生きるか死ぬか
俺は日本中の街のどこにでもいる平凡中の平凡な男、竜田十季である。現31歳、一応彼女在り。仕事はサラリーマンでなんら不自由のない生活を送っている。お金にも住処にも恋人も。何も困っていないのだ。こんなことってありなのか・・・?まるでゲームのストーリーみたいな感じみたいだ。
「・・・さんっ、十季さんっ」
「ん・・・?」
パチッと目を覚ます。俺は町中のベンチにぐでっと座っていた。
目の前には、彼女の瑞子が膨れっ面で立っていた。手にはドーナッツの袋をぶら下げている。
そうだった。、瑞子がドーナッツを買って一緒に食べようかと言っていたので俺はベンチで待っていると言ったのだった。
「すまん、すまん。てっきり寝てしまった」
「も~、十季さんたらっ」
ぷんぷん怒っていたが、結局笑っていた。彼女の微笑みにつられて俺も笑ってしまった。
「さー、このベンチ寒いし、どっか食べれる場所探そうぜ。暖かいとこな!」
「ええ、分かってますよー!」
今は冬だから、外にいるのは結構寒いので、別の場所で食べることにした。
その後、二人で「歓迎店」という店を見つけた。随分と古風な外装だったが、中に入ってみると意外と洋風だった。
瑞子がドーナッツの入っている袋を開けて、俺に手渡した。茶色いコーティングがされているのでおそらくチョコレート味だろうと思った。
俺は何も考えずにかぶりついた。
一口・・・二口・・・三口目に入ろうとしたら、ドーナッツを手から落とした。そして、床にポトンと落ちていった。
「あれ・・・?」
「あ~、十季さん、ドーナッツ落としちゃったんですか?」
「あ、ああ。すまない」
ドーナッツを拾おうとすると、くらっと目眩がした。ふらふらした後、何かが体の中から出てくる感じがした。口を抑えて
「ゲエッホッ!!」
と咳をした。風邪は引いていない。なのに咳が出た。むせたのか?いや、そんな感じじゃなかった。
何が出てきたのかと手のひらを見ると、手は赤色で支配されていた。
「!!」
「きゃあああああああっ!!!!」
瑞子の悲鳴はごもっともだった。なぜかというと。
俺が咳で出したのは血だった。更にゲホッゲホッと血が出てくる。
「・・・・・あ、あ、あ」
「いやあああああああああああ!!」
血がかかった手はブルブルと細かく震えていた。それどころか全身が震えている。
そして、ついには倒れてしまった。
「十季さん!・・・さんっ!・・・・・あああああああああああああん!」
瑞子の悲鳴がどんどん小さくなっていく。
そして、俺の意識は闇の奥へと落ちていった。
俺は、これで終わりなのかな。
そんな事が頭をよぎる。
もう体を動かす力はなく、ぼんやりしている景色を眺めていることしかできなかった。
そして、完全に闇に落ちた。
しかし、一筋の光が現れる。
何かの希望かもしれない。
俺は腕を(もうどこに腕があるのか分からんが)必死に伸ばした。
少しの希望のために。
死へあらがうために。