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忌み子と彗星  作者: ずおさん
第二章:仲間とは
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第十七話 追放ショーと妖怪

 お昼ごはんを取ってから、三人と一匹で町へ出た。市場に向かう前にまずはギルドに寄ることにする。お金と、防具に取り付ける宝石が必要だからだ。

 あと、どうせ市場に行くのだから、二人の着替えの服なんかも買おうと思ったんだけれど、なかなかうんって言ってくれない。

 持ってきていた着替えなんかも、ゴブリンから逃げるときに森の中に投げ捨ててきたらしいし、絶対必要なはずなのに。


 今着ているのはとりあえずで貸した、昔私が着ていた服。ディルはそれなりに合っているけど。


「……釈然としない隙間があります……」


 などと胸のあたりを摘まんで一言つぶやいたきり、憮然としているエルに対し、「そうかな? あたしは丁度いいよー」なんてディルが火に油を注ぐもんだから一触即発だったし。


「な、なんだったらさ。三人でお揃いの服……なんてのはどうかな?」


 苦しいかな? と思いつつ起死回生を狙った一言は。


「お、お揃いですか!? いいですね! ディルもそう思うよね、ね!?」

「う、うん……いいんじゃない、かな」


 あまりの食いつきの良さに、さすがのディルも引き気味になった。この子の食いつきポイント、ホントよくわかんない。


「あ、でもお金が」

 冷めるの早っ。でもそこがエルだよね。

「大丈夫だよ、その分お店手伝ってよ。それにみんなで狩りに行けばいいんだし」


 そうやってすっかりご機嫌を取り戻したエルは、私の手を取って更にご機嫌の度合いを増して今、私の隣を歩いている。


「でも意外とこじんまりした街だよねー、ここって」

 ディルがギルドへ向かう道すがら、町並みを眺めてつぶやく。そうなんだ、って言っても私、この街以外知らないから比べようもない。二年くらい前までは街の名前も知らなかったくらいだし。興味がなかったんだろうなぁ、あの時の私。

 そうこうしているうちに石畳を十分程歩けば、ギルドの建物にたどり着く。


「ついたよ、ここ。ギルド」

 レンガ造りの建物を私が指させば。ディルが手を腰に当てながら建物を見上げる。


「へぇ。これがこの街のギルド? ……やっぱ小さいね」

「なに言ってるの、ディル」

 歯に衣着せぬディルの感想に、あきれた表情のエルが続く。


「だってこれじゃ私たちの家くらいじゃない? ほら、りきゅ」

「あ! わーわーわー!」

 するとエルが何か焦ったように手を振り回しながらディルの言葉を遮った。


「ど、どうしたの?」

「いえ、何でも……国のり、リキュエンという街にあるおじい様の屋敷とそう変わらない、んですこの建物」

「へぇ。おじいさんって結構お金持ちなんだねー」

「だ、代々続く名家、だそうなので……」


 ? 変なの。何焦ってるんだろう?

 まぁここで油を売っていたら時間がいくらあっても足りない。さっさと用事を済ませちゃわないと。いつものようにヴァイスには外で待ってもらわないといけない。


「じゃ、ヴァイス。待っててね……っと」

 ギルドのドアを開けた途端、中から言い争う……いや、一方的にまくしたてる声が聞こえてきた。やじ馬たちも数人いて、「うるせーぞ」とか「外でやれー」などと無責任に囃し立てている。


「また今日も危なかったじゃないか、今日こそは死ぬかと思った! ああ、もう本気で死ぬかと思った!」


 ロビーの円卓の一つを四人が囲んでいる。その中央には、うなだれ、腰かけている者が一人。眼鏡をかけた若い男の子。装備も貧弱そうだし、まだ駆け出しなのかな。

 私たちはその光景を横目に見ながらカウンターへと足早に向かう。エルとディルはおびえるようにして私の服やら腕やらをつかんで、連中から隠れるようについてくる。


 あの、エルちゃん、ディルちゃん? ちなみに私も普通に怖いんだけれど……。


「こんにちは、アレクシアちゃん。ごめんね、騒がしくて。……あら、今日はずいぶんかわいい子達を侍らせてるじゃない。どうしたの?」


 いつもより速足でカウンターに向かった私を、相変わらずの魅惑の微笑みを浮かべ、受付のユリアンナさんは迎えてくれる。カウンター越しでも匂い立つ大人の魅力。それが彼女の持ち味、だそうだ。


