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忌み子と彗星  作者: ずおさん
第二章:仲間とは
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第十五話 ざわめく心

「おはよう、もう起きていたの。早いんだね」


 身支度を整え、店に降りると双子ちゃん達は既に起きていた。意外と早起きなのだと感心したけれど、その直後に開店準備をしていたおばさんから、キツイ一言が飛んできた。


「あんたが遅すぎるんだよ、何時だと思ってるんだいアレクシア」


 でも仕方ないじゃない。夜中に目が覚めてから興奮で眠れなくなってしまったんだから。で、あ、眠くなってきたなーって思って目を閉じて、しばらくして目を開けたらついさっきだったんですもの、おば様。

 ……などと心で言いつのってみたところで、それを言葉にする勇気もなく。ただ「すいません」としょんぼりして席に着く。


 さておき。


 彼女たちは既に食事を終え紅茶を飲んでいたところだった。私はその隣でおば様特製モーニングをいただくことにする。

 食べながらの会話になったけれど、彼女はここに留まることを選んだようだ。私とパーティーを組んで、近場での依頼やダンジョン探索をしてみようということに決めたとエルが告げた。


「ご迷惑をおかけしますが、精いっぱい頑張りますのでよろしくお願いいたします」

 立ち上がり、ぺこりと一礼をする二人。なんて真面目な子たちなのだろう。


「うん、こちらこそよろしくね。気づいていると思うけど、私も『忌み子』だから。似た者同士、仲良くしようね!」


「……はい! 頑張ります!」

 ディルが元気に返事をする。うん、よろしい。元気な子はお姉ちゃん、大好きだよ。


「私は一応魔法を使えます。……高級なものは使えませんが……火と水、回復が得意です」

 エルはあくまで控えめだ。そんなにかしこまらなくていいんだけど。もちろん、大人しめの子もかわいい。


「うん、エルちゃんにもすっごく期待してる。頑張ろうね」

「そ、それでその……アレクシアさん」


「あむ。……なに?」

 たまごサンドを食べながら返事してしまった。はしたない。


 しばらくエルはもじもじしていたけれど、意を決したように両の拳を胸の前にそろえ、ずずいと一歩近づいて次の言葉を発した。

「あ、あの、……お、お姉様と、呼ばせていただいても!?」


「えーっ! じゃあじゃあ私は……お姉ちゃんって呼んでいいですか!?」

 エルに続きディルもかぶせるように言い募る。


「むぐっ!?」


 私はというと、たまごサンドを危うく喉に詰まらせるところだった。

 お姉様にお姉ちゃん。破壊力抜群な申し出に、鼻血が出そうな気がしてきた。


「んんっ! こほん。……いいよ、好きに呼んでくれて。私からはエル、ディルって呼ぶね」


「「はいっ」」


 控えめに微笑むエルと、満面の笑みのディル。二人の対照的な笑顔に心が温かくなるのを感じた。お姉ちゃんを悶え死にさせる気か、あなたたちは。


 この後、早速身支度を整えたら近場を回りつつ、お互いの実力を知る時間にすることとした。装備はそれなりの物を持っているようなので追加で準備する必要はなさそう。私は朝食の残りを慌てて食べ終えると、装備を取りに慌ただしく部屋に戻った。




 早速、いつも薬草を取りに行く近場の森に向かうため通りに出た。

 いつもはヴァイスとだけのパーティー。けど今日からはエルとディルを含めた三人と一匹になった。ずいぶん安心感が違う。


「お、カワイ子ちゃんたち! おじさんもついて行かなくていいかい?」


 門番のおじさんも物珍しさからか、いつもと違う声掛けになってしまっている。


「ありがたいけれど、おじさんは街の門を守っててね。いってくるね、おじさん!」

「気をつけろよ!」


 かつての命の恩人、門番のおじさんに軽く手を振り、街を後にした。


 歩きながら簡単なハンドサインの確認をみんなでしつつ歩いていたら、あっという間についた。そう、私に手傷を負わせた、にっくきあのワイルドボアの森だ。

 今日はワイルドボアを二頭ほど倒し、連携を確認する。


「倒した後はどうするんですか?」

「お店の肉料理の素材になるから、森の出口まで手で運んで、そこからこの荷車に乗せて運ぶよ」


 二人は頷き、私の後について森に足を踏み入れた。



 結論から言えば大成功だった。


 ヴァイスが攪乱と遊撃、私が盾役と攻撃を臨機応変に。ディルが私の側面から攻撃を行い、エルが背後から魔法攻撃と支援。役割は見事にはまった。

 お陰で一時間も経たず、全く危なげなく、目標以上、三体を狩ることに成功していた。

 この調子ならば魔物……ゴブリンやオークくらいだったら、数が居なければ余裕をもって戦えそうだ。

 やはりこの双子、この年齢に釣り合わないほど戦闘訓練を受けている。

 どこでこんな技術を? ……なんて聞きたいのは山々だけど、聞かない方が彼女たちにとって幸せだろう。


 さてワイルドボア。猪といえど大きいものは大人の体重を優に超える。そのまま運ぶのは難しい。その場で解体し、必要な部位、牙、毛皮、肉の一部。これらを除き残りは置いていく。即席で作った背負子にそれらを乗せ、三人で分担して運ぶ。今度はきちんとしたものを持ってこよう。

 ディルは年齢からしたら大きめの体だとは思うんだけど、それでも子供の体重ほどの素材を背負うのはやはり大変らしく、時折よろめきながら歩いている。


「森の出口までだからがんばろうね」

「わかった、お姉ちゃん」


 よろめきながら歩いてるんだ。さぞ疲れるだろうに、ディルは健気に笑う。


『お姉ちゃん』……! もっと呼んでくれていいんだよ?

