四ノ宮 歌鈴は大食らい 3
遅れました。すいません。
「ねぇ、『まおくん』」
顔を上げると、女がこちらに顔を向けていた。
女の目は深く重く、溺れてしまいそうな黒だった。
「わらって」
女は僕の目を見つめてそう言った。
「わらって? ・・・・わらってください。」
女は上目遣いで不安そうに話しかけてくる。
僕は、彼女の為に『笑う』。
「・・・・えへへっ」
女は満足したのか、僕に飛び付いてきた。
「ねぇ、『まおくん』。ぎゅっとして? ・・・・ぎゅっとしてください」
言われた通り、僕は女をぎゅっと抱きしめる。
女は安心したのか、そのまますやすやと眠ってしまった。
その寝顔はまるで、赤子のように安心しきっていた。
☆☆☆
「────じゃ、私この後会議あるし、ご飯はここで食べていいから。七瀬くん、後はお願いね? 」
「はーい先生、まっかせといて!! 」
不安そうに首を傾げながら、保健医は保健室から出て行った。
ちらりと、ベッドに横たわる女子を眺める。
「四ノ宮さん、平気? 」
「・・・・うん、まぁね」
四ノ宮さんはゆっくりと起き上がり、こめかみを抑えている。
「ごめんね、体調悪かったのに無理させちゃって」
「うん、大丈夫・・・・。」
心なしか、彼女は小刻みに震えてる様に見える。
その姿は何かを悔いている様で────
「し、四ノ宮さん」
「・・・・はい」
「鼻毛出てるよ? 」
「はい。・・・・え? うそ?? 」
「うん、嘘だけど」
割と強めの一発を腹に浴びせられた。
「・・・・はぁ、七瀬くんって、デリカシー無いね」
「あ、あはは」
四ノ宮さんは呆れつつも静かに微笑んだ。
よかった。少しだけど笑ってくれた。
四ノ宮さんも起きた事だし、そろそろ昼飯を食べようかな。
「・・・・七瀬くんってさ」
「ん? 」
「いや、何でもない・・・・ 」
そう言って、四ノ宮さんはまた俯いてしまった。
・・・・・・・・
・・・・うわぁ、絶対何かあったじゃん、この人。
めっちゃ聞いて欲しそうにしてるもん。
俯きながらもちらちらこっち見てるもん。
これ話聞かないとダメかな? 聞かないとダメなのかな??
わかりました。聞きます。聞きますよ。
「えーっと、何か、あったの? 」
「・・・・っ! 」
うわぁ、嬉しそうな顔。
「あ、あのね? 七瀬くんに、聞きたい事があって・・・・」
「聞きたい事? 」
「うん、その・・・・七瀬くんって、友達いないよね? 」
「・・・・え? 」
いやいや、待ってよ。
何言ってんのこの人??
いるし?
友達いるし??
優太とか、佑とか、茜とか?
「あ、えっと、言い方が悪かったよね? その、七瀬くんって『友達と距離があるよね』」
「・・・・距離? 」
「うん」
そう言って、四ノ宮さんは身体をこちらへ向けた。
「私、最近七瀬くんの事見てたんだ」
「えっ!? 」
「あ、あのね? 私、七瀬くんの事────」
え、なにこの雰囲気?
ま、まさか、告白されるのかッ!?
「嫌いだったの」
イスから転がり落ちた。
「だ、大丈夫? 」
「あ、大丈夫でーす。・・・・ちなみに、どうして? どうして嫌いだったの?? 」
「・・・・七瀬くんって、自分の姿を客観的に見た事ある? 」
「へ? 」
「自分じゃわかってないかもだけど、七瀬くんって周りから見たら『3人の女子に言い寄られて全員キープのド畜生』だからね。」
「ぐはぁっ!? 」
「冴えない見た目だし、特に面白い事を言えるわけでもない。それなのに3人の女の子から言い寄られてる。最初はお金で雇ってるのかと思ってた。」
「ヴァッフェンッ!? 」
この娘、言葉の全てが刃物なんだけど!
容赦なく刃物投げてくるんだけど!!
刃物でドッヂボール始めてるんですけどッ!?
