


「ウチの兄貴、といっても顔までは知らないと思うが、王都から来た牧夫を見掛けなかったか? 三、四日前には着いているはずなんだ」


 カニスは興味なさそうだ。


「知らねぇよ。いや、馬主が揃って森の中へ探しに行ったっていうから、その中にいたんじゃないのか? でも、誰一人戻って来た人はいないっていうし、お前の兄貴も森の中で死んでるかもな」


 そう言って、大笑いするのだった。


「よく他人事のように笑えるな。お前だって試験を受けるんだろう?」


 とケンタスが我慢できずに、俺の代わりに声を上げてくれた。


「だからさっきも言ったろう? 俺はわざわざ試験を受けなくても既に受かったようなもんなんだよ。それより自分の心配でもしとけよ。お前たちがチャクラに寄り道したのはバレてるんだからな」


 そう言って、カニスはダラダラとした足取りでグラウンドへ戻って行った。あんな奴が貴族の息子というだけで一般試験を受けずに昇進してしまうのが、戦後における王都の昇進システムである。


 数年後、俺たちはアイツが騎馬隊長として指揮を執る騎兵隊に配属される可能性があるのだ。それで戦争にでもなったら、あんな奴に命を預けて命令に従わないといけないのである。それが兵士の鉄則だからだ。


 想像してほしい。まず、自分の周りにいるバカを思い浮かべる。そいつが上官にいて、アホな計画を立てて、自分は安全な所にいながら、俺には無謀な突撃を命じるのだ。これは笑い話ではなく、俺の人生で近い将来に起こり得る現実なのだ。



「ぺガ、ぼうっとしてないで見つけに行くぞ」


 ケンタスに声を掛けられて我に返った。


「見つけに行くって、兄貴をか?」

「当然だろう」

「いいのか? 捜しても、いつ見つかるか分からないぞ?」

「だから行くんだろう」

「任務はどうする?」

「ペガだって、そんなのどうでもいいと思ってるんだろう?」

「俺はそうだけど、そういうわけにもいかないだろう」

「オレを見損なうな。クトゥム兄さんを見捨てて何が兵士だ」

「すまんな」


 ケンタスが俺を睨みつける。


「それは違うぞ。オレはペガのために行くんじゃない。クトゥムさんに報いるために捜しに行くんだ。オレは今まで兄さんには恩を返しきれないほど世話になってきたんだ。だからペガが謝るというのは、ただの思い上がりだ」


 こんな時でも思い違いをしてしまうのが、俺の直さないといけない部分だ。


「ただ、ボボには付き合わせて申し訳ないと思っている」


 ボボは相変わらず無表情だ。


「ケンタスよ、それはそれでお前の思い上がりだな。オイラたち三人は心を一つにしたはずだ。オイラにだけ謝るというのは、お前の中に心が二つあるということだぞ」


 珍しくケンタスがさとされた。入隊前なら俺がケンに一方的に駄目出しされて会話が終了するのだが、ボボと出会ってからは自分の言葉が一周して帰って来る感覚がある。これこそ、俺たち二人に足りなかった部分かもしれない。


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