七瀬 咲 変わってしまった兄 1
今回は妹目線の話です。
少しずつ真央君の秘密を書いていきます。
「さっきーってお兄さん大好きだよねぇ〜」
「・・・・はぁ? 」
部活終わり、友達の乾 苺にそんな事を言われた。
急に何を言い出すんだ、この犬娘は。
なんとなく、目はキラキラしていて、尻尾を振っている(様な気がする)。
そんなだからみんなから『ワンコ』って呼ばれるんだ。
そんな事より、「お兄さん大好き」?
私が??
「冗談でしょ? 」
「え〜、だって、さっきーってお兄さんの話ばっかりしてるじゃん」
「ダメダメ兄貴だからね」
「さっきもお兄さんに晩御飯のリクエスト聞いてたし」
「そうでもしないと何も食べないからね」
「毎朝早起きしてお兄さんの為にお弁当作ってあげてるもんね〜? 」
「今日は作ってないけどね」
嘘は吐いてない。
それなのに、いちごは「またまた〜」と言って私の脇腹をビシビシつついてくる。
「だって〜、アタシ知ってるよ〜? 」
「・・・・何を? あぁ、やっぱいい。言わなくていい。どうせロクな事言わない。」
「さっきーってば、お兄さんを取られ無いようにお兄さんに近づく女の人を────」
「言うなっつの」
「痛てっ」
おっと、思わず手が出てしまった。
・・・・まぁ、いちごなら良いか。
なんか嬉しそうだし。
「そう言えばお兄さん、最近一ノ瀬先輩に言い寄られてるよね〜? 」
「だから? 」
「良いのかな〜? お兄さん、一ノ瀬先輩に取られちゃうよ〜?? 」
「・・・・別に、私は気にしてないし。」
「そんな事言って〜、ほんとはちょっと寂しいんでしょ〜?? お兄さん結構モテるんだよ〜???? 」
「・・・・そんな事、無いもん」
「咲ちゃんってばツンデレなんだから〜!! 」
むぅ、何を言っても好意的に捉えられてしまう。
この超ポジティブシンキング女には何を言っても無駄だ。
さすが名字に「いぬ」と言う言葉を持つ女。
長年の付き合いなので、理解しているのだが今回ばかりは否定させて欲しい。
「ぶん殴るぞ」
「え、ひどい」
おっと、言い間違えてしまった。
ちゃんと言い治さなくちゃ誤解されちゃうね。
「その綺麗な顔ぶん殴って二度と陽の下歩けない様にするぞ」
「ちょっと咲ちゃん、危険度上がってるんですけど? 」
「いちごのばーか」
「んもぅ、そうゆう所も可愛いよ〜!! 」
あぁ、暑苦しい。
質問攻めしてくるいちごに対し、返答もめんどくさくなったのでとりあえず帰ってから兄貴へ八つ当たりする事を考えていた。
「さっきーは今日真っ直ぐ帰るの? 」
「ううん? 用事があるから少し残るよ」
「用事ぃ・・・・? あ、わかった。お兄さんの部活の様子見てくるんでしょ〜?? 」
いちごはすぐ私をブラコン扱いしてくる。
私のどこを見てそう感じてるんだろう??
「いちご、先帰ってて」
「ん〜・・・・。わかった。じゃあね〜」
「うん、ばいばい。」
さて、と。
まずは兄貴の部室に向かわないと、かな・・・・。
あ〜ぁ、ほんっと、めんどくさいな。
☆☆☆
「ぶぅえっくしょいっ、てやんでぃ、ばーろー、こんちくしょーッ!? 」
「まおくん、変なくしゃみですね? 風邪ですか?? 」
何だろうね?
誰かが僕の噂でもしてるのかな??