「……侍らせてないし。こっちはエル、んでディル。私のパーティーメンバーだよ。……受付のユリアンナさん。私の担当さん。見た通りの美人だけど、女の子が大好きだから気を付けてね」


 あえてぞんざいに紹介してやる。でもこの妖怪にはそれさえもご褒美なんだろうな、きっと。するとわざとらしく頬を膨らませ、怒ったふりをするお姉さん。


「んもう、そういう紹介の仕方、お姉さん好きじゃないなぁ。……なんてね。はじめまして、エルちゃん、ディルちゃん。もちろん男も好きだから、安心してね!」


「も」っていったこの人、「も」って!

 ぜんっぜん安心できないわ。エルの顔が引きつってる。ディルは……よくわかってないみたいね。

 ホントに何なんだろ。最初に会ったときの清楚な雰囲気は、あれは嘘だったのか。確かに脇が甘かったのは認めますよ。人付き合い、下手ですし!? 距離感? なんですかそれ、食べ物ですか? だって油断もするよ、女の人だもん! あぁ、もう。思い出しただけで……。


「……お姉様? 顔真っ赤ですよ、大丈夫ですか?」

「エルさん? いいえ、何でもありません。何でもありませんとも!」


 頭を振って妄想を消し飛ばそうとしているとき、背後から何かを叩く大きな音がした。その直後、一際大きな声がロビーに響き渡った。


「もう沢山だ! いいか、今ここでお前はパーティー追放だ!! 行くぞ、お前ら!」


 うぉぉ、びっくりしたぁ。さっきの円陣、まだ続いていたんだ。

 そのままの勢いでドカドカとブーツを鳴らしながら取り囲んでいた四人はギルドを後にした。

 後に取り残されたのは、うなだれた男の子。いたたまれない雰囲気ではあるけど魔法が使えるなら、大丈夫でしょ。私たちと違って。

 それにパーティー追放なんて、ギルドではおなじみの光景だ。


「ところでアレクシアちゃん」

 不意に声を掛けられ、振り向く。そこには優しいまなざしのユリアンナさん。


「……信頼できそうな子たち、なの?」私にだけ聞こえるようにささやく。

「あ、うん……友達、だよ。一緒にがんばろうって決めたんだ」

「そう。……よかったわね」そしてにっこり微笑んで、


「今度ウチに連れてらっしゃいな」などとあまりにもあっけらかんというもんだから、「やなこった」と思わず返し、二人で思わず吹き出した。

 そんな様子を二人に不思議そうな表情で見られてしまった。



 ◇ ◇ ◇



 ギルドでの用事をすませ、市場に向かった。まずは三人の服を適当に見繕うところからだったんだけど。


「お姉様、お姉様! ほらこれ、これなんかどうでしょう? きゃっ、これも可愛い!」

 うん、可愛いね、エルちゃん。でも、あなた。ノリノリだね。

 最初一番渋ってたの、どちらさんでしたっけー。

 ほらディルをごらん。疲れて飽きちゃってるよ。

「ねぇディル、これはどう思う?」

「あー、うん。かわいいかわいい」

「ちょっと! まじめに選んでよ!」


 そこからたっぷり小一時間。

 納得いくまで吟味したエルが当初の目的を忘れ、満足そうな雰囲気で家に帰ろうとしたので首根っこを捕まえて防具屋さんに移動した。



 ようやく防具屋についたときには、日が傾きかけていた。

 こんな時間に来やがってと叱られ。

 お前は道具の扱いが雑だと叱られ。

 こんないい石あるならさっさと着けとけと叱られ。

 剣とか矢じりなんて作ったことねぇモン作らせやがってと叱られ。


 仲間ができてよかったなと喜んでくれた。


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