 にしても……やっぱり魔法、便利だなぁ。というのもエルは魔法で浮かせて運んでいる。ただ何も持っていないのに汗をうっすらかいているように見える。


「どうしたのエル? 体調でも悪いの?」

「いいえ、どうしてですか? ……ああ、魔法を持続的に行使しているので、精神的に少し。なのでちょっと汗をかいてます……っ!」


 突然エルが運んでいた素材が音を立てて地面に落ちる。

「びっくりしたぁ。どうしたの?」

 突然のことにディルも驚いて振り返ったほどだ。


「あ、あああの! もしかして、私……汗臭いですか!?」

 慌てた様子でエルがまくしたてると、体のあちこちのニオイを自ら嗅ぎ始める。


「えっ? ……ぷっ。ははは! ……うーん、どうかなぁ?」


 そんなに気にするのなら、私もチェックしないわけにはいかない。実はかなりニオイフェチ。どれだけ臭かろうがなんだろうが、確認するときにはまず匂いをかがないと気が済まない、我ながら残念な質なのだ。素早くエルの腕をひっつかみ、引き寄せる。


「やだ、やめ、やめてくださいお姉様! あ、ちょ、嗅がないでぇー!!」

 ぐるぐる目のエルが、必死の抵抗を見せるが無駄なこと。


「大丈夫だよ、なんにも臭わないよー? むしろいい匂い……ふふ」

 ああ、女の子のいい匂い。お姉ちゃん幸せ。


 その後、お姉様ひどいですと言ったきり、エルは真っ赤な顔でプリプリして近づいてくれなかった。……お姉ちゃん悲しいです。


 森の出口にある小川で軽く汗を拭いてから謝り倒し、ようやくエルの機嫌が直った。


「なんだかすごく連携がとれているから、洞窟なんかも行けそうだね? 岩場とか洞窟とかには鉱石とか、宝石とかもたまーにあって、それはギルドで引き取ってくれるの。そうしたら資金的にも余裕ができるから。どうかな?」

「そうだね、エルには魔導書が必要だし、私も新しい武器とか欲しいしね、賛成だよお姉ちゃん!」

「ディルは特に魔法抵抗も少ないので、宝石で抵抗力を上げたいところです。いいですね、そうしましょう、お姉様」


 私の提案に、二人は互いのことを思って考え、賛成してくれる。本当に互いに姉妹想いで感心する。


「じゃあ、まずは戻ってお店の手伝い。明日は防具屋さんにいこっか。下見を兼ねて!」



 ◇ ◇ ◇



 そして夕方からの店の手伝いのため、いま着替えが終わったんだけれど。


「あの、どうですか、お姉様」

「可愛いでしょ、お姉ちゃん!」


 部屋から出てきた二人を見てきゅうぅぅん、となる。メイド服! すごくかわいい。


 恥じらいの中に見え隠れする、つぼみのような秘めやかで可憐な美しさを持つエルちゃん。かたや天真爛漫で、太陽のように健康的な可愛さをもって魅了せんとするディルちゃん!

 二人とも……恐ろしい子……っ!


 ちなみに私は蝶ネクタイなぞしつつカウンターの奥でシェイカーを振っている。いわゆるバーテンダーだ。以前は私もメイド服を着てフロアを回っていたのだけれど、体のいろんな所が大変けしからんことになっていて、いかがわしいと。

 そんなこんなで主におばさん連中からカウンターの向こうに撤退するように指示があり、このような配置になってしまっている。まぁ私もおじさんたちの目線やらタッチやらに辟易していたので助かった。

 双子はまだお子様なので、おじさんたちもさすがに手を出さないだろうけれど、あと数年でわからなくなる、絶対。


 二人にはまだ言ってないけど、明日は防具屋に行って、お父さんからもらった宝石であの子たちの防具を強化してもらう。もちろん自分の防具もだ。ダンジョンの探索にもきっと役に立つだろう。

 そういえばサルヴィオさん、そろそろミッドフォードに帰るんじゃなかったっけ。帰る前に武器作成について聞いておかなければ。


 カシャ、カシャ、カシャ……

 軽快なシェイカーの音を響かせながら、新たな場所の探検について思いを馳せてみた。

 シェイカーキャップを開け、グラスに静かに注ぎ込む。


「おまたせしました。どうぞ」

「アレクシア、なんだが楽しそうだけど、いいことあった?」


 グラスを受け取ったお姉さんが珍しそうにたずねた。

 顔に出ていたのかな? 恥ずかしいな。


「そうなんですけど……ひみつです!」

「あー? 男だなこりゃ」

「そんなのいませんってば!」


 途端にカウンターに笑いがあふれる。こういう雰囲気は嫌いじゃない。


 でも、そう、だね。うん。きっとそう。


 私……きっと、もっと冒険したいんだ。


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