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血の花

名も無き物語シルファディア編の一部のお話です。


魔王編→IGO編→勇者編→シルファディア編→時の街編

             ↑

             ここ







 床一杯に散る真っ赤な血の花は

 幼い少年の希望と絶望、苦しみと葛藤に溢れていた








 世界には表と裏がある。


 俺達が住んでいる世界の裏側には別の俺たちがいて、俺達とは違う道を選び、生きている。


人はこれを「世界線」と呼び、無限に広がる世界線を持つこの世界を「確定世界」と呼んでいる。


 確定世界の世界線は「時の神」に管理されており、「時の鎖」により互いが干渉し合わないように調整されている。


 時の神は「時の街」と呼ばれる時空間に直接浮遊する大陸に存在し、その一族と神力を保持する一部の確定世界人と共に確定世界を見守っている。


 確定世界を監視するということは、少なからず確定世界に干渉しなくてはならない。


 彼らは必要以上に確定世界に干渉することのないようにあらかじめ関わる確定世界人を決めているらしい。


 それがたまたま俺たちだったということ。


 いや、たまたまアイツを助けたのが俺たちだったというか。


 そんなわけで俺たちは一方的とはいえ時の神族と交流があり、俺はこの邸宅で優雅な午後を過ごしているわけである。


 いつもは俺の他にセット商品でもあるかのように姪孫のメイやらレミやらも一緒に呼ばれるのだが、今日は依頼主がいつもと違うからだろう。俺だけが呼ばれた。


 まあ、あのうるさい姉妹から解放されてゆっくりできるのは喜ばしいことだが。


「ねえ、バブ」


 そんなことを考えながら手元の本に目線を落としていたら、突然依頼主の顔が割り込んできた。


 彼女の名はユリナ。

この星の南半球最大の国「シルファディア王国」の王族で、第一王位継承者だ。


 だがシルファディアは御家騒動が絶えず、彼女の周りも敵だらけになってしまった為、こうして伯母のいる時の街に亡命してきているのだ。


 整えられた端正な顔立ちに重量感あふれる胸、引き締まったウエストにすらりと伸びた長い足。

そのモデルのような容姿は、普通なら世の男が放っておかないだろう。

だが中身が残念な為コイツに近づく男はあまり居ない。


 彼女はその艶やかで長い深海の青をふわりと靡かせ、混血の証である赤みがかったブラウンの大きな瞳をパチパチとさせながら縋るように俺を見た。


「何だよ、ユリナ」


 うるさい姉妹とよく似た属性を持つコイツがこういう顔をして呼ぶ時はロクなことがない。

最大限に迷惑そうな顔をしてみせたが当の本人は気にもせずに話を続けた。


「あのね、リームがシルファディアに行ったきり帰ってこないの。迎えに行ってくれない?」


 何を言い出すかと思えばそんなことか。


 リームとはコイツの従兄で、確定世界を見守る時の神の三男である。


 俺はユリナの「お願い」を聞くやいなや、何事もなかったかのように再び視線を本に落とした。


「ま、そのうち帰ってくるだろ」


 俺は本と俺の間に割り込むユリナを避けながらそう言うと


「そのうちじゃ駄目なの!あの人がいないと仕事が進まないんだから!」


 ユリナは避ける俺を遮るように、ずいと顔を突き出した。

 …くそ、全く面倒な女だ。


「あーあーわかったよ!迎えにきゃいいんだろ?」


 俺は観念したように深いため息を一つつくと、ユリナはその答えを待っていたと言わんばかりに満面の笑みを返した。


「じゃあ、ミラノを連れていってね!」


 ユリナは胸の前で両手を合わせて微笑む。

しかし、俺は先程の答えとは別の感情に支配されていった。


「ミラノが居るんならミラノに行かせろよ!」


 俺は頭の中を瞬時に支配していった感情を遠慮なく吐き出す。

 どうしてコイツは家の都合に他人を使いたがる?


「十歳の女の子を一人で行かせろっていうの!?」


 ユリナはあり得ないと口を尖らせてみた。


 確かにユリナの言うことは正論だった。

ミラノとはユリナの従妹で、リームの実妹である。

シルファディアは治安の悪い国では無いが、十歳の幼女を一人でうろうろさせるには些か不安が残る。


 反論の術が無くなった俺は、腹いせにユリナが嫌がる根本的な解決策を投げつけた。


「…っていうか、お前が行けよ」


「あたしが行けないから頼んでるんでしょ!?」


 おお、怖い怖い。まさに「顔色が変わる」といった感じだ。


 基本的にコイツに「シルファディア」はNGワードである。コイツにとってシルファディアは悪の権化以外の何者でも無いのだろう。


 こういう反応が返ってくることは分かっていたが…やっぱりこの女に関わるとロクなことがないな。


「分かった分かった。で、ミラノは…」


 何処に居るんだと聞こうとしたら、背後のドアがガチャリと開いた。


「行きましょ?バブ君」


 そこには身長に不釣り合いな長い棒を持った幼い少女が立っていた。ミラノだ。


 俺と一緒にシルファディアに時空転移してもらうためにユリナが予め声をかけていたのだろう。


 彼女は向日葵の花弁のような濃い金髪を肩の辺りで緩く結い、向日葵をモチーフとした髪留めで纏めている。まだ幼さの残るその顔は、いつも憂いに満ちていた。なんと言うか、人生に疲れたような顔だ。


 そんな十歳の少女が持つ長い棒は「時空の棒」と言い、時の街の連中が時空転移する際に使う時の神の加護を受けた特別なものだ。ミラノの背丈くらいあるそれの先端には時の十字架と呼ばれる銀色の飾りが付いている。


「じゃあ、よろしくね!」


 気の早いユリナはそう言うと右手をひらひらと振ってみせた。

どうしてコイツはこんなにも呑気というかマイペースなんだろう。

ほらみろ、ミラノも呆れ顔だ。


「じゃあ、いきますよ!」


 気を取り直したミラノは静かに呼吸を整え、慣れた手つきで時空の棒を扱う。

棒の先端がまばゆく光り、瞬時に拡張した。ふわりと体が浮くような不思議な感触。

刹那、意識が遠のいていった。


上も下も無いぐにゃぐにゃした空間を漂うような感覚から戻ると、そこにはシルファディア城下町の風景が広がっていた。


 シルファディア王国の立国者ユリアナは気難しく思慮深い人だったと伝えられている。


 そのため、この街には彼女が遺した「術式」と呼ばれる呪術が今も尚、その効果を発している。


 世界には「魔力」とよばれるエネルギー源がある。

それはエルフや混血のヒト、稀に人間が体内に持つ潜在的なものだ。


 しかし現在ではその力を引き出し物理的なエネルギーとして利用するいくつかの手段に成功している。

 一つは確定世界で最もメジャーであり、エルフの住むこの南半球では一般家庭にまで普及している「ドレンド・ビーグ」だ。


 これはひし形状の金具で、中央にミドルフォースと呼ばれる魔力の結晶がはめ込まれている道具である。

このミドルフォースがヒトの体内に潜在する魔力を引き出し、物理的なエネルギーに変換する変換器の役割を担っている。

この道具は、割と最近あるエルフによって開発されたものだ。


もう1つは術式。

術式とは地面に描かれた陣を媒体に悪魔と契約し、魔力を具現化する方法である。


 基本的に○○国の術式というように国単位で代々受け継がれるものだが、悪魔と契約するという点で陰湿な手段として忌み嫌われており、それ自体が廃れてしまって残ってない国が殆どだ。


 使い方は地に魔力をこういう風に行使しますという一切の内容を陣で記し、悪魔と契約する。

 もちろんそこに書かれていないことはできないし、契約破棄もできない。つまり術式は強制的に解除することはできないという意味である。


 しかし、契約書に初めから「こういう事を行った時はこの術式を解除します」という旨を記しておくことはできる。

これを「解除キー」と言う。術式の中には初めからこの解除キーが決まっているものもある。例えば、声を出したら術式が解けるとか。


 「解除キー」を設定していない術式は、術者が死んでも永遠と効果を発し続ける迷惑な代物となり果てる可能性が高いため、現在では術式使用時に「解除キー」を埋め込むことがIGC…法律で決まっている。

 しかしこれは一部の術式研究家が長い年月をかけて最近ようやく編み出した技術のようなものであり、女王が生存していた頃のような大昔には「解除キー」など存在せず、ユリアナの術式は術者を失っても呪いのように発動し続けている。


