一ノ瀬 紗奈の失墜 4
※ヒロインにまともな女の子はいません。
私、一ノ瀬 紗奈は、モテるかモテないかで言ったら「モテる」部類に入るんだと思います。
だからと言って、誰かを好きになる事なんて考えられませんでした。
男の子はみんなエッチです。
隙あらば胸元を見てくるし、スカートを履いてればパンツを見ようと躍起になる。
こんな事してる人に限ってすぐに「モテたい」とか言い出す。
本当、そう言う所ですよ??
だからこそ、私は男の子が苦手だ。
本当にいやらしい。
男なんて、信頼出来る訳が無い。
・・・・・・
いや、違う。
『男』だけじゃない。
『人間』なんて、信じられない。
『彼』を除いて
☆☆☆
「あ、あの〜・・・・」
「何でしょう? 『一ノ瀬さん』?? 」
「わ、私は何故、床に正座をさせられているのでしょうか・・・・?? 」
不思議な光景だな。
学校一の美少女が床に正座をさせられ、冴えない男子に仁王立ちで見下ろされている。
絵面だけ見ると思わず噴き出してしまいそうだ。
「一ノ瀬さん、自分がやった事を理解出来ていますか? 」
「? 特に悪い事をした覚えは無いのですが・・・・?? 」
おっと? この美少女は自分のやった事を理解出来ていない??
「あのですね、一ノ瀬さんのやってる事は『窃盗』と言う立派な犯罪ですよ」
「うそっ!? 」
「あたりまえですよっ!! 」
「私達夫婦になるのですから旦那様のものは私のものでもありますっ! 」
「ん? 何言ってんだ?? 」
「旦那様の忘れ物を愛の巣へきちんと持ち帰っただけですっ! それの何が悪いと言うのですかっ!! 」
「いや、だから何言ってんだ?? 」
「あ、でも、すいません。昨晩は体操着とジャージの濃厚な匂いに耐えきれず、諸事情により汚してしまいました・・・・きゃっ♡」
「本当に何言ってんだッ!? 」
どうしよう。
さっきまで『憧れの人』だったものが足元で正座しながら恍惚とした表情をしている。
なんでこんな変態が野放しにされてたんだ・・・・
「まおくん、まおくんっ」
「はぁ・・・・なんですか? 」
「さっきから後ろでじっと見つめてる女の子はどなたですか?? 」
「うぇっ!? 」
振り向くと、言葉がドアを支えに立っていた。
「うぅ、せんぱい、おそい」
「え? ・・・・あっ、ごめん! ケーキ食べに行くんだよな!? 」
まずい、すっかり忘れていた!
言葉は、一ノ瀬さんの顔を見ると一瞬驚いた様な顔をしてこちらへ走ってきて僕の袖をきゅっと握った。
「せんぱい、はやく・・・・」
「う、うん、そうしたいのは山々なんだけど────」
「私も行っていいですか?? 」
ほらっ! こうなると思った!!
「私も行きたいですっ! いいですよね?? 私、まおくんの彼女ですしっ!! 」
「彼女じゃないです」
「うぅ、わたし、このひと、きらい」
「がーんっ!? 」
「がーんっ!? 」って口で言う人初めて見た・・・・。
「ま、まぁ、そうゆう事なんで、一ノ瀬さんはまた今度────」
「デートですかっ!? 」
「『説教』します」
「えぇーーーーっ!? 」
当然だ。当然の結果なんだ、一ノ瀬さん。
その後、喫茶店に着いてからしばらく言葉は不機嫌そうにしていたが、ケーキが運ばれてくると嬉しそうに頬張っていた。
それにしても、憧れの人の正体があんな感じだったとは・・・・。
ダメだ、考えるのは良そう。
☆☆☆
言葉とも別れ、家に着くと僕はベッドに倒れ込んでしまった。
さすがに今日は色々とあり過ぎた。
ダメだ、疲れて、眠くなって────
「おにいちゃーん、帰ってきたなら靴揃えてよーっ! 」
どうやら寝る事は許されないらしい。
『七瀬 咲』。
僕の妹で高校一年生。陸上部に所属したらしく、ここの所帰りが遅い。お兄ちゃん心配。
「咲〜、代わりに揃えておいて〜・・・・」
「自分の事は自分でやってよ〜! もう高校二年生でしょーっ!! 」
「ごめん、ちょっと、疲れた・・・・」
「も〜、どうしようもないな〜。このクソ兄貴は・・・・」
え? 今『クソ兄貴』って呼ばなかった??
反抗期なの? ねぇ??
もう怒ったっ! お兄ちゃんも反抗期だから今日はここから1歩も動かな────
「円香ちゃん呼んだからお世話してもらいなっ! 」
「何してんだテメェェェェェッ!? 」
「真央君が世話を欲していると聞いてッ!! 」
どうすんだよ! 連絡して5秒で来たよッ!! ファーストフードよりも早ぇんじゃねぇの、これっ!?
「真央君何かして欲しい事ある!? ん!? んっ!? 」
「無い無い無いっ! 無いですっ!! 自分で動けるからっ!! 」
説明しようっ! 二宮 円香の夢は「お嫁さん」を貫き通しており、『花嫁修業』と称して異常に僕の世話を焼きたがるのだっ!! しかも、若干構いたがりな性格故にもはや鬱陶しいと感じるレベルであるっ!!
