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いざ遺跡へ3

リスクが低く旨みの薄い屋敷探索チームに割り振られたのは、Cランクのチームとはいえ、Eランクの少年が混ざっているからだし、そうなるとカークさんが明言したから、今回の依頼に承諾したのだ。

Cランクの私を中心としたチームという体で依頼を受けているから、Eランクの少年でも依頼を受けている形を取れるのだそうだ。

確かに、パーティを組んでいる全員が同じランクとは限らないもんな。


となると、SランクのカークさんとBランクのリアンさんがどういう扱いになっているのかが不明なんだけども、どうせカークさんが反則技で何かやってる気がする。Sランクだし、王弟殿下だし。


前を歩く少年とリアンさんの背を追いながら、後ろを歩く美丈夫へチラリと目をやる。


「何だ?」


私の視線に気づいたカークさん。


「屋敷の探索って、人様のお家に勝手に入って良いんでしょうかね? 魔物が出るわけでもないですし、ほこりが溜まっているけど外観ほど荒れているわけでもなさそうですよね」


屋敷探索チームは私たち以外にもうひとパーティが割り当てられていて、彼らは上の階を見てくれると言うので、私達は一階を見て回っている。

屋敷の調査が終われば、墓所チームを追いかけて合流する予定だ。


当初の予想通り魔物の影はない。

元々冒険者ギルドの簡易調査で建物の中に魔物の気配がないことは分かっていたのだが、魔力の気配があったので調査を行うことになったらしい。


こうして屋敷内を歩いていて、ネズミ一匹出てこないのが不思議だった。

それに、外観の荒れ具合と比べると、建物の中は比較的綺麗なのも気にかかる。


「扉にかかっていた魔法錠が緩んでいたしな、時効ってところだろ。数十年前なら、こんな簡単には入れなかっただろうな。屋敷も墓地も」


簡単って、屋敷に入った時のあれですか。


調査開始とばかりに墓地へ向かったチームは、入口が全く開かなくて立ち往生したらしい

屋敷組の私たちも同様だった。

もう一つのパーティが扉に手をかけて開けようとしたが、びくともしかなかったのだ。


墓地の方では第三騎士団の騎士が、魔法でロックされていることに気付いて解除を行ったらしい。

墓地から連絡が来た時、私達はまだスタート地点で行き詰まっていたのだ。


魔法錠を解除した話を聞いた時、ミサキちゃんの傍にいた騎士が頭に浮かんだ。

魔術師団と呼ばれる第三騎士団の次期騎士団長候補ってことは、魔術のエキスパートだろうし。


その情報を聞いて屋敷組のもう片方のパーティが厳しい顔で話し合っている間、私たちのパーティはおとなしく待っていた。


何故なら、剣士であるカークさんが我関せずを貫いていたからだ。


今回、カークさんは余程の事態に陥らな限り魔術を使わないつもりらしい。

となると、向こうチームの魔術師に期待するしかないのだが、努力次第で誰でも成れる直接攻撃型の職種と異なって、優秀な魔術師の冒険者自体の数は少ない。

ある一定レベルの魔術師ならば、国に仕官した方が余程安定した生活が送られるからだ。

Cランクの魔術師なんてのはその辺でゴロゴロいるものではないのだそうだ。


要は、屋敷探索組の中に、ロックを解除できる魔術師がいなかったのだ。


「これじゃあ、詰んでんじゃん」


少年とリアンさんと私の三人でカークさんを睨む。

行き詰まってる空気を感じてか、私に抱きついている白雪が顔を上げた。


「ウチタテヒナタが困っている。シラユキが助けるか?」

「まあ、待てって」


白雪の頭に軽く手を乗せてから、カークさんは肩を竦めて言い訳的な言葉を紡ぐ。


「魔術自体は解けかかってるんだ、入るだけなら魔術的にも物理的にも難しくはない」

「でも、向こうさんの魔術師はお手上げ状態みたいじゃん」


リアンさんがイライラした様子で返しているが、私はふと、カークさんが変な言い回しだったことに気づく。


「物理的にも?」


ちらりと発言の主を見る。


「そうだ」と首肯するカークさんに、少年が首を傾げた。


「魔法錠ごと物理的に壊す? つまり……」


呟きながらツカツカ歩いていき、向こうのパーティが話し合っていることなど意にも介さず扉の前に立つ。


「こういう事?」


言うや否や、少年が扉に蹴りを入れた。

途端に大きな音を立てて扉が吹き飛ぶ。


破壊音に驚いて顔を上げた向こうのパーティメンバーが目を見開いたまま固まった。


うん、まあ、そうだよね。

今の少年の格好って、ボーイッシュではあるけども可愛い女の子なんだよね。

華奢ではないけど、パワーがあるようには見えない。


「魔術の拘束力を物理的な破壊力が上回れば扉そのものを壊せるって事だよな」


大したことでもないように美少女姿の少年がカークさんへ確認をとる。

その背後では扉の部分がなくなって、玄関ホールが丸見えになっていた。


「なるほどね。でも、ここにいる面子で、それができるのはケイトだけなんだよな」

「とは限らないがな。このぐらいのものであれば、お前でも可能だったかもな」


悔しそうに口にするリアンさんに、カークさんが頷きつつ返した。


この一件で向こうのパーティがこちらを格下に見なくなったというおまけが付いてきた。


これが事の顛末なのだけども。


チートなカークさん達にとっては簡単な出来事だったんだなと思うと、いつも通り一緒にいるのが場違いな気がした。