生前女王は国や自分を守るため、様々な術式を複雑に仕掛けていた。

その際たるものが「アンチマジックゾーン」と呼ばれるものである。


 この術式の陣内では、一部分を除き一切のエネルギーを具現化することができない。

これがシルファディアのほぼ全土を覆っているため、基本的にシルファディアでは魔力具現化手段は使用できないようになっている。


例外としてこの術式の陣にある五芒星の頂点に位置する部分には術式の「穴」があり、そこでは魔力を使用することができる。


 …が、そういう場所は当然国が直轄しており一般人が立ち入れる場所ではない。

もちろんユリアナも外敵に隙を許すはずもなくアンチマジックゾーンの「穴」を利用し沢山のトラップ術式を仕掛けている。


 そんなわけで俺たちが着いたこの場所もアンチマジックゾーンの外、つまり町の外れである。


 俺は遠くそびえるシルファディア城をぼんやりと眺めながらミラノに聞いた。


「リームが何処にいるのか知っているのか?」


 よく考えたら行き先も聞かずに出てきてしまった。


「図書資料室で探し物をしてるはずよ。」


 シルファディア図書資料室…城内じゃないか。

ここから大分あるな。

はやく呼びにいかないとまたユリナがうるさいだろう。

ミラノもそう思ったのか足早に城の方に向かって歩き出した。


「バブ君とこうして並んで歩くの、何年ぶりだろう。」


 彼女は空を仰ぐように見上げて言う。


「…そうだな」


 ミラノは生まれこそ時の街だが育ちは確定世界である。

俺たちは幼いころよく三人で遊んでいた。昔は兄貴の背中に隠れるだけの鼻タレだったが本当に立派に成長したと思う。

色気は無いが。

これからに期待か。


 俺はミラノの隣を歩き、二人は無言で町の中を抜けて行った。


「なあ、ミラノ」


 先に沈黙を破ったのは俺だった。


 突然声をかけられたミラノは驚いたようにこちらを見た。


「ユリナはいつもあんな感じなのか?」


 自分勝手に周りを振り回すユリナと、いつも一歩後ろで黙って見守るミラノ。


 この従姉妹は本当に正反対だ。


 そういや昔リームが言ってたな。「耐えて自分を守ったのがミラノで、耐えられずに壊れたのがユリナ」だと。


「ユリナさんはずーっとあんな感じよ?」


 俺の問いにミラノは愛想笑いで答えた。


 返答に困ったときや答えたくない時にこの困ったような作り笑いをするところは、本当兄貴にそっくりだな。


 俺はミラノの過去を知っている。

ミラノの育った国トレインアイドと俺の育った国タルトールは途中から交戦状態となり、俺達は敵対関係になってしまった。

その上戦略のコマとして王族に仕立て上げられたミラノ達は国内部の分裂を引き起こし、末期のトレインアイドは内乱と戦乱で本当にメチャクチャだった。

 本当に不憫な女だ。唯一の救いは、信頼できる兄がいたこと。


 街のはずれから歩き出し、馬車に乗り列車に乗ってたどり着いたそこがシルファディア王国の中心、シルファディア城だ。

 なんでこんなメチャクチャな世界観になっているのかというと、この国は互いの文化を守るため形式上絶縁状態にある北半球、つまり人間界と交流があるからだ。


 エルフは魔力という素養を持って生まれるかわりに人間のように恵まれた頭脳は持たないことが多い。

つまりエルフの頭は人間に比べて全体的に残念なのだ。

人間の三世代くらい前の生活をしていると考えてもらっていい。

馬車や家畜が闊歩し、舗装されてない土の上で露店を営むのが当たり前の世界である。

車もなければスマホも無い。

こんなこと言ってるが南半球のごく普通の国出身で南半球から出たことも無い俺も詳しくは知らない。

パソコンだけはリームに見せてもらったことがあるが。

まあリームたちは南半球だけを見守ってるわけではないだろうから北半球のこともよく知っているのだろう。


だが、人間界と唯一繋がる列車の駅があるシルファディアには公式だったり闇だったりする人間がよく自分たちの技術を売りに来ているのだ。

だからこんなカオスな街になってしまっている。

ちなみにこの列車システムはすべて人間からの借り物であり、シルファディア以外の南半球に駅も線路も無い。


 人間達はおバカなエルフ達のお粗末な生活レベルを鼻で笑い見下していたが、この地に初めて訪れた人間達は魔力で浮遊するこの国にたいそう驚いて、駅と列車システムを置かせてくれと訴えてきたらしい。

浮遊大陸であるシルファディアに列車を通すには当然線路を魔力で浮遊させる必要がある。

これは当時一大プロジェクトだったらしく、最初で最後の魔力と技術による夢のコラボレーションを実現させた代物である。

もちろんシルファディア城下町中心部はアンチマジックゾーンであるため魔力を使った線路敷設ができない。

そのため大陸の端から螺旋状に緩やかに降下していく作りになっている。

もし、乗るなら酔い止めを飲んでおくことをオススメする。

俺は乗ったことないが。


 最初で最後というのは人間とエルフがこれを機に和解すると、我々エルフが歩く燃料タンクとして人間たちにいいようにされることは目に見えていたのでシルファディアのみを交流の地として残し、その他は今まで通り干渉しあわないような条約を赤道に位置する中立の国際機関、IGOを仲介として結んだのだ。


 シルファディア城の城身は天に突き抜け、城の上層部を雲に隠している。そのためその全貌を眺め見ることはできない。


 俺達はそんな巨大な城の足元で、開放された城門を潜った。入城手続きを済ませ、図書資料室に向かう。扉を開くと、そこにはドーム状の巨大な部屋が広がっていた。


 一体ここにはどれくらいの書物が収納されているのだろう。そう思えるくらいぎっしりと中身の詰まった本棚が所狭しと並んでいた。


 部屋は本棚が並ぶゾーンと、本を読むための閲覧ゾーンに別れていた。どちらのゾーンも本を読みに来た沢山の民衆で溢れ、とても人探しどころではない。


「お、おいミラノ、ここを探すのか!?」


 こんなところを探していたら、日が暮れるどころでは済まない。気が遠くなるような作業に俺は思わず顔がひきつった。


「大丈夫よバブ君、お兄ちゃんはいつも決まった場所にいるから。」


そう言って彼女は渦巻く民衆の波を掻き分けながらテキパキと歩いた。


 資料室の隣は中庭になっており、そこには本を読みに来た人が気持ちよく読書できるように人工太陽が設けられていた。

ここでは魔力は使えないのでこれも人間が技術を用いて作ったものなんだろう。


資料室内部も中庭で輝く太陽の光を沢山取り込めるように大きく作られた窓が沢山並んでいる。


 その大きな窓が並ぶ特等席のような場所の一角に、そいつは座っていた。


「お兄ちゃん!」


 ミラノは満面の笑みで兄の元へと駆けて行く。


「あれ、ミラノ…どうしたの?」


 突然の妹の出現にそいつ、リームは驚いた顔でそう言った。


 リームは肩にかかるくらいの色素の薄い空の青をふわふわとさせ、やっぱり色素の薄い肌に、赤みがかった濃いブラウンの大きな瞳を不思議そうに見開いている。


 流石従兄妹と言うべきか、顔はユリナそっくりの美女顔だ。


「あれ?じゃねーよ、このタコが」


 俺はきょとんとしているリームに容赦なく罵声を浴びせる。

 お前のせいで俺はこんなところにいるんだけど?


「バブさんまで…こんなところに何用ですか?」


 呑気に微笑みながらそう言うリーム


「ユリナがお前を呼んでるんだよ。ほら、帰るぞ」


「あ、ちょっと待ってください」


 リームはそう言うとなにやら忙しそうに荷物をまとめはじめた。


「あ?」


 俺は怒りのボルテージを静かに上げる。


「すいません、城内の知り合いに挨拶してきてもいいですか?」


「お前俺に殴られたいらしいな」


 空気を読まずに悠長なことを言うこいつを殴り飛ばしたい衝動を抑え、俺は喉まで込み上げてきたイライラに声を震わせながら静かに言った。


「すぐ戻りますんで…」


 俺の怒りを愛想笑いで流しながらリームはミラノの傍に駆け寄った。

 全くユリナといいコイツといい、俺を苛立たせるプロなんだろうか。

 …仕方ない。引っ張って帰ろうにも俺には時空転移の術は無い。

俺はとっとと行ってこいと言わんばかりに顎で出口を指した。


「行こう、ミラノ」


 リームはそう言って優しく妹の手をひいた。


「え?ええ、うん」


 兄の予期せぬ行動にミラノは思わず戸惑う。

きっと自分もここで留守番する係だと思っていたのだろう。


 コイツ等の母親は元・シルファディア王国第一王位継承者という生粋のシルファディア一族だ。

城内に親しい知り合いの一人や二人居るのだろう。

まあ親の行動がアレすぎた所為でここではデカイ面下げて歩けないようだが。

 ミラノは俺とリームの顔を交互に何度か見ていたが、やがて兄の後ろに隠れるように付き添い二人は資料室を出ていった。


 …暇だな。


 ふと、机の上にあるさっきまでリームが読んでいた本に目線を落とす。


 『シルファディア歴史書』


 あいつこんなつまらなさそうな本を読んでいたのか。


 こんなのでも、あいつらが帰ってくるまでの暇潰しにはなるかもしれない。

そう思いながら立ったままペラペラとページをめくってみた。


 『~シルファディアのはじまりとなりたち~

 シルファディア王国はメディナという一人の少女が築き上げた大国である。彼女は当時未開発だったこの浮遊大陸に、数人のヒトを連れ不思議な術で渡ったとされている。』


 …メディナ

 ユリアナ女王のことだ。

 『彼女はこの地を「シルファディア」と称し、自らの城を構え様々な制度・法律を作成していった。』

 未開発の地にいきなり城建てて国作るなんてぶっ飛んでるな。


 ちなみにこの頃はIGOが無かったので、各々の国が好き勝手に法律を作っていた。


 『メディナによって作成された国の機能は順調に働き、やがて彼女の不思議な術で作られたこの大陸と下の世界を繋ぐ光の橋を介して沢山の人が移り住んでいった。これがシルファディアの始まりである。』


 …光の橋。


 俺たちの国タルトールの北東に位置する姉妹国ミルタール。

 その国の敷地内にシルファディアへの移動用の術式がある。


 いつ、誰が何のために展開したものなのか謎だったが、ユリアナ女王だったのか。


 しかしなぜミルタールに…その前後のページをペラペラと見てみたが、配置された場所や理由などは載ってはいなかった。


 俺はいつしか座り込み、つまらなそうだと思っていたその本を熱心に読み耽っていた。


 シルファディア入門書のようなこの本は、ユリアナ女王の人となり、世界一の大国となった歴史、主産業や特産など、様々なシルファディアの情報を広く浅く語っていた。


 『そして女王は十五年という短い人生に幕を下ろすことになった。』

 最後はユリアナ女王の生涯を語って終わっていた。

 しかしそれは生涯と言うにはあまりにも短すぎる内容。


 俺はふと違和感を覚えた。

 十五年…。


 ユリナはユリアナ女王の直系血族だと聞いている。

 彼女は子孫を残しているはずなんだが?