そんな事を考えながらティッシュで鼻をかんでいると、一ノ瀬さんが何かを閃いた。
「まおくん、まおくんっ! 」
隣を歩いていた一ノ瀬さんが鼻息を荒らげながら話しかけてくる。
「一ノ瀬さんが何を言いたいかわかるよ」
「っ!? 本当ですかっ!? ようやく私達の想いが通じ合えたんですね!! すてきっ!! 」
違うよ、慣れだよ。
どうせ下らない事だろうけど。
「では、まおくん」
そう言って一ノ瀬さんは手を差し出してくる。
彼女の目を見ると、まるで『餌を貰うために芸を覚えた犬』の様にキラキラとしていた。
多分、「そのティッシュをくださいっ! 」みたいな事を言うんだろうな。
「その『使用済み』ティッシュくださいっ!! 」
「『使用済み』を強調しないでくださる? 」
「はっ、私としたことがすみません! 」
「よし、言い直しなさい。言葉が待ってるから早くしてね? さん、にぃ、いちっ・・・・」
すぅっと深呼吸をする一ノ瀬さん。
いつでも逃げられる様に構える僕。
「まおくんが出したどろどろの液体が付着した『使用済み』ティッシュをくださいっ!! 」
「やだーっ!! 」
「あ、ちょっと、まってくださーい!! 」
今すぐ学校側は、
『廊下は走ってはいけません。
ただし、貞操の危機を感じた時は除く』
みたいな張り紙を貼った方がいいと思いました。
☆☆☆
部室に入ると、妖精がいた。
まぁ、比喩表現だけど。
でも、それぐらいに美しい銀髪の女の子が夕日に照らされて佇んでいた。
「・・・・あー、三峰さん? 何してんの?? 」
「・・・・? 」
私の質問が聞こえてるのか、聞こえてないのかはわからないが、ぽきゅっと小首を傾げてる。
ほんと可愛いな、この子。
「三峰さん、私の事わかる? 」
「・・・・せんぱいのいもうと」
「そうそう、七瀬 咲です。私の事は『さき』って呼んで? 」
「わかった」
あら、なんて素直な良い子なんでしょう?
兄貴の部活の後輩ってのは聞いてたけど話した事無かったんだよね。
それにしてもすげぇ可愛いな。
これは兄貴が可愛がるのもわかるわ。
「せんぱいのいもうとは、ここでなに、してる? 」
「あ、『さき』です」
おかしいな?
ちゃんと名乗った筈なのに名前で呼んでくれないぞ??
もしかして伝わってないのかな??
「えっと、兄貴に用があって来たんだけど、今どこにいる? 」
「わかんない。でも、まってる。」
「・・・・ふーん? 」
『待ってる』か。
ふと、彼女の姿に既視感を覚えた。
「三峰さん」
「なに? せんぱいのいもうと」
「あ、『さき』です。・・・・三峰さんは、兄貴の事、好き? 」
「うん」
いや、即答かーい。
普通さ、もうちょっと照れる素振り見せたりしない?
そうゆう娘なの? そっか。
「三峰さんが、兄貴のどこまで知ってるのかわかんないけど、きっと、兄貴がアナタを選ぶとは限らない? 」
「かまわない」
「本当にわかってる?」
「かくごは、できてる」
「そうゆう話じゃないんだよ」
「ちゃんと、わかってる」
「違うよ、わかってない」
「どうして? なにがまちがい?? 」
本当は、言わない方がいいのかもしれない。
兄貴は、敢えて彼女に教えないままにしていたのかもしれない。
私が言うべきでは、無いのかもしれない。
それでも、『私の夢』を叶える為には彼女が必要になるだろう。
『あの女』に渡すくらいなら・・・・。
「三峰さん、よく聞いて? 」
「・・・・ん」
「今のあなたじゃ、兄貴を傷付ける。兄貴に傷付けられる。」
「どうゆうこと? 」
彼女に話さなければならない。
彼女は知らなければならない。
『七瀬 真央』と言う人間を。
7年前に壊れてしまった、一人の『人間』を────
しばらく妹目線の話が続きます。