向こうのパーティさんの方が一般的な反応というか、普通というか。私だけ混ぜてもらえないだろうか。


「魔力の気配って言われたじゃないですか。あれって、玄関の扉にかかってた魔法錠の事じゃないんですか? だったら、魔物もいないし、屋敷はクリアってことですよね?」


大きなテーブルが部屋の中央に鎮座している。

明らかに食堂室だ。

端に寄せられたり、大きな布をかけられていないところを見ると、長期間留守にする予定もなく、突然住居者がこの屋敷を使用しなくなったのがわかる。

これだけ大きな屋敷なら、屋敷に従事する使用人が何人もいたはずで、彼らが暇を出されるときに家具に布を掛けずに出て行くことはないはずだからだ。


屋敷内の状況を不審に感じているのか、カークさんが少し考えてから答えてくれた。


「今の所、入口の魔術以外の痕跡は見当たらないのは確かだ。魔法錠に上乗せして、屋敷内部に対して何らかの魔術の行使があったようだが、霧散していて分かりづらいな」


彼が珍しく眉間に皺を寄せている。

私には分からない何かを感知して、分析しているような雰囲気だった。


「こっち、厨房と……地下の隠し部屋?! な訳ないか厨房の地下にあるならワインセラーかな」


少年の声が聞こえてきたので、私は白雪の手を引いて奥へと進んだ。いくら可愛いとはいえ、ずっと抱き上げて移動するのは無理でした。


先程は食堂室だったので、奥には厨房があるのが当然だ。

そして厨房があるのだから、食料を貯蓄しておく倉庫とワインセラーがあるのもまた、当然だった。


すぐ近くに厨房があるにも関わらず、やはりネズミ一匹、ゴキブリ一匹見当たらない。


厨房に顔を出すと少年の顔が床から生えていた。

床に地下への出入口があって、丁度彼が降りていくところだったようである。

木造の階段らしく、僅かに木の軋む音が聞こえた。


「僕も降りていくから、閉まらないように入口見ててよ。ヒナは安全が確保できるまで降りてこないこと!」


リアンさんに思いの外強い口調で言われたので、反射的に頷いてしまったけども、何で何も言わなければ降りていくと思われているのだろう。


私、自分から危ない所には行かないよ?


そんなことを考えていたら、


「お姉さんは近づくのも禁止! 絶対落ちるから!」


思い出したように少年が顔を出して更に注意して、再度軋んだ音と共に階段を降りていった。


過去を思い出し、反論できない自分に気づく。


「ちょっと、私、信用なさすぎじゃない」


地味に凹むわ。

とはいえ、指示されたことにはちゃんと従いますよ、私は。


食堂から厨房に入ると、剥き出しの木のフローリングに僅かに埃が溜まっていたのが視認できた。食堂や廊下には厚いの絨毯が敷き詰められていたが、ここには埃を誤魔化すような敷物がない。

だから厨房では、時折り家なりのような軋みが床から聞こえてくるのだろう。


足下にあった膝ぐらいの高さの台の埃を払ってから、私が腰を掛けると、白雪が私の前に立った。

目線が同じ高さになった。


「シラユキはウチタテヒナタを信じてるぞ」

「白雪はいい子よね」


彼女に癒されてにっこり笑うと、白雪も花が咲いたように可憐に微笑んでくれる。


「最近の恵人くんは子供っぽさをあまり見せてくれないんだよね。いつも真面目な顔か怒ってる顔だしさあ。あんなに可愛いのにね。白雪の爪の垢を飲ませたいもんだ」

「シラユキはケイトより可愛い」


零してしまったぼやきに反応して、白雪が主張してきた。


「うん、まあ、そうなんだけどね」


可愛さのベクトルが違うんだよね。

心の中で苦笑いを返す。


「ウチタテヒナタ、下に行きたいのか?」


両腕を伸ばして彼女は小さな両手で私の両頬を挟んだ。


肯定すれば頑張ってくれるのが分かるから、頭を振って否定を返す。


「行きたいのは山々なんだけどね。二人に待ってろって言われたしなあ。カークさんも食堂に置いてきてるし、大人しくしてるかな」

「シラユキはウチタテヒナタの望みを叶える」

「じゃあ、今は二人でみんなを待とうね」

「ふたりダケデまつ」


白雪は機嫌が良くなったようだ。

待つことを決めれば、そこにあるものが気になるようで、彼女は厨房の中を見学し始めた。

稼働している厨房なら危なっかしいが、何年も使われていないこの屋敷の厨房に危険なものなんてないはずだ。


そう、ないはずなのだ。

先ほどから耳に届く木の床の軋みに危険なことなんかない。

と、現実逃避できたらどれだけ良かったか。


流石に家鳴りのように音を立てる軋みを無視はできないし、そこまで危険に対して鈍感ではないと思いたい。

流石に床が抜けたり、天井が落ちてきたりなんてのはないにしても、板一枚ぐらいは踏み抜くかもしれない。

いやいや、これまでの私の運の悪さを考えると、天井が落ちてくるのも予想の範囲内か。


不吉な予感は往々にして当たってしまうものだ。

嫌な汗が背中を流れた。


「白雪、ここちょっとヤバそう。カークさんの所に戻ろ……ひゃ!?」


不意に起こる浮遊感。

思わず白雪をぎゅっと抱きしめる。

そしてバキバキ大きな音を立てて見事に外れる床板。


危険には近づかなかったのに、何で落ちちゃうのよ?!


カークさんは隣の食堂。少年とリアンさんは地下倉庫。

誰かが飛んで来る間もなく、底の抜けた厨房の下へ私と白雪は落ちていくのだった。


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