 本を睨むような険しい顔でそんなことを考えていたら


「そんな怖い顔してなに見てるんですか?」


 突然不思議そうな顔をしたリームが視界に割り込んだ。


「おまっ…驚かすな!」


 机の横に屈んだリームが覗き込むように俺を見る。

 まさにアレだ。メイとかが子供の頃に持っていた精巧な人形。


 俺はいつも思う。

こいつは性別を間違えて生まれてきたんだと。

 本人も地味に気にしているので、言うと怒る。


「ほら、帰りますよ!」


 リームは屈んでいた足腰をのばして立ち上がった。

 後ろには玩具のオマケのようにミラノがくっついている。


「おまえな…」


 椅子に座っている俺より目線が高くなったリームは清々しい顔で俺を待っていた。


 一発殴ってもいいだろうか?


 これ以上こいつの天然に付き合って怒りを募らせると吐血しそうだったので、無視してさっさと帰る支度を始めた。


支度が終わると俺達は三人で城をあとにした。




 * * *




「ただいま」


「きゃっ…もう!びっくりするじゃない!この下手くそ!」


 時空転移したその先はユリナの目の前だった。


 普通時空転移は術者が決めた座標に力をコントロールして現れるようになっているらしいが、リームはそれが恐ろしく下手くそである。

人の真ん前に現れたり、塔の天辺に現れたりと、とにかくハチャメチャである。それに対してユリナは物凄くコントロールが上手いらしい。


「ユリナさん、ユリナさん、なにそれ」


 険しい顔つきで指差すリームの先には、フリルのエプロンに身を包みポニーテールで高く髪を纏めた可愛らしいユリナ…と、その手に握られた鍋の中でうねっている可愛くない物体。


「クリームシチューよ。食べる?」


 ユリナは満面の笑みで答える。


 赤褐色のクリームシチューが何処の世にあるのだろうか。本気で言っているのなら目が頭がおかしいとしか思えない。


 俺はリームの半歩後ろで腕を組み状況を見守ることにした。


 するとリームはユリナの手から鍋を取り上げ、それごとゴミ箱に捨てた。


「ちょっと!なにするのよ!」


 渾身の作品をいとも簡単にゴミ箱に運ばれたユリナは不服そうに反論する。


 その目にはうっすら涙。

マジかコイツ…


「食べ物で遊ぶのはやめなさい」


 リームは呆れた顔でぴしゃりと言う。


 ユリナも遊んでたつもりではなかろうが、結果、ゴミ箱行きである。


 もはやユリナの料理という行為=食べ物で遊ぶという方程式が成り立ちそうである。


「君も少しはミラノを見習ったら?」


 リームは脇に立っているミラノをちらりと見ながらそう言った。


 さらっと妹の自慢を挟まれた上に渾身の作品を捨てられたユリナは何か反論しようと口を開いたが、言葉が出らずに口をつぐんだ。

一方ミラノは対照的に凄く嬉しそうだ。点描とんでてもおかしくない。


「で?何か仕事があるんじゃなかったのか?」


 めんどくさいことになりそうな雰囲気だったのですかさず俺は2人の間に割って入った。


「その前にお腹すいたー!折角作ったのにリームが捨てた!」


 駄々をこねるユリナ。今時子供でもこんなヤツ居ない。


「はいはい作りますから邪魔にならないようにあっちいってて」


 リームは冷たくあしらうと、俺たちに背を向けさっさと料理をはじめた。


「なによー…行こう、バブ」


 ユリナは口を尖らせてそう言うと、俺の服の裾を引っ張る。


「俺はリームと話があるから、ミラノとあっちいってなさい」


 黙ってはいるが実はミラノ、この正反対で自分勝手な従姉が大嫌いである。


 ちらりとミラノの方を見ると、あからさまにヤな顔していた。


「はーい。行こう?ミラノ」


「う、うん」


 部屋内に微妙な空気が流れる。

…が、ユリナがあの調子で空気を読めないのか読まないのか分からんがとにかく気にすることなく声を掛けたため、そのままミラノが流される形で落ち着いた。

こいつらが隣の部屋で二人きりでどんな会話するのかを考えると、何となくいたたまれない。


 二人が部屋を出ていったのを見計らうと、リームは深い溜息をついた。


「あの子はどうしてああなんだろう」


「ははは、お前保護者みたいだな」


「勘弁してくださいよ」


 笑い飛ばす俺を睨みつけるリーム。

 気がつくとこいつはいつもユリナの側にいて、彼女の足りない所をフォローしていた。


 こいつがユリナに対して抱いてる感情がいまいちわからない。

手に入れたがる風でもなければ、見捨てる風でも無い。

ただ隣に居るだけ。

「面倒見のいい兄」もしくは「良い父親」そんな感じだ。


 そんなことを考えながら忙しなく昼御飯を作るリームの後ろ姿をぼんやりと眺めていたら、ふと先程のシルファディアの歴史書の事を思い出した。


「なあ、リーム」


 不意に呼ばれたリームは作業の手を止め振り返る。


「今日シルファディアでお前の読みかけてた本を読んだんだけどさー」


「はい」


「その本にはさ、ユリアナ女王は十五才で亡くなったって書いてあったんだよなー」


「はあ」


「ユリナはユリアナ女王の直系の子孫なんじゃないのか?」


 俺の質問が進むにつれ、段々リームの顔が険しくなる。


 最後の質問には返事すらせずに俺に冷たい眼差しだけぶつけると、再びこちらに背を向け中断していた料理をはじめた。


 何なんだこいつのこの態度は。


 いつもそうだ。

シルファディアの話になるとすぐそうやって黙る。もしくは…


「おい」


 俺は強い口調で声を掛ける。


「そういえば…今日メイさん達どうしたんですか?」


 こいつには珍しく少し大きな声で俺の台詞にかぶせてきた。


 さっきまでの話などなかったかのように強引に話題転換を図る。

 そのに手には乗らん。


「クソめいのざるのハナシとかどうでもいいから俺の質問に答えろ」


 俺はさらに強い口調でリームに問う。


 端からみたら喧嘩してるように見えるだろう。リームは手を止め背を向けたまま黙っている。


 ―暫くの沈黙。


「シルファディアが…何ですか?」


 料理を再開しながら観念したようにボソっと呟くリーム。

はじめからそうしろよ。


「ユリナはユリアナ女王の直系じゃないのか?」


 俺はもう一度質問を投げた。


「直系ですよ。」


「女王は十五歳で亡くなったらしいじゃないか」


「そうですね」


 淡々と返すリームに段々イライラする俺。


「だったらユリナは何の直系なんだよ!」


「シルファディアですよ」


「十五歳だぞ!」


 俺は思わずテーブルを叩きつけ立ち上がる。


 暫く沈黙が流れると、リームはこちらを向いて静かに言った。


「バブさん…いくつです?」


「十五だけど?」


 急に何言ってんだ?こいつ。

リームは再び背を向けて言った。


「つまりそういうことです。」


「どーゆー意味だコラ」


 皆まで言わせるなと言わんばかりの返事。

まあ、確かにあり得ないことではない。


 俺の性…いや私生活から推察してもあり得ないことでは…


「おまえ俺を何だと思ってるんだよ」


 背を向けているので表情は分からないがこいつ今絶対俺を軽蔑してるだろ。


 俺は呆れ顔でそう言うと、リームも呆れた顔で反撃してきた。


「十数人の彼女持ちの大所帯だと思ってますけど?」


 なんつー嫌味なヤツだ。俺はこいつの反撃を迎撃して華々しく散らせるつもりだったが、言葉がでない。


当たってるわけだ。


「まあ俺のハナシはいいだろ。じゃあ何で女王は死ぬ必要があったんだ?」


 俺はこいつに負けず劣らず強引に話題を変える。


「…さあ?」


 リームはそっけなくそう言うと、出来上がった料理を鍋ごと隣の部屋に運び始めた。

次によそう皿を運ぶ。此処でよそっていけばいいのに。

どんだけ俺と話したくないんだこいつ。


 …腑に落ちないな。


 若くして身籠った女王。なぜ死ぬ必要があったんだろう。凄い難産だったとか?分からんな。そういやあの歴史書、女王の死因までは書いてなかったな。


 そんなことを考えながらこいつらの昼御飯の世話になっていたら


「何か今日のバブ、暗い。」


 怪訝な顔のユリナにそう言われた。


 食事を終えるとリームはまるで俺を避けるかのようにユリナを連れてさっさと「仕事」とやらに行ってしまった。


「はあ…」


 ソファに横になって天井を見つめた。気になるけど、歴史書にも載ってないようなことが一般閲覧できる資料室に置いてあるわけがない。

王族用の専門資料室なら何か手がかりがあるかも知れないけど。


 しかし俺みたいな…一般市民ではないけれど、タルトールの名前を使ってまで資料室に入るわけにもいかない。それこそ後々色々と面倒なことになる。何か良い方法は…


 俺は天井から目線を離し、ぐるりと辺りを見回す。すると、側で寝息をたてているミラノが視界に入った。


 そうだ、アイルっさんだ!

