妄想暴走少女 二宮 円香 1
今回は幼馴染の二宮 円香編です。
物心付いた時から、傍に居たのに。
ずっとずっと、大好きだったのに。
真央君は私を選んでくれなかった。
どうして?
なんで私じゃダメなの??
こんなにも、大好きなのに・・・・
☆☆☆
ピピピ、ピピピ♪
毎朝恒例の規則的な音が、僕の睡眠の邪魔をしてくる。
なぜ朝はやって来るのだろう、と哲学めいた事を考えてみるも、自分の脳のスペック上答えは見つからない事を悟り断念する。
「お兄ちゃん、朝だよ〜」
うん、我が妹よ。そんなテンプレみたいな事言わなくてもお兄ちゃんはちゃんと起きられるよ。
でも今だけは許しておくれ。布団が気持ちよくて、僕を離して、くれ・・・・zzZ
「円香ちゃん来てるから早く起きなよ」
「ぃよーーーーしっ! そろそろ起きちゃおっかなーーーーっ!! 」
危なかった。
もう少しで僕は嬉々とした円香に過剰な世話を焼かれる所だったのか。
ナイスだ、妹よ。後でこの前食べたがっていたケーキを買ってきてあげよう。
「あれ? 咲、朝練は?? 」
「今日は休み」
「へ〜? 」
「むぅ、言っとくけどお兄ちゃんの所為でもあるんだからね?? 」
「ぐぅっ、そうでした・・・・」
一ヶ月程前、僕達の学校でとある事件が起きた。
『学園のアイドル・一ノ瀬 紗奈の熱愛発覚&部活動退部』である。
事件の内容としては、
「陸上部のエースが突然の退部」「しかもその理由が『彼氏と同じ部活動に入りたいから』らしい」「部員二人の『福祉部』とか言うよくわからん何の実績もない部活に入部する」・・・・etc
書き連ねると、なかなかシュールな事件なのだが、学校側としては大問題なのだ。
陸上部は一ノ瀬さんを連れ戻す為に顧問が色々とやらかし、無期限の活動休止。
そして、我が妹も今となっては帰宅部同様、放課後はスタコラと帰ってくる様になってしまった。
「全く、お兄ちゃんが一ノ瀬先輩と付き合い出した所為で学校中がパニックだよ・・・・」
「いや、だからそれは誤解で────」
「あれ? 真央君が起きてる・・・・」
僕の弁明を遮る様に、幼馴染の円香が入ってきた。
「あ、円香おはよう」
「真央君、最近しっかりしてきたね・・・・」
「え? まぁ、さすがに────」
「やっぱり、一ノ瀬さんと付き合い出したから? 」
「────円香、さん? 」
「もう、私は要らないのかな? 真央君に、私は必要無いのかな?? 」
「ちょっと待って、円香。それは誤解で・・・・」
「・・・・うっ、ぐすっ、真央君は、私の事、どうでもいいんだ! 」
「いや、そんな事一言も言ってな────」
「もう知らないっ!! 」
あぁ、まただ。
あの日から、円香は少しおかしくなってしまった。
自分から話しかけてきては、勝手な勘違いをし、突然泣き出して走り去ってしまう。その癖、しばらく時間が経つと謝りに来る。
こんな事を何度も繰り返している。
いい加減、話を聞いてくれないかなぁ。
一ノ瀬さんの事とか、最近の事で相談に乗って欲しいんだけどな・・・・。
「お兄ちゃんいつからモテ期になったの? 」
「割と最近・・・・」
「うっざ・・・・」
お前が聞いたんじゃん。
反抗期かなぁ? お兄ちゃんは寂しいよ。
☆☆☆
「おはようございます、まおくんっ! 」
「うわっ、びっくりした」
玄関を開けると、一ノ瀬さんが待機していた。
「あ、先輩おはようございます」
「はい! 咲ちゃんもおはようございますっ!! 」
「・・・・先輩、敬語はやめてください。私の方が後輩なんですから」
「いえいえ! 咲ちゃんは私の未来の妹、つまり今から関係を良くしておかなければっ!! 」
「それを自分で言ったらマイナスですよー」
「はっ!? 私とした事がっ!? 」
妹よ。最近『憧れの先輩』と会話する気分はどうだ?
これが現実だぞ??
「ところでまおくん、二宮さんとはちゃんと仲直りしてくださいね? 」
「あぁ、後でちゃんと話するよ」
「えぇ、まずは今朝の事を謝らないと────」
「なんで一ノ瀬さんが朝の事を知ってるんですかね? 」
おかしいよね? 僕が一ノ瀬さんに会ったのは今さっきだし、円香が走り去ってから30分は経ってる。
「どこから聞いてたの? 」
「ふふっ、内緒です♡ 」
「盗聴か・・・・」
この人ならやりかねないからな。
まぁ、もう慣れたからいいけど(?)
