一ノ瀬 紗奈の失墜 3
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「優太ぁぁぁぁぁぁあっ!! 」
昼休みになると、僕は真っ先に優太の元へ走った。
「お前なんで言っちゃうんだよぉぉぉぉぉおっ!!!! 」
「痛い痛いっ! 落ち着けって!! 胸ぐら掴まないでくれっ!! 」
これが落ち着いていられるかよ!
優太の所為でクラス中で俺が一ノ瀬さんをどう思ってるのかバレたしっ!!
どうすんだよ! 振られたらっ!!
同じクラスになれて嬉しかったのに、これじゃこの先気まず過ぎるよっ!!
「優太、なんでお前あんな事言ったんだ? 」
荒ぶる僕を宥め、佑が少し怒った口調で優太を問い詰める。
「いや、だって・・・・」
「「だって? 」」
これで下らない理由だったら殴る。
「なんて言うか、一ノ瀬さんってさ、真央の事好きな気がしたんだよな〜」
・・・・え?
「いやいやいや、無いって、それは。なぁ、佑────」
佑の顔を伺うと、びっくりした様な顔をしていた。
え? 信じてんの??
さすがに冗談だろう。どうしちまったんだ??
「なんかさ、一ノ瀬さんってさ、よく真央の事見てるんだよ。授業中とか、えーっと・・・・ほら、今も」
あ、ほんとだ。すげぇ見てる。
・・・・いや、今見てるのは朝の事気にしてるからだろ。
「だから、背中を押してやろうと思ってさ────」
「優太」
突然、佑が優太の話を遮った。
「ん? 」
「ちょっと来て」
「ん〜?? 」
佑が優太を連れて廊下へ行ってしまった。
すると、タイミングを見計らっていたのか、円香がとてとてとこちらへ歩いて来た。
「ねぇ、真央君、一ノ瀬さんの事が好きって、本当? 」
「ぶっ!? 」
いや、そんなストレートに聞く?
「ねぇ、答えて?? 」
気のせいか、円香の目から光が消えている気がする。こっわ・・・・
「いや、まぁ、付き合いたいとは思うけどさ」
「・・・・」
「でも、あくまで願望だよ」
「そうなの? 」
こころなしか、円香の目に光が戻った気がする。
「そうだよ。『付き合いたい』って言うよりさ、『憧れ』って方が近いかな? う〜ん・・・・例えば、画面の向こうのアイドルに対して結婚したいとか、抱かれたいとか言う奴がいるだろ? ああ言うのって、無理だってわかってるけど、言っちゃうんだよ。願望を口にするくらいは自由だからさ。それと同じなんだと思う。僕にとっての『一ノ瀬さん』は『画面の向こうのアイドル』なんだ。えっと、これで伝わる?? 」
「話が長くてよくわかんなかった」
「うっ・・・・」
「でも真央君がちょっと気持ち悪い事はわかった!! 」
・・・・・・
ほっとけよっ!!
☆☆☆
結局、一ノ瀬さんに弁明する事も出来ずに放課後を迎えてしまった。
今は、沈んだ気持ちで部室へと向かっている。
不思議な事に、今日一日話しかけに行こうとすると一ノ瀬さんはそそくさとどこかへ行ってしまうのだ。
帰り際、佑には「一ノ瀬 紗奈には近付かない方が良い」とも言われたしな〜・・・・
「やっぱ、嫌われたのかな〜・・・・痛てっ」
僕がボソッと呟きながら部室のドアを開けると、何かに躓いた。
「ん〜、いたい・・・・」
「僕も痛い」
足元には、綺麗な銀色の髪に黒い大きなリボンを付けた可愛らしい女の子が寝転がっていた。
「『言葉ちゃん』、ソファがあるんだから床で寝るのはやめなよ・・・・」
彼女は、『三峰 言葉』。
僕の後輩だ。
大のめんどくさがりで、どんな時でも眠っている。
男子達からは『眠り姫』と呼ばれているらしい。
噂では、どこかのお嬢様らしいけど・・・・まぁ、嘘だろうな。
「それにしても、珍しいね。言葉ちゃんが僕より先に部室にいるなんて。」
「うん。せんぱい、まってた・・・・」
え? なになに??
告白でもされるの??
「せんぱい、こくはくしたって、ほんと?? 」
oh......