 彼の名はアイルス・エゼ・シルファディア。

 シルファディア王国の第5王位継承者でリームやミラノの異母兄、ユリナの異父兄である。今はシルファディアに住んでいるはずだ。


 アイツなら何か知ってるかも。そうと決まれば行動あるのみ。


「ミラノ、ミラノ…ちょっといいか?」


 俺は気持ち良さそうに寝ているミラノを左右に揺する。


「ふあぁ…バブくん?」


 突然夢の世界から引き戻されたミラノは、目をこすりぼんやりと俺を眺める。


「ミラノ、俺、アイルっさんに会いたいんだ。取り次いでくれないか?」


 俺はまだ状況が把握できずにキョトンとするミラノの肩を握った。


「またシルファディアにいくの?」


 ぼんやりした顔でミラノが見つめる。


「頼むよ」


「分かったわ」


 ミラノはソファから降り再び時空の棒を構えた。


「おや、ミラノちゃんじゃないかい」


 門番の男は親しそうに彼女に話しかけてきた。

 ―ここはシルファディア城門。


 この巨大な城の入り口は、巨大で屈強そうな年配男性数名によって守られていた。


 現在のシルファディアはユリナを擁護する保守派と、女王を擁護する改革派の大きく2つに分かれているらしく、ミラノやリームの存在は保守派の中でも特にアイルっさんが信用を置くごく一部の人しか知らないらしい。


 前述したように元々二人の母、シュアル様がシルファディアの第一王位継承者だった。


 そしてシュアル様の妹でユリナの母であるアポナルさんが時の神クロノスと結婚し、子供を儲けた。

 しかしまあ、いつの世も男と女ってのは難しいモンで…色々あってアポナルさんとクロノス様は離婚し、クロノス様とシュアル様が結婚することになったらしい。


 まあ、俺はその「色々」の内容は知らないが、流石にそれをリームに聞くほど阿呆でもない。

とにかく、そんなわけでシルファディアの後継はアポナルさんが引き受けたが、メディナの暴走により命を落としたために更にその妹、今の女王が継いでいるわけだ。


 シルファディアは代々女性が王位を継承する国である。

そして王配は国民投票で選ばれた有能な男性が即位する。

そういう国なんだ。

一応男にも王位継承権はあるが、それはその代の女が全滅したときにだけ適用されることになる。実際に何回かそういうことがあったらしい。


 現在の女王はユリナの捜索と同時に自分の姉であるシュアル様の子供、つまりリームとミラノ、そして自分の弟である…よく知らないが双子の娘がいるらしい。更にユリナの異父兄である自称勇者の情報を密かに収集しているようだ。


