1話
皆さんどうも! 柚波です!
書くのは初めてなので至らない所も多いかと思いますが、生暖かい目で見守ってくださると嬉しいです!
アドバイスとか感想とかくれると尚嬉しいです!
辺り一面を田畑に囲まれた緑の匂い溢れるこの場所には、村落などが存在する訳ではない。
周囲の風景とは不釣り合いなほど大きな建物がポツンと一つ建っているだけである。
平民が住むには大きすぎ、貴族が住むには地味すぎるこの建物。
しかし、この建物に住んでいる人物を知らない者はこの国にいないだろう。
平民出身でありながら数多の戦場を駆け、救国の英雄、エルミアの軍神、陽炎、と挙げればキリがないが、いくつもの異名と、それに恥じぬ武功を手にした彼の望みは驚くほど小さなものだった。
「では、この問題の答え、分かる人?」
決して大きな声ではないが不思議とよく通るその声を発したのは、鮮やかな赤い髪の男、そしてその声に反応するように挙げられたいくつもの手、少年少女合わせて42名の生徒たち。
この場にはいないが、別の教室で別の教師から授業を受ける生徒たちを合わせれば329名。
英雄として、富も名声も全てを捨て去り、彼は望んだ。
親を失った子供たちが健やかに学び、成長することができる居場所を、と。
今まで多くの命を奪いながら生きてきた。
ならば、これからは命を守る為に生きていこうと。
これが自己満足であることは理解している。
それでも彼は思う。
これから訪れるであろう平和な世に自分のような存在を生み出してはならない。
人を殺す為の力ではない。
人と生きる為の知識を与えようと。
それが彼女と交わした約束なのだから。
「何故ですかウォルフ殿! 何故貴方ほどの人がこのような片田舎で教師の真似事などを! 」
「……子供達が起きてしまう、時間帯を考えてはくれないかな。 」
豪奢な鎧を身に着けた、未だ若さの残る顔立ちをした男の熱の篭もった言葉とは真逆に、鮮やかな赤い髪をした男の口調は冷めたものだった。
もっとも、幾度もなく同じ言葉を掛け続けられていれば冷たくなってしまうのも仕方がない話かもしれないが。
「……申し訳ありません。 ですが、これは私一人の意ではありません。 この国に暮らす多くの者たちが私と同じ事を思っているでしょう。 」
「しかしだね、 僕はもううんざりなんだ。 殺伐とした戦場なんてものはね。 」
続けて赤い髪の男は言う。
「君は戦場に出た事はまだ無かっただろう。 いずれ機会があれば嫌でもわかる事だがね、戦場というのはおとぎ話や童話のように華々しいものでは決して無いよ。 戦が長引けば三日三晩眠ることもできない。
補給が滞れば、まともな食事にありつくことも難しい。無論、僕も雑草や矢傷を負った馬をその場で殺し食べた事も一度や二度じゃない。
親しい友人や……そう大切な人を失う事だってある。君は僕にそんな場所へ戻れというのかい? 」
「それは……しかし、貴方は! いえ……返す言葉もありません。 今日の所は失礼致します。 」
「あぁ、期待に添えず済まなかったね。 」
部屋に一人残された赤髪の男、ウォルフは小さく溜息をつく。
そんな彼の元を次に訪れたのは、一人の女性だった。
三度のノック、そして部屋の外から凛とした声が掛けられた。
「ウォルフ様、夜分遅く申し訳ありませんが、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか。 」
「あぁ、大丈夫だよ。入ってくれ。 」
扉を開け入ってきた女性の名はミラという。
ウォルフが英雄として名を馳せる以前から彼を支え続け、彼が軍職を辞した後も変わらず側に仕え続けた女性である。
戦場でも無いのに鎧を身に着けている点は先程ウォルフの元を訪れた若騎士と同じだが、そこには大小様々な傷が残り、苛烈な戦場を生きてきたことを静かに物語っていた。
それでも尚、その透き通るような銀髪と同じ強い意志を持った瞳は変わっていない。
そんな彼女をウォルフは羨ましいと、そう思っていた。
それは自分が無くしてしまったものだから。
「まぁ、座ってくれ。 」
ミラが対面の椅子に腰掛けた事を確認すると、ウォルフは口を開いた。
「それで、話というのは? 」
細かな気遣いのできる彼女が、夜遅くに私室を訪れるということは重要な話なのだろう。
もしかしたら、腑抜けた自分に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。
それはとても悲しく辛いが、その時はせめて気持ち良く送り出そう。
彼女ほどの能力があれば、軍職に戻れば相応しい地位が用意されるだろう。
そんな事を考えていたウォルフだが、彼女の口から出た言葉は彼の予想とはまったくかけ離れていた。
二日に一回更新を心掛けます!
読んでくれてありがとうございます!