まさか、言葉ちゃんの耳にまで入っているとは。
僕は、とりあえず何故そんなことになったのか経緯を話す事にした。
「────えーっと、こんな感じなんだけど、わかった?? 」
「・・・・zzZ」
「聞いてねぇじゃねぇか」
少しイラッとしたので言葉ちゃんの鼻をつまんでしまった。
「う〜・・・・いひゃい」
「話聞いてなかったでしょ」
「うん、あっ、きょうのおやつはしょーとけーきがいいです」
わかった。最初から聞いてないし、そもそも興味無いな? こいつ。
うーん、まぁ、僕らが所属してる『福祉部』はここ数年何の活動もしてないしな。
どうせ暇だし・・・・
「わかったわかった。奢ってやるから準備しろ」
「奢る」と言った瞬間、言葉がぱぁーっと嬉しそうな顔をした。
ちくしょう、この顔に弱いんだよなぁ、僕は。
「らくなぶかつにはいってよかった〜」
お、言うねぇ、この娘。
「・・・・あれ? 」
僕も準備しようと、かばんの中身を確認すると、違和感に気付いた。
今朝円香に渡されたハンカチが無いのだ。
「せんぱい・・・・? 」
「あぁ、いやっ、なんか、忘れ物したっぽくてさ。取りに行くから、校門の所で待っててくれない?? 」
「う〜ん、わかった」
敬語使えねぇのか、こいつ??
とりあえず、急いで教室に向かわなくちゃ。
☆☆☆
教室の近くまで来ると、奇妙な音が聞こえてきた。
「はぁ・・・・すっご・・・・クンクン・・・・・・ん〜・・・・っ!! ♡♡♡♡ 」
なんだろう、寒気がする。
本能が、『教室に近付いてはいけない』と語りかけてくる。
なんだか、教室に入ると後悔する。
そんな気がする。
でも、引き返す訳にもいかない。
これ以上忘れ物をしてたら、さすがの円香も呆れてしまうだろう。
僕は、勇気を出して教室のドアを開けた。
ガラッ
「クンクン・・・・う〜ん♡♡ すっごいっ! 何これっ!? あっ、ハンカチか。やっぱりいい匂いがしゅるぅ〜〜〜〜♡♡♡♡ まおきゅんの濃厚なかほりぃ〜〜〜〜っ!!!! ♡♡♡♡♡♡ これ香水にすれば絶対売れますよっ!! もちろん私が買い占めますけどっ!! これはコレクションに加えるしかないですねっ!! ・・・・あっ! これは、二宮さんに隠れて買ってきて真央君がお昼に食べようとして断念した食べかけの菓子パンではっ!? こんな所に入れておくと腐ってしまいます!! いや、真央君が食べた物が腐る筈が無いのですが・・・・はっ! 真央君の、食べかけ・・・・っ!? 美味しそうですっ!! 食べても良いのでしょうか? いや、食べますともっ!! あ〜ん・・・・ナイス食感。関節キスとも言えますね。これはこれは、美味しゅうございまし────」
目が合った。
奇妙な光景だ。
学校のアイドルが、僕の椅子にハンカチを被せ、頬擦りをしながら匂いを嗅いでいる。
そして、次には机の中を漁り、中に入っていた食いかけの菓子パンを頬張っている。
あれは、本当に、僕の憧れの『一ノ瀬さん』なのか・・・・?
いや、まさか〜・・・・
そうだ、きっとアレは『一ノ瀬さん』に似た誰かだ。
『一ノ瀬さん(仮)』と名付けよう。
「「・・・・・・」」
長い沈黙だ。
もう体感的には1時間は経ってるんじゃないか??
なんだ、この光景??
「・・・・ふぅ、バレてしまいましたか」
先に口を開いたのは『一ノ瀬さん(仮)』だった。
そして、こちらへゆっくりと近付いてくると、
「まぁぁぁぁぁおっきゅぅぅぅぅぅぅんっ!!!!!!♡♡♡♡♡♡ 」
ガバッと抱き着いてきた。
「はすはすはすはすくんかくんかくんかくんか♡♡♡♡ 」
いや、わかんない。
「ぶひぃぃぃぃぃぃ♡♡♡♡♡♡ 」
これ、どうゆう状況??
「ちょ、ちょっとっ! 何してるんですかっ!? 」
下半身からカチャカチャと音が鳴っている事に気付き、はっと、我に返る。
『一ノ瀬さん(仮)』は僕のズボンのベルトを外そうとしており、急いで引き剥がす。
すると、キョトンとした顔でこちらを見てきた。
くそっ、可愛いな。
「えっと、一ノ瀬さん、ですよね?? 」
「はい? 」
とりあえず、確認をする。
「えっと、クラスにいる時と随分キャラが違うような・・・・」
「あぁっ、なるほど! 猫を被ってますからねっ!! 」
「えぇ・・・・」
「そう! 私こそがまおくんのクラスメイト!! そして本日まおくんの『彼女』となった一ノ瀬 紗奈ですっ! ただいま日課の『まおくん忘れ物収集』をしながら一緒に帰ろうと教室で待っていた所ですっ!! 」
────ダメだ。
一瞬脳がフリーズしてた。
情報量が多過ぎて対処しきれない。
彼女?
忘れ物収集??
一緒に帰る????
なんだろう・・・・
なんか、頭痛くなってきたなぁ・・・・
次で一ノ瀬さんが完全にぶっ壊れます。