 つまり自分の娘を確実に次の女王に即位させるため、公にその存在が認められており保守派に守られているアイルっさん以外の邪魔な甥姪を始末しようとしているわけだ。


 だが、アイルっさんの必死の情報操作のおかげで女王は自分の甥姪の顔はおろか住んでる所さえわからない状態だ。


 まあそんなわけで、ミラノの顔も名前も知っているこの門番の男は間違いなくアイルっさんの息のかかった男なんだろう。


「こんにちは」


 ミラノが親しい様子で返事する辺りからもそれが伺える。


「今日は何の用だい?」


 滅多に来ない知り合いが訪ねてきた時の決まり文句である。


 彼に他意は無いだろうが、自分の用できた訳じゃないミラノは困ったように口ごもる。


「え、えっと…アイルスさんに用があるんです。」


 門番は物珍しそうにミラノを覗きこんだ。


「へえ、ミラノちゃんがアイルス王子に?珍しいねえ。王子も喜ぶぞ?ああ見えて彼はいつもミラノちゃん達が訪ねてくるのを心待ちに…痛っ!」


 門番は大きく両手を広げ空を仰ぐように言いかけたが、途中で背後から思い切り小突かれて鈍い声をあげる。


 振り返ると、明るく長い空の青を右肩の辺りで縛った体格のよい男が訝しい顔で立っていた。その手には辞書のようなものが握られている。


 あれで小突かれたのか。痛かっただろう。


「アイルスさん!」


 ミラノは腹違いの兄の顔を見るなり駆け寄り、ペコリと頭を下げる。


「よく来たな、ミラノ」


 アイルっさんはそう言ってにこりとすると、ミラノの頭を優しく撫でた。


 仏頂面でそっけない態度のアイルっさんがデフォルトな俺にとって、彼のこういう一面が何となく気持ち悪い。

…とか考えてるのが顔に出ていたのか、こちらを振り向いた時にはまた元の不機嫌顔に戻っていた。


「お前が用があるんだろ?何だよ」


「まあ、立ち話もなんだろ」


 流石にシルファディアの内情をここで話すわけにはいかないだろう。俺は場所移動を促した。


 アイルっさんは頭に手を当て暫く何かを考えていたが


「ついて来い」


 それだけ言うとさっさと城の中に入っていった。


「行こう、ミラノ」


「うん」


 俺達は急いでアイルっさんの後に続いた。


 沢山の金や銀を基調に作られた豪華絢爛な城内は賑やかで、どこぞの貴族達で溢れかえっていた。


 城の内装が派手なのも手伝って辺りを見回すと煌びやかで眩しい。

どこの国も同じだろうが、この国は規模が違う。

こう言うと俺の方が貧乏な王族のように感じるが、シルファディアがぶっ飛んでいるだけである。

絶対に。


 アイルっさんが受付を顔パスでスルーすると、俺たちもそれに続いた。


 そのまま大広間を抜け、エレベーターのようなものに乗り暫くすると、降りた先の真ん中の部屋に導かれた。


 部屋の中は他と変わらず豪華で、ゴシック調の家具がずらりと並び、それらをシャンデリアが見下ろしている。


 アイルっさんはいくらするのか想像もつかないようなふかふかのソファに俺たちを誘導すると、自分も向かいのソファに腰を下ろした。


「で、何だ?話ってのは」


 彼は早速タバコの包み紙を開けはじめる。


「ユリナのことなんだが」


 ユリナという言葉を聞くなりアイルっさんは顔を曇らせた。


「そういうのはリームに聞いてくれ。」


「あいつが使えんから此処に来たんだろ?」


 俺は天井に昇るタバコの煙をぼんやりと追いながら顔をしかめた。


「珍しいな。お前のようなヤツが他人の事を詮索するなんて。」


 アイルっさんは側にある大きな窓の外を眺めながら無表情に言った。


 確かにアイルっさんの言う通りだ。そうなんだけど…。


 俺が俯いていると


「ユリナの何が聞きたいんだ?」


 彼は相変わらず何を考えているのか分からない表情で外を仰ぎながらそう促した。


「あいつはシルファディアの直系らしいが、女王は十五歳で亡くなったってハナシじゃないか。リームは十五歳の女王が身籠ったと言うけれど、じゃあ何で亡くなったんだ?」


 ―暫く沈黙が流れる。


 灰皿に擦り付けたタバコの煙だけが静かに動き続けた。


「お前、血の術式を知っているか?」


 アイルっさんは目線を灰皿に落としたまま静かに言った。


「血の…術式?」


 そんな術式聞いたこともない。


「ま、知るわけないか。シルファディアに代々伝わる非合法な禁術だ」


 彼は俺のキョトン顔を一通り眺めると、二本目のタバコに手を伸ばした。


「禁術…それがどうかしたのか?」


「女王が亡くなったのは病気でも事故でもましては暗殺でもない。彼女はこの禁じられた術「血の術式」を使って亡くなったんだ」


 術式を使って亡くなった?そんな話は前代未聞だ。生命力を媒介とする術式でも存在するのだろうか。


「血の術式ってのはな…自分の魔力と想い、そして生命力を捧げることによって相手に強力な呪いをかける術式だ」


 誰かを、呪う…。

 女王は気に入らない人でもいたのだろうか。

 彼は灰皿にタバコの灰を落とすと、静かに話を続けた。


「女王はこの術式を使い自らの命を捧げることでシルファディアを継ぐ子孫末代まで呪いをかけた」


「子孫に?」


「いや、正確に言うと、女王の子孫じゃなくてシルファディア一族にだ」


 ますます意味が分からない。

女王だってシルファディア一族だろう。


「ま、俺の推測なんだが」


 その手はゆっくりと三本目のタバコにのびる。


「女王は駆け落ちとかそんなんで身籠ったんじゃないかな。そして彼女を取り戻すためにシルファディア一族がとった手段は…」


 彼は突然険しい顔で目線を俺に戻す。


「相手の男を処刑した」


 俺はその言葉に目を丸くした。

いや、まあそうだ。よくある話だよな。


「だから『血の術式』を使ってシルファディア一族を呪ったのか」


「推測だかな。」


 そう言うとアイルっさんは再び目線を落とし灰皿の上で休憩していたタバコを咥える。


「その辺の資料が何者かに盗まれていてね。真相が分からないんだよ。」


 彼は軽く溜め息をついた


「それってヤバくないか?」


 俺は呆れたように問う。


「大体目星もついている。恐らくオブ・ファーだろう。」


 オブ・ファーとはレミの親父が作ったまおーぐんしてんのーとかいうふざけた団体の一味で、シルファディアに執着している変態さんだ。


「たまにシルファディアの大衆向け図書資料室で見かけるんだが、証拠がなくてね」


 アイルっさんは再び溜め息をつくと、ぼんやりと窓の外を仰いだ。


「ふうん」


 俺はそんなアイルっさんを他人事のように眺める。

 しかし、盗みを働いた上にのこのこやってくるとは大胆なヤツだ。


「とにかく、これ以上のことは俺にも分からん。特にユリナの幼い頃の話はリームしか知らないんだ。ユリナが時の街に行ってからは俺達は隔離されていたからな」


 アイルっさんは横で眠たそうにしているミラノをちらりと見るとそう纏めた。


「掛けられた呪いって何なのかも分からんのか?」


 当然の疑問だ。

 女王が命を賭してかけた術式だ、相当なものなのだろう。

不思議なのはユリナを見てもそういう形跡が全く無いところだ。

まあ、外見仕草では分からんことなのかもしれんが。


 アイルっさんは何故か険しい顔で黙りこみ、またテーブルの上の灰皿に目線を落とした。


 何でそこで黙るんだよ。

俺が怪訝な顔でアイルっさんを覗き込むと、彼はふと我に返ったようにいつもの気だるい顔に戻った。


「まあ、色々あるんだがな」


 そう言いながら、目線を逸らすように再び窓の外に投げる。


 意味不明だ。何が色々あるんだろうか。事情が色々あるのか、術式が重なってるのか被術者が複数いるのか。


 釈然とせずにアイルっさんを見つめると、彼は目線はそのままでぽつりと言った。


「全部だよ」


 まるで俺が何を聞きたかったかを知っているかのように。


「まあ、何にせよ女王が術式を使ったのは確かだ。自分の血液で魔法陣を描くことから「血の術式」と呼ばれているんだが、一度描いた陣は消えることなく永遠に残り続けると言われている」


 消えることなく…


「それは何処に?」


 シルファディアの女王が使った術式だ、俺が立ち入れるようなところには無いだろう。

分かってはいたが一応聞いてみることにした。


「シルファディア試練の洞窟の奥深く、メディナの間の奥だ」


「そうか…」


 やはり一般人には縁の無い場所のようだ。


 しかもメディナの間の扉はシルファディアの…いや、女王の直系にしか開けられないとリームが言ってたな。

仕方ない。


「色々すまなかったな。ミラノも眠そうだし、そろそろ帰るよ」


「ああ」


 ソファを立ち上がると、同時に立ち上がったアイルっさんが不意に俺の肩を掴む。


「いいか、シルファディアは呪われた国だ。あまり関わらない方がいい」


 普段伏せ目がちでいつもやる気無さそうなアイルっさんが、厳しい眼差しで忠告する。


 俺がポカンとしていると、彼は時空の棒を取りだしご丁寧に俺達を時の街に帰してくれた。




* * *




 アイルっさんの部屋はアンチマジックゾーンの五芒星の西側にあたる穴の位置にある。


 前述したとおり、この場所だけは術式の影響を受けず通常通り魔力を使うことができるし、魔力発動の術式であればこの上に重ねて発動できる。


 一応術式の影響下にある為神力発動の術式は発動できないが、術式以外の…時空転移などは可能だ。そういう事情で彼は俺たちをいとも簡単に時の街に送り返した。


 時の街へ辿り着いた時には、既にこの地での夕食の時間を回っていた。


「バブさん達、どこ行ってたんですか?」


 リームは俺達の顔を見るなり目を丸くして叱りつけた。


「うるせーな、お前は俺の保護者か!」


 「アイルっさんのところに行っていた」とか言うと、また変に勘ぐるに違いない。


 俺は適当に返事して誤魔化すことにした。


「ミラノつれ回しておいてよく言いますね」


 あ、そうだった…


 ミラノを連れていたことをすっかり忘れていた。


 ちらりとミラノの方を見ると、ああ、かなり不機嫌顔だ…ミラノには悪かったな。


「ま、まあ機嫌直せよリーム。それよりもお前、明日も図書資料室行くんだろ?」


「それが何か?」


「俺も行くよ」


「…はあ?」


 出た、この顔。

 訝しいというか不機嫌というか、とにかく関わるな触れるな近づくなという感じの強い拒絶を含んだ顔。


「おーい」


 リームが俯いたまま返事を返さないので俺は体を屈めて覗きこんだ。


「…わかりました」


 リームはそう返事だけすると、そのまま逃げるように去っていった。


 ミラノはペコリと俺の方を向いてお辞儀すると、慌ててリームの後を追って部屋の奥に消えていった。


 残された俺はそのままそこに暫く立ち尽くす。


 大衆向けの図書資料室では何も分からないかもしれないけれど、とにかく行ってみて調べたかった。

 そんなことを考えていたとき、ふと奇妙な感覚に襲われる。


 俺は何でこんなにこの件が気になるのだろう。普段なら他人の家の事情とか気にならないし、気にしもしない。

…むしろ知りたくも無い。


 ああ、そうだ。


 こいつらの家の事情が気になるんじゃない。何でこいつらがこの件をひた隠しにするのかが知りたいんだ。


 俺に言われないような何かであるのなら、それは俺達に対する脅威になりかねない。


 何故ならこいつらと俺達は味方などではない。

 需要と供給で成り立っている、ただの利害関係でしかないのだから。


 その日はそのままリームとは一言も喋るどころか顔すら合わせずにタルトールに帰り、床についた。

 あいつは何であそこまでシルファディアに関わられるのが嫌なんだろう。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか深い眠りに落ちていた―


 朝の眩しい光が優しく差し込む。

 確定世界にのみ与えられた、恒星の加護である。

 俺は体を起こし、出掛ける用意をしはじめた。支度を済ますと、飯もつままずに城を出る。


 ―メイの怒鳴り声がする。


 城門を出ると、城の前にある公園の真ん中にある大木の根元に、既にそいつは待っていた。


「おはようございます、バブさん」


 気の木陰になっているせいか、とても顔つきが悪く感じる。

なんと言うか、挑戦的だ。


「あー、はいはいおはようさん。早く行くぞ」


 俺は適当に流して早く行くように促すと、何故かため息をつかれた。


「じゃあ、行きますよ」


 時空の棒から溢れる光に包まれ、再びシルファディアへと旅立つ。


 ―シルファディア図書資料室。


 今日はシルファディア王国における『祝日』であり、いつにも増して人でごった返していた。この広いドーム状の資料室の中に、人多いか本が多いかという感じである。


「相変わらず多いなー、此処」


「シルファディアにはこういう施設、ここしかないんですよ」


 うんざりする俺にリームは苦笑いで答えた。


 俺達は奥へ進み空いている席を探す。

…が、空いている席どころか壁を背に読む人や段差に座り込む連中が溢れる始末である。


 仕方なく席を確保することは諦め、待ち合わせ場所を決めて本を探しにいくことにした。


 さて、何から調べよう。


 とりあえず歴史書やらをつらつらと見てみたが、目ぼしいことは何も書いてはなかった。


 やっぱりダメか。

 途方にくれて辺りをぼんやりと見回す。休日のためか、子供や家族連れが多いな。

やんちゃな子供達が本で殴りあって遊んでいる。


 かなり難しそうな分厚い本を重そうに抱えているところをみると、本の内容など関係なく、重さというか攻撃力で選んでいるのが伺える。


「たあー!勇者必殺剣ー!」


 俺の太股くらいしか背丈の無い幼い少年が、友人と思われるもう一人の同じくらいの背丈の少年に小難しそうな分厚い本で殴りかかる。


 っていうか、それ剣じゃなくて本だろ?という無粋なツッコミはこの際やめておく。


 少し離れたところに二人の母親と思われる女性が二人、生暖かい目でこちらを見守っている。

ここ、図書館なんだけど。

呑気に見てないで叱れよ。

全く最近の親は…そんなことを考えはじめたら無性に腹が立ってきた。


 俺の目が半分くらい座った時に、目の前の子供達は「勇者ごっこ」に飽きたのだろう。

本をその場に捨て、そのまま子供用の室内遊具が置いてあるコーナーへと走っていった。  

     

 二人の母親も慌ててそれについていく。

もちろん本はそのまま。


「はあ…」


 俺は深いため息をつくと、忘れ去られた分厚い本を拾い上げる。


 一体何の本で遊んでたんだ?