ほんと、なんでこんな事になってるんだろうな?
うちの妹を見てご覧よ。
『憧れの先輩』が今では『兄のストーカー』になってて気まずそうだよ。
「はぁ、じゃあ私先に行くから。お兄ちゃん、遅刻しないようにね・・・・」
「う、うん。咲も気を付けてね? 」
見ていられなくなったのか、咲はスタスタと早足で学校へと向かって行った。
その後ろ姿を、一ノ瀬さんは手をひらひらと振りながら見送っていた。
咲の背中が見えなくなると、一ノ瀬さんはぐりんとこちらへ顔を向け、鼻息を荒くしながら話しかけてきた。
「ところでまおくんっ」
「今度はなんでしょう? 」
「そろそろまおくんのご両親にご挨拶をさせていただきたいのですが、何時頃ご都合がつくでしょうか?? 」
おいおい、またぶっ飛んだ事言い出したな。
「多分、簡単には会えないと思うよ? 」
「えぇっ!? 何故ですかっ!? 」
「共働きだから滅多にいないし、僕が阻止するし」
「あぁ、まるで禁断の恋の様です」
いや、恋の相手が阻止してるんだから違うんじゃないかな?
一ノ瀬さんの妄想も落ち着いたのか、息を整えると
「私、諦めませんから。」
と、いつに無く真面目な顔で呟いた。
☆☆☆
「よぉっ、真央っ! 今日もラブラブだなっ!! 」
ここ最近、優太は毎朝この挨拶をしてくる。
しかもこいつ、事情をわかっててやってるからな。こうゆう時は無視するに限る。
「え? 返事無し?? 嘘でしょ??」
「・・・・」
「うぅ、ひでぇ。まぁいいや」
まぁいいのか。
「一ノ瀬さんおはよ! 」
「はい、おはようございます」
「今日も真央とラブラブだ────」
「そうなんですよっ!! 」
うわっ、食い気味で反応した。
優太も思いの外反応が良くてびっくりしたのか、ギョッとしている。
その後も、一ノ瀬さんは優太に「まおくんの素晴らしさ」「ここが可愛い」等と語り始められてゲッソリとしていた。
「あ、あの、真央君」
「ん? 」
席へ着くと、タイミングを見計らったかのように円香が話しかけてきた。
「け、今朝はごめんね? 私、あのまま逃げちゃって・・・・」
「別にいいよ。全然怒ってないし」
「そ、それでね? 私、後で話があるんだけど・・・・」
「? あ、あぁ、わかった」
「じゃ、じゃあ、お昼休みに、ね? 」
話って何だろう?
まぁ、こっちも聞いて欲しい事があるしいいかな??
ふと、左側を見ると佑と茜がニヤニヤしながら見ていた。
☆☆☆
不思議だったんだ。
何の関わりもなかった真央君が、突然一ノ瀬さんと付き合う事になったのも。
一ノ瀬さんに無理矢理迫られても、真央君がそんなに嫌そうにしていないのも。
わかってる。
わかってるよ。
真央君は、何も悪くないよね。
私が。
『助けてあげるからね』
☆☆☆
「まおくん、何かわからない所はありませんか? 」
授業になると、時々隣の席の一ノ瀬さんがそんな事を聞いてくる。
なるべく一ノ瀬さんに頼りたくはないんだけど、今わからない所があったしとりあえず聞いてみるか。
「隣の席の女の子が授業中に腕を組んでくる理由がわかりません」
「不思議ですよね。こんなにも愛し合っているのに、先生方からは『一ノ瀬、成績が良いのはわかるがさすがに自重してくれ』だなんて言われてしまうのですから」
「いや、何も不思議な事は無かったよね。先生の言ってる事は100%正しかったよね」
「私は残りの1%に賭けています」
「どこから来たんだよその1%」
「一ノ瀬さん、七瀬くん、私の授業はつまらないですか?? 」
あ、ほら、怒られた。
全く、なんで僕がこんなに疲れる思いをしなくちゃならないんだろう?
円香の話も気になるし。
あぁ、早く言葉に会いたい。
早く放課後になって言葉の動物的な愛らしさを愛でたい。
「あ、まおくん、今別の女の子の事を考えていましたね!? エッチなことですかっ!? エッチな妄想をしていたのですね!? その妄想を私に変換すると、あら不思議っ! まおくんは途端に発情し、今夜私と・・・・ぐふふふふ♡♡♡」
うわぁ、美人なのに汚ぇ笑い。
なんか僕の隣の優等生がアホの子に見えてきた。
どうにかならんかね? この残念美人
いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
これからも頑張ります。