「だけど、一度食堂で言葉を交わした時、違和感があったの。」
「い、違和感? 」
「うん。七瀬くんってさ、話してる間、ずっと笑顔なんだよね。最初は、『穏やかな人なのかな〜』って思ってたけど、なんか、おかしいんだよね。なんて言うのかな? あんまり楽しそうじゃないんだよね。『笑顔が顔に張り付いてる』って言うのかな?? 話してる間、ずっと『笑顔』なのに、一度も笑ってないの。」
「・・・・・・。」
「それが気になって、七瀬くんの事、目で追う様になったの。私。」
「なるほど」
「そしたらね? 友達と歩いてる時も、女の子達と話す時も、七瀬くんって、一歩引いた位置にいるって言うか・・・・。それで、確信したの────」
四ノ宮さんが立ち上がると、ぐいっと顔を近づけてくる。
そして、
「七瀬くんは、『私と似た人種』なんだなって。」
そう言って、四ノ宮さんは今まで見た事が無い程に不気味な笑みを浮かべていた。
☆☆☆
子供の頃、よく『積み木遊び』をしていた。
誰よりもたくさんのモノを積み上げるのが得意だった。
でも、その『遊び』に私を満たすものは無かった。
どうしてだろう?
それが自分でもわからなかった。
中学生になると、私はかなりの優等生になっていた。
自分で言うのは少し恥ずかしいけど、かなりの努力家だったと思う。
将来を期待され、人望も厚く、薔薇色の青春を送っていた。
でも、高校生になり、私は全てを失った。
『一ノ瀬 紗奈』と『六車 茜』
私の前に2人の『天才』が立ち塞がった。
最初は、悔しかったよ。
積み上げてきた努力が全部無駄になった様な気がしたからね。
でも、暫くすれば理解するんだ。
どんなに努力をしても、『天才』には敵わない。
『努力』は評価されない。
結局、人間は『結果』を求める生き物なんだ。
私は、多くの人間の期待を裏切ったのだ・・・・。
それがわかった時、不思議な気持ちになった。
どうして、こんなにも清々しい気持ちになるのだろう?
どうして、私の心はこんなにも満たされているんだろう??
子供の頃、私はよく『積み木遊び』をしていた。
毎日毎日、高く、高く積み上げていた。
積み上げること『だけ』をしていた。
そうか。
今ようやく、理解した。
私が、本当に楽しかったのは────
☆☆☆
「七瀬くんって、私の事知らなかったでしょ? 」
「いや、そんな事は・・・・。」
「気を遣わなくていいよ。私にもわかるから。」
四ノ宮さんは自分の左腕をぎゅっと握り悲しそうに俯いていた。
「私は、『他人を傷付ける』事でしか満たされない。そう言う人間なんだ。人と関わるべきじゃないんだよ、きっと。君も、そうなんだろう? 『何か』を負い目に感じて、人と深く関わる事を避けている。自分を『傍観者』にする事で、自分が傷付けられるのを・・・・いや、傷付けるのを恐れている。だから自分の周りで事件が起きても1人で解決しない。解決する努力もしない。ただただ行く末を見てるだけ。何が原因なのかは、知らない。でも、そんな人間だよ。君は。・・・・全く、『弱い人間』だよね、お互い。」
「四ノ宮さんは、後悔とか、してないの? その、生き方に・・・・」
僕の質問に、最初はキョトンとしながらも大きく溜め息を吐き、四ノ宮さんはやれやれと言った感じで話し始めた。
「してるよ? 当たり前じゃん。でも、しょうがないんだよ。これが私なんだよ。積み上げた物を全部ぶっ壊して、他人の期待を裏切って、他人の想いを喰い物にして・・・・。他人に関われば傷付け、それが嫌で人を避けるけど、心が寂しくなる。こんなの、まともな神経じゃ耐えられないよ。私だって耐えられてないよ。ストレス溜まるし、ヤケ食いして、ゲロ吐くし。それを何度も繰り返してる。まぁ〜、こんな事、一生慣れることは無いよ。きっと、これからも・・・・。」
そう言って、四ノ宮さんは少し寂しそうに笑っていた。
あぁ、本当だ。
君は、
僕達は、
『弱い人間』だな。
次回は妹目線での真央君の過去話です。
一ノ瀬さんを暴走させないとなんか調子狂うな・・・・。