 『呪学全集』


 古めかしいハードカバーに擦りきれそうな字でそう書いてあった。


 『女王は禁じられた術「血の術式」を使って亡くなったんだ』


 アイルっさんの言葉が脳裏をよぎる。


 ―いや、シルファディアの禁術なんだ。載っているはずが…


 俺は目次にあるその文字列に目を疑う。


『呪いと技法 禁じられた術式「血の花」』


 俺はこの本を抱え、リームと待ち合わせた場所に向かって歩き出した。


 リームは既に待ち合わせ場所に戻っており、壁を背に何やら辞書のようなワケわからん分厚い本を読みふけっていた。

微妙に重そうにしてるところが非常にシュールというか滑稽である。


 俺はコイツの隣に並び、先程クソガキから入手した『呪学全集』を開いた。


 『この術式は、術者の念と魔力、犠牲の3つを糧に、悪魔との契約を果たす術式である。


古来からシルファディア王家に伝わる術式で、使用するときに陣を自らの血で描くことを必要とするところから「血の術式」と、またその血が花の花弁のように見えることから「血の花」とも呼ばれている。


この術式を使用するにあたっては、以下に図解した陣を自らの血をもって正確に描かなければならない。』

 ご丁寧に描く魔法陣の意味合いまでこと細かに説明してあった。


 何なんだこの本は。いいのか?こんなものが大衆の目に触れるところに置いてあって。


 それとも、これが盗まれたという本の一つなのか?

 そんなことを考えといると


「お、バブにリームじゃないか」


 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「アイルっさん!」


 そこには弟と似た髪の色を持つ、しかし弟とは正反対でがっしりした体格の男が相も変わらず仏頂面で立っていた。

実はこの男、兄よりも体格がよい。


「アイルスさんが此処に来るなんて珍しいですね」


 リームが不思議そうに聞く。


「ああ、ちょっと読みたい本があってなー」


 そういいながら頭をポリポリとかいてみせるアイルっさん。

何故か泳ぐ目線。何を探しに来たんだか。


 彼は俺の読んでいる『呪学全集』に目線を落とすと、話題転換の格好の材料と言わんばかりに大袈裟に本を覗きこむ。


「うわ、載っているじゃないか、『血の術式』」


 その言葉を聞いた瞬間、リームはなにか恐ろしいものを見たかのようにビクリと反応する。


「な、何で…誰か、呪いた人でも?」


 平静を装っているようだけれど、明らかに声が上ずっていた。


「違う違う、ちょっと気になっただけだよ」


 リームがあまりにもただ事じゃない反応をするので、軽く笑い飛ばして誤魔化した。


 こいつ、何か知っているのか?


「僕、ちょっと具合が悪いから外にいますね」


「お、おいリーム!」


 俺の呼ぶ声なんか聞こえないかのようにフラフラと出口に向かうリーム。


 なんと言うか、顔面蒼白。

大丈夫か?あいつ。


「もしかして…」


 アイルっさんはぽつりとそう呟き少し考え込むと、「呪学全集」の「血の術式」の中の数ページを熱心に読んでいた。


 何だ?「血の花の応用 呪いの転移」?


 アイルっさんは何かに納得したように突然パタンと勢いよく本を閉じる。


「俺、分かったかもしれない。幼い頃、アイツとユリナの間に何があったのか。アイツが何で異常な程その話に触れられることを嫌がるのか。」


 アイルっさんは今しがたリームが出ていった資料室出口を見つめながらそう言った。


「え?」


 俺はキョトン顔でアイルっさんを見つめる。


「取り敢えずにリームのところに行こう」


「はあ?」


 更に不思議そうな顔でアイルっさんを見つめていると、彼は俺の首根っこを引っ張って無理矢理外に連れ出した。


 外に出ると、リームは図書資料室の外壁に背中を預けるようにもたれ掛かっていた。


「お前だったのか。ユリナを反対呪術から救ってくれたのは」


 アイルっさんは静かにそう言ってリームに近づいた。

 リームはちらりとこちらを見たが、返事もせずにそのままうつむいた。


「無茶なことをするもんだ」


 アイルっさんは心配そうに俯き黙りこむリームの肩に手をかける。


「お前は知らないかもしれないけどな、『血の術式』で描いた陣は二度と消えることは無い。メディナの間にあるあの血の陣はお前が描いたんだな?」


 はあ!?そんな話は聞いてないぞ!

俺はアイルっさんを睨みつけた。


 リームも俺とは違う意味で驚いてアイルっさんを見つめていた。


「二度と…消えない…?」


「ああそうだ。そしてその陣は、ここに書いてある『血の術式』の応用、かけられた術式を誰かに移す『転換の術式』だった。」


 アイルっさんは手に握っていた『呪学全集』をぷらぷらと振って見せた。


「まあ、ここからはちょこっとばかり小耳に挟んだ情報と、俺お得意の推測なんだが…」


 彼は前置きにそう言うと、少しリームから離れた。


「女王はシルファディア一族を憎んでいた。だが、自分の産み落とした子供は守りたかった。」


 相槌をうつ俺を確認すると、再びリームの方に向き直って続ける。


「そこで彼女はシルファディアを継ぐ王家の人には末代まで消えぬ呪いを掛け、自分の産み落とした子供とその子孫には『加護の術式』をかけた。」


 術式は基本的に国に依存するが、加護の術式は基本術式と呼ばれ、どこの国のにも属さない。


「『加護の術式』は邪悪なものや危険なものから身を守る基本術式だ。…変だと思ったんだ。あの時…メディナが暴走して沢山の人が亡くなった時、俺の義父だけは無事だった。あれは『加護の術式』のお陰だったんだな」


「え?でもお前の義父は…」


「その後、俺を庇って亡くなったがな。」


 これは『メディナの暴走』と呼ばれる事件…というか事故である。


 俺も詳しく知らないが、リームから聞いた話を纏めると、どうやらアイルっさんが引き金を引いて起きた悲劇らしい。


 この一件でユリナはその後の人生が大きく狂い、アイルっさんは二度と消えない罪を背負って生きることとなった…らしい。

例によって概略しか教えてくれなかったが。


 とにかくアイルっさんにとって最も触れてほしくない話題であることは確かだ。

その証拠にアイルっさんらしくもない、小声ですごく早口だ。


「とにかく」


 大きな声で前の話題を過去のものにするアイルっさん。


「女王の直系血族はお袋じゃなくて義父の方だったんだ。呪われたお袋と守られた義父。二つの相反する力を一つの体に受け継いだユリナはその呪反動に耐えられず精神崩壊寸前だった。」


「でもお前の知ってる頃のユリナは普通だったんだろ?」


 呪反動を持って生まれたのなら、初めからおかしいはずなんじゃないのか?

俺は納得できずに口を挟む。


「おそらく、シルファディア一族の特殊な力を引き継ぐ儀式を行うときに、一緒に呪いも引き継ぐんだろう。現にお袋が亡くなった後、急遽ユリナにその儀式をしている。アレはお一人様専用だが誰かが持っていないといけない力だからな。とりあえずユリナに引き継がせたのだろう」


 アイルっさんは俺の方を向いて説明し、再び目線をリームに戻した。


「時の街に連れてこられた時のユリナは…おそらく酷い状態だったんだろう。しかし、呪いや加護といった呪術は一度掛けたらどんな程度のものでも強制解術はできない。解除キーを付けてそれを発動させない限りはな。だが『血の術式』の一つ、『転換の術式』は術者がその呪術を我が身に引き受ける事を前提に、被術者に掛かっている呪術を解術することができる。解術というか転移だな。お前はユリナを救うために、反発しあう呪術のうちの一つを引き受けた。…違うか?」


 諭すようにゆっくり喋るアイルっさん。相変わらずリームはだんまりだが、何となく頷いたようにも見えた。


「しかし、呪術の転移ってのは元の呪術の力を上回らなければならない。女王が命を賭して掛けた呪いは自分の全てを賭けたとしても移せないと思ったんだろう。お前はユリナに掛けられた『加護の術式』の転移を試みた。これは恐らく『血の術式』とかじゃない普通の術式なんだろうが、女王の想いは相当強かったはずだ。それを上回る魔力と、自分の想いと…そして、捧げるもの。魔力や想いは一朝一夕には変えられない。ましてや幼いお前に大きな力は無かっただろう。残るはどれだけの犠牲を払うかだ」


 そこまで喋ると、アイルっさんは俯くリームを黙って見つめた。


「…そんな話、聞きたくない…」


 リームは絞り出すようなか細い声でそう言うと、耳を押さえながらその場に座り込み俯せた。


「そうやっていつまで逃げるつもりなんだ?自業自得だろ」


 アイルっさんは咎めるような強い口調でそう言うと、今度はリームから目線を離し少し照れ臭そうに言った。


「ま、それが禁忌であったとしても俺はお前に感謝しているけどな。ちらりと聞いた話じゃ、あのまま放っておいたらユリナは一年も生きられないだろうって話だったしな。」


 一年も生きられないような精神状態ってどういう状態なんだ?俺には想像もつかなかった。


「結果的にユリナは救われ、リームには引き受けた『加護の術式』と払った犠牲だけが残ったわけか。」


「引き受けたのは『加護の術式』だが、それはユリナにとっての『加護の術式』だ。呪いと加護は紙一重。想いというエネルギー体だということに変わりはない。引き受けたリームにはどちらも同じことだ。俺にはどういう風に作用してくるか分からんがな。」


