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いざ遺跡へ1

王都北のスラム街を抜けると、鬱蒼とした雑木林に囲まれた古い建物があった。

小さな古城を思わせる打ち捨てられたその建物は、雑木林を有する広大な敷地からも、かつては荘厳であったであろう朽ちた外観からも、当時隆盛を誇ったことを想起させた。

これほどの廃墟が、王都のすぐそばだというのに忘れられたように放置されているのも不思議な話だ。


「なんというか、お約束はお約束なんだけどさ」


ぶつぶつ呟くのは、年のころ十五歳くらいの少女だ。

肩までのくすんだ茶金髪。ボーイッシュな雰囲気。元気系ヒロインっぽい美少女。


その傍らに佇むのは赤毛のくせっけで顔が半分ほど隠れている少年。

少女よりも上背はあるが、それほど高くはない。

その手は六歳ぐらいの少女に繋がれている。


「しようがないよね。面割れてんだし」


応えるのは私。

そう、赤毛の少年は私だったりする。


「ヒナ、そろそろしゃべるの禁止」

「はーい」


いつも通りの猫耳美少女リアンさんに窘められ、従順にそれに従う。


確かに、女装は定番だっちゃー定番だけどさあ。

と、不満たらたらでまだ文句を言ってるのは、もちろん西浦恵人十四歳。中学生男子。である。


始まりは私の希望である「一緒にこの世界に来た高校生に会いたい」からだ。


主従契約を行ってしまったこの国の王弟殿下曰く、主人である私の希望は叶えてあげたくなるらしい。


そして持ってきた話が。


「王都の北外れに廃墟がある。どうも、そこの敷地内にある墓所が遺跡化しているらしくてな」


カークさんはそう説明し