「むぅ、真央君がお世話させてくれるって言ったのに・・・・」
「いや、言ってないよ・・・・。でも、そうだな。ご飯作ってくれるか? 」
「わかった! 何が食べたいっ!? 」
「あ〜、疲れてるから胃に優しいものとか────」
「真央君、疲れてるの? 」
────あっ、やべっ
「疲れてるなら私、マッサージしてあげるっ! ほらっ、横になってっ!! 私こうゆう日の為にカリスママッサージ師チョー・キモチー先生に弟子入りしてたんだからっ!! あ、その後は身体にいい物も作ってあげるねっ!! 」
「わかった! わかったからっ!! 色々当たってるんだよっ!! って言うか、そんな胡散臭ぇマッサージ師に弟子入りすんな────痛てててててっ!?!?!? 」
この後、めちゃくちゃマッサージされた。
もう、お婿に行けない・・・・
☆☆☆
「お兄ちゃ〜ん、朝だよ〜っ! 早く起きろよ穀潰し〜っ!! 」
ひでぇ・・・・。
なんで僕、朝から妹に罵倒されてるんだろう?
えぇっと、昨日はあれからどうしたんだっけ?
確か円香に料理を作ってもらって、風呂に入ろうとしたら「背中を流す」とか言い出したから咲に足止めしてもらって、風呂上がったらすぐにベッドに向かって・・・・
ダメだ、ここから先が思い出せねぇや。
まぁ、どうせ寝落ちしたとかだろう。
・・・・って言うか、今何時────
ふにょん
「あん♡ 」
────え?
「あ、まおくん、起きましたか?? 」
「きゃーーーーーーッ!? 」
「あら、可愛らしい叫び声ですね! 」
な、なんで・・・・
「なんで一ノ瀬さんが僕のベッドに潜り込んでるんですかっ!? しかも全裸でッ!! 」
一ノ瀬さんは「何を言っているのかわからない」と言った顔でキョトンと小首を傾げると、何かを察したかのように深々と頭を下げた。
「おはようございます、まおくん」
「あ、おはようございます・・・・って、違くてっ! ちゃんと質問に答えてくださいよっ!! 」
「えぇっと、昨日は同じ部活の後輩である咲ちゃんに頼み込んで、まおくん達のお家に上がらせてもらったんですけど────」
「え? 昨日?? 」
「? はい、一緒にご飯も食べたじゃないですか」
「待って、記憶に無い」
「まぁ、昨日のまおくん、なんだかぼーっとしてましたからね。疲れてたんですか? あっ、でも疲れててもこちらはお元気なんですねっ! 」
「疲れてんのは100%あんたの所為だし、どさくさに紛れて股間を撫でるんじゃねぇよ」
一ノ瀬さんは「私何か悪い事をしましたか? 」とでも言いたげな顔をする。
くそっ、顔がいいから遂許しそうになる。
「まぁ、一ノ瀬さんが家に居るのは百万歩譲って納得するとして」
「随分下がりましたね? 」
「なんで一ノ瀬さんが僕のベッドにいるんですかね? 」
「私は何も悪くないですよ? まおくんが潜り込んできたんですよ?? 」
「はぁ? 」
何言ってんだこの女? 遂に妄想を語り出したか??
「えぇっとですね。昨日まおくんがお風呂に入っている間、『おっ、今ならお部屋に入って堪能し放題なのではないか? 』と言う事に気が付きまして! 」
「ほう? 」
うん、まずこの時点でおかしいな??
「色々堪能したのですが、最後はベッドでまおくんの匂いに包まれていたんです」
「へぇ? 」
なんで誇らしげなんだ?
「そしたら、突然まおくんがベッドに潜り込んできて、私びっくりしましたよっ! まおくんから抱き締めてくれるなんて思ってませんでしたからっ!! 」
「・・・・続けて? 」
「そして、僭越ながら私、衣服を脱ぎ捨てまおくんの抱き枕へとクラスチェンジしたのですっ!! 」
「・・・・」
「あぁっ、思い出すだけでもドキドキしますっとっても、激しかったですよ、旦那様♡ 」
「意味がわからないよッ!! 」
僕の叫びに、一ノ瀬さんは一瞬肩をビクッと震わせた。
そして、咲にも聞こえたのかドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえてきて、ドアがバンッと勢いよく開いた。
「お兄ちゃん、朝からうるさ、い────」
はい、ここで問題です。
扉を開けると、ベッドの上に立ち上がり下半身もご起立状態の自分の兄。
そして、その横には部活の先輩が全裸で、「ご立派! 」とでも言いたげな顔で兄の股間を凝視しています。
この後、妹はどんな行動に出るでしょうか??
「い、いや、違うぞ、妹よ! これはだな────」
「・・・・きゅう」バタンッ
「ちょっ!? 」
正解は、
「し、白目を剥きながら気絶してる・・・・」
でした。
あぁ〜あ、可愛い顔が台無しじゃないか・・・・
あの『憧れの人』だった一ノ瀬さんはもう帰って来ねぇのかな・・・・??
どうだったでしょうか。
少し下品になってしまったかもしれませんが、こんな感じで続きます。次で一ノ瀬 紗奈編は最後です。よろしくお願いします。