 アイルっさんも「推測」という名の考えを纏め上げた。


「ほら、いい加減顔上げろよ」


 アイルっさんは頑なに座り込みうつ伏せるるリームの顔を上げさせようとしたが、リームはその手を叩いてアイルっさんを睨み付けた。


「あなたに何が分かるんです?ユリナを見捨てたあなたに…!」


「違う、見捨たてんじゃない!…ああするしかなかった…仕方なかったんだ!」


 珍しく動揺するアイルっさん。一体コイツらとユリナの間に何があったんだろうか。


「そもそも…—っ」


 リームは何かを言おうとしたが、ハッとして黙った。


 少しバツが悪そうにアイルっさんとは反対方向にいる俺の足元を見つめている。


 そうだ。

その先は言ってはならないこと。

今更昔の事をどうこう言ったところで、もうどうにもならないのだから。


 アイルっさんにもそれが分かったのだろう。彼も申し訳なさそうに俯き黙りこんだ。


 この件始まって以来最大の暗澹たる沈黙。


 興味本意でほじくりかえしたコイツらとユリナの間に起きた過去の悲劇。


 恐らくこの話はコイツらの過去のほんの一部なんだろうが、押し潰されそうな重圧を感じる。


 やっぱり興味本位で他人の事情なんかに関わるもんじゃないな…


 俺はこの件に関わったことを少し後悔した。

散々引っ掻き回しといて言うのもなんだが。


 そんな事を考えながら二人の行く末を見守っていると


「アイルス王子ー!」


 貴族風のローブを身につけた数人の若い男性がこちらに向かって走って来る。


「王子、こんなところにいらしたのですか!全く、外に出るのなら一言声を掛けて下さいよ!誘拐にあったのかと心配しましたよ!?」


 男たちのうちの一人が息も切れ切れそう言う。

おそらく、アイルっさんのお付きの人なんだろう。

当の本人は「すまん、すまん」と生返事で彼らをたしなめていた。


 取り敢えず、あの重い重圧から解放され心が軽くなった俺はふとリームの方を向いた。


 ―居ない!アイツ…逃げた!?


 ここでは時空転移は使えない。

まだ近くにいるのだろうけど、人の波に飲まれたら探すのは不可能だろう。


 俺はお付きの人に囲まれるアイルっさんに強引に詰め寄る。


「おい、リームのヤツ…逃げたぞ!?」


「時の街に帰ったんだろ。そっとしておいてやれよ。お前ももう…」


「こんな状態で帰れるかっつーの!」


 呑気な男だ。さっきまでの緊迫した空気は何だったのか。


 お付きの人達は言い合いをする俺とアイルっさんをおろおろと交互に見ていた。

俺は構わずアイルっさんに一つの要求をする。


「おい、俺を時の街まで送ってくれよ」


「はあ?」


 アイルっさんは素っ頓狂な声を上げる。


「いいから送れ!」


 俺は彼の襟首を掴んで凄む。

彼は困った顔で俺を見ていたが


「わ、わかった、わかったから離せ」


観念してそう言った。相変わらず周りのギャラリーは戸惑った顔で俺たちのやり取りを見守っていた。




* * *




 時の街に戻ると、ユリナが慌てて飛び込んできた。


「ね、ねえ…リームったら帰ってきたかと思ったら自分の部屋に入ったっきり出てこないんだけど…ケンカでもした?」


「えーっとだな…」


 まさかコイツらの過去を引っ掻き回して怒らせたとはとても言えない。


 俺が返答に困っていると


「ユリナ、久しぶりだな」


 俺の後ろからひょこりと顔を覗かせたアイルっさんが悠長に挨拶なんぞ始めた。


 実は、俺を時の街に送るかわりに自分も付いてくるという交換条件を出されていたわけだ。


「あら、アイルっさん…いたの?」


 ユリナは珍しいものでも見るような目でアイルっさんを眺める。


 そんなキョトン顔のユリナを前に彼は神妙な面持ちで話した。


「お前、自分が小さい頃の話、リームから聞いたことあるか?」


「小さい頃?別に…」


「そうか…」


 何を言い出すのかと不思議そうな顔で見つめるユリナをよそにアイルっさんは口元に手を当て考え込んでいた。


「なあユリナ、少し話でもしないか?」


「話?」


「とりあえず、廊下じゃアレだからお前の部屋に行こう」


 そう言ってユリナの背中を押した。


 ユリナの部屋は案外こざっぱりとしており、白と黒を基調とした冷たい感じに纏まっていた。


 必要なもの以外は置いてなく、なんと言うか殺風景。リームの部屋も何もないけれど、コイツの部屋はさらに何もない。


何か意外だ。

壁紙とかピンクかと思っていた。


「それで、話って?」


 ユリナは俺とアイルっさんにお茶を出すためにカップとティーポットを用意していた。

紅茶のいい香りが鼻をくすぐる。


 しかし、コイツに来客を歓迎するという概念があったんだな。

これも意外である。

案外マトモなのかもしれない。


 俺は美人が淹れたお茶に舌鼓を打ちながら、アイルっさんの話に耳を傾けることにした。


「お前…その、アレだ。」


「アレじゃ分かんないわよ」


 そわそわもじもじしながら中々切り出さないアイルっさんにユリナは呆れてそう言った。


 …っつーかお前なんでそんなに妹の前だと気持ち悪くなるワケ?


「…その、昔の話をするが、いいか?」


 アイルっさんなりにユリナに気を使ってるらしい。

 お茶を淹れるユリナの手が俺の前に来たとき、その手に無数の傷があることに気づいた。

浅い傷から深くえぐれた傷まで。


 何で今まで気づかなかったんだろう。


 幼い頃のコイツらは、いったいどんな異常な日々を送っていたのだろう。


 ユリナは返事をせずに俯く。

ただ、拒絶もしていないようだった。


 アイルっさんは話していいのかどうなのか、判断できずに黙っていた。


 しばしの沈黙。

出されたティーカップの中の紅茶がぐるぐると渦巻いている。


「なあ、ユリナ」


 アイルっさんは手元のティーカップを見つめながら静かに言う。

ユリナは無言でちらりとアイルっさんの方を見た。


 続けていいということなんだろう。


「お前、知ってたのか?血の術式のこと」


 その言葉を聞くなりユリナの顔色が変わる。


 リームが何故閉じこもっているのか。

彼女も察したのだろう。


「連れていきたいところがあるんだけど。きっと答えはそこにあるわ」


 突然ユリナは突拍子もないことを言い出した。答えにもなってないし会話にもなってない。


「あ?ああ…」


 これにはアイルっさんも驚いたらしく、取り敢えず了解してユリナの出方を見ることにしたようだ。


「それじゃあ、行くわよ」


 ユリナは器用に時空の棒を扱った。






 着いた先はゴツゴツした岩壁の洞窟のような場所だった。


「ここは…シルファディア試練の洞窟…」


 アイルっさんがぼそりと呟いた。


 シルファディア試練の洞窟とは、シルファディアの兵士や兵士志願者が訓練や試験に使う洞窟である。


元々名前など無かったのだが、そういった用途で使われるためそう言う通称で呼ばれている。


 しかしそのように使われるのはほんの上層部だけであり、中層部にはシルファディアに伝わる書物などが、下層部には色々な宝物があるとされているが、殆どが未開発らしい。


 そして、シルファディアの秘法「メディナ」もまた、この洞窟最深部にある。


 この洞窟はシルファディア王国の領土内ではあるが、所謂孤島であり離れている。

もちろんアンチマジックゾーンでもない。

この孤島には橋などは架かってなく、かといって海ではなく空に浮いている為船というわけにもいかない。

つまり渡る手段がないのである。

これは一般人に立ち入られないようにシルファディア側が配慮したものであり、ここに入るためには本来は城内のアンチマジックゾーンの五芒星の頂点に位置する「穴」にある「転移の術式」から飛んでくることとなる。


 まあ、時空間を自由に移動する連中には関係無いことだろうが。


 「さ、行こう」


 ユリナは先頭を切って歩き出した。


 内部には下が見えないくらいの螺旋階段が続いている。階段を降りていくと所々に横穴があり、奥には部屋が広がっているようである。

これらが訓練やらに使われている部屋なんだろう。


 ある程度下に降りると、突然ユリナは立ち止まった。


 彼女は壁際に寄ると、そこに取り付けられている燭台を時計回りに無理矢理回す。


 何やってるんだこいつ…燭台を壊す気か。


 俺が訝しそうに眺めていると、燭台は「カチャ」という音と共に真横に傾いたまま固定され、壁には亀裂が入り新しい道ができた。


「へー、原始的な仕掛けしてんなあ」


 感心して開かれた道の奥を覗く俺。


「お、おいユリナ…まさか…」


 アイルっさんが浮かない顔でユリナを見つめる。ユリナは何も言わずにそのまま奥に進んでいった。

その表情は暗く、冷たい。


 暫くこの細い隠し通路を進んでいくと、突き当たりにエレベーターのようなものがあった。


 ユリナが無言でパネルを操作すると、その機械の扉が開いた。中には一畳ほどの部屋といくつかの操作パネル。エレベーターのそれと同じだった。


 内部から扉の上を見上げると、上矢印の書かれているパネルと下矢印の書かれているパネルがあり、今は上矢印の書かれているパネルの方がうっすらと赤く光っている。


 ユリナがパネルを操作すると扉が締まり、降下をはじめた。


 結構長いことエレベーターに乗っていたが、だれも一言も喋らなかった。


 扉の上のパネルが下矢印の方に変わり扉が開く。


 エレベーターを降りると、そこには巨大な扉が待ち構えていた。


 もしかして、この扉って…


 ユリナは懐からナイフを取り出すと、自分の手のひらを少し切って扉に押し当てる。

すると扉は二つに割れ、奥への道が開いた。


 扉の奥には青く機械的な部屋が広がっていた。高い天井には氷の結晶のようなものが所々にくっついている。これは本で見たことある。


魔法水晶アミュールだ。

何でも願いを叶える石ストーンフォースの原料と言われている。


つまり、ここはストーンフォースが生まれる場所。そう、メディナの間だ。


 そしてこの広い空間の中央にある、台座の上に丁寧に飾られているストーンフォース大の魔法石。


 あれが…あれがメディナ…。

遠目にみても物凄い魔力を放っているのがわかる。


というかこの部屋自体が高濃度な魔力で満たされていて頭がくらくらする。


 少し目線を落とすと、そこにはアイルっさんの言葉通り艶かしい血の紋様が当時を再現するかのように残っていた。


それは六歳の少年が描いたとは思えない程夥しく散っている。


 まるで血の花のように。


 ユリナはふらふらと陣に近づき、そして座り込んだ。


「あたしの人生は、ここから始まったのよ」


 そう言って愛おしそうに指で陣をなぞる。


「あの人はこの場所で、あたしにもう一度人として生きるチャンスを与えてくれた。」


 ユリナはそこまで言うと、俺達に背を向け続けた。


「あの頃のあたしは本当に酷かった。頭にずっとノイズが響いてて、煩くて何も聞こえなかったし、何も喋れなかった」


 ユリナの手が微かに震えてるのが分かる。

こんなに弱々しいコイツを見るのは初めてだ。


 あの傍若無人で自己中の極みみたいな女が今、触れたら崩れそうなガラス細工のようで。


「この術式を掛けられてから、一度もノイズが響くことはなくなったわ。強力な術式だということは分かったけど、まさか生命力を使う術式だったとは…」


「そういやお前はどこでそれを知ったんだ?」


 俺は間髪いれずに聞いた。


「数年前にね、ちょっと用事があってリームの部屋に勝手に入ったのよ。あの頃あの人時の街には居なかったからね」


 前にも言ったがリーム達はその時間の殆どを確定世界で過ごしている。


 リーム曰く、幼い頃ユリナと一緒にいたのはほんの二年程で、去年時の街に戻ってくるまではずっと確定世界に居たことになる。


「そしたら、この術式の資料やシルファディアの歴史書がたくさん出てきたの」


「なんだ、機密資料を盗み出したのはリームだったのか。」


 冷静に口を挟むアイルっさんを無視してユリナは話を続ける。


「知らなかったのよ。この術式の本当の意味…必要な犠牲…だって、「もう大丈夫だよ」ってリーム君、笑って言ってくれたから…あたし、あたし…」


 語尾はもう聞き取れないくらいか細い声だった。

肩を震わせ、時に聞こえる鼻をすするような音。


泣いているのだろうか。


「リームはユリナがこういう風に自分を責めることを分かっていたからお前に詳しい話はしなかったんだろうな」


 アイルっさんはユリナを後ろからそっと抱き締める。ユリナは一瞬びくりとたじろいたが、そのまま彼の腕の中に身を置いた。


 …きっと俺には今の二人の気持ちを理解してやることはできない。


 今はただ、この悲しい兄妹の一時の静寂を見守ることしかできなかった。




* * *




 時の街に戻ると、今度はミラノが待ち構えていた。

 本当に代わる代わるだな、コイツらは。


「何処いってたの?」


「いや、ま、いろいろだ。」


 何て答えたらいいのか分からず、思わず自分でも意味不明な返答をしてしまった。

ミラノは訝しい顔で俺を見つめる。


「リームはどうした?」


 俺の後ろに居たアイルっさんが、ずいと前に出てきて言う。


 ミラノはアイルっさんが居ることに気づかなかったらしく、いきなり現れた彼の存在に驚いて目を丸くする。


「ア、アイルスさん…居たんですね。」


「ああ…」


 ここまでことごとく妹達に幽霊扱いされる兄も中々居ないだろう。


 こんなときなのに俺は心の中でアイルっさんの不憫さを密かに笑った。


「お兄ちゃんなら部屋に居ますよ」


 落ち込むアイルっさんの顔を見てミラノは申し訳なさそうに答えた。


 アイルっさんはミラノの答えに頷くと、そのままリームの部屋に向かおうとした。


「ただ…今は誰にも会いたくないって。何かあったんですか?」


 ミラノは肩を落とした様子でそう言う。


「…仕方ないヤツだな。」


 アイルっさんはミラノの話を無視して勢いよく扉を開ける。


 部屋の窓際に立っていたリームは人が入ってきたことに気づくとこちらを振り向いた。


 …生気の無い虚ろな瞳。


 普段笑顔で微笑んでることが多い所為か別人のようだ。

これが本当なのか、あれが本当なのか。


 辛いのに笑ってみせたり、嬉しいのに怒ってみせたり、好きなのに知らないふりするヤツの考えることは分からん。


 …あれ?似たようなヤツが他にも居たような。


「なあリーム…」


「昔の話です」


 アイルっさんが何かを言おうとしたが、リームはそれを遮って話し出した。


「こうなることがわかってたから話したくなかったんです。もう終わったことを、蒸し返されるのが嫌だった。」


「シルファディアや昔のユリナの話題に触れられたくなかったのは、自分の心を守るためだったんだな。」


 禁じられた非合法な術式に手を出し、悪魔に魂を売ったという変えられない事実。

目をそらし気づかないふりをして胸の奥深くにしまいこんでいると、どんどん向き合うことが難しくなっていく。


 なぜなら生きれば生きるほどもっと生きたいと思ってしまう。

それが人生だから。


「後悔しているわけじゃないんです、お陰でユリナは救われたから。でも、もしかしたら他に最良の方法があったのかもしれないと思うと…」


「いや、術式はそんなに甘くない。今冷静に考えても「転換の術式」以外に方法はないだろう。」


 アイルっさんはリームを慰めるように優しく言った。


 明日死ぬかもしれない恐怖。

 一体どんなものなんだろうか。


まだやりたいことが沢山あるし、やり残したことも沢山ある。


そもそも人の為に自分の生命力を使うってどういうことだよ。


他の誰より自分が大好きな俺にとっては最も理解できなくて最も嫌いで最も腹立つ考え方である。


 アイルっさんも言ってたけど自業自得だ。

まあ、本人もそう言われることが分かってたから知られたくなかったんだろうけど。


「本当は怖い。凄く…」


 人生で初めてリームの本音を聞いたような気がする。


 弱々しいユリナもレアだがこんなに本音を吐露するリームもかなりレアである。


 ふと、隣で大人しく話を聞いてたユリナがリームの元へ近づいた。


「あたたかい…まだ生きてるよ。」


 ユリナはそう言うと、深く、リームの胸元に埋もれるように抱きしめた。


 まるで、鼓動を確認するかのように。


 リームはそんなユリナを眺めながら、小声でありがとうと、そう言ったように見えた。


 ユリナを見つめるその目は、いつも彼女を見ている優しい目に戻っていた。


「あー、お二人さん」


 その様子を見守っていたアイルっさんが突然口を開いた。


「まあ、これは俺お得意の推測なんだが」


「またか」


 俺は思わず突っ込んでしまった。


 しかし、彼はそれを気にする様子もなく得意気に続ける。


「不思議だと思わんか?六歳のガキが一国を束ねる女王の術式を破ったんだぞ。いくら生命力を捧げたとはいえ、俺は正直リームが今も生きてることの方が疑問に思うがな」


「アイルっさん!」


 ユリナが空気を読めと言わんばかりに彼を怒鳴った。


「まあ聞けって。術式の転移は元となる術式が使われた場所で行う方が効果的だと件の本に書いてあったからリームはあの場所を選んだんだろうが、それが幸いしたんだと思う。別の場所を選んでいたら、間違いなく死んでいただろう」


「どういうことだ?」


「あそこはメディナの間だ。メディナってのは物理的にはストーンフォースの数十倍の魔力をもつ魔力の塊だ。つまり、あの部屋は普通では考えられない魔力で満ち溢れているわけだ。そういった空間に浮遊する魔力が術に作用して増幅効果をもたらしたと考えても不思議じゃないわけだ。案外深刻に悩むほどの犠牲は払ってないかもしれないぞ?」


 そう付け加えたアイルっさんだが、何故か顔は険しいままだ。


 気休めですと言わんばかり。

本当コイツは正直なヤツだ。


「いいんです。アイルスさん」


 いつものあの困ったような笑顔。

 その裏に見え隠れする複雑な感情。

 こいつは分かっているのかもしれない。


「さ、もうこの話はお仕舞いだ。バブ、お前もメイには話すなよ。面倒なことになる。あいつお喋りだからな。ただでさえ「生命の売買」はIGCできつく取り締まられているのにIGOのヤツが真っ先にそれを破ったとなると面目立たんだろう。」


 IGCってのは世界共通の法律みたいなモンで、IGOってのは世界共通の警察みたいなもんで…まあいいか、どうでも。


 ふとリームの方を見ると、バツの悪そうな顔でこちらを見ていた。 


 俺が興味本意で覗いてしまったシルファディア兄弟の悲しい真実。


 解決はしていないが取り合えず和解ということになるのだろうか。


 俺は「真相」を手に入れた代わりに、もやもやとした煮えきらない感情をお土産にするハメになった。

 …もう、他人の家の事情に首突っ込むのはやめよう。


 俺はひっそりと心に誓った。








メディナの間に残された

永遠に消えることの無い血の花は

幼い少年が命を賭けて少女を守った証

それもまた、消えることの無い永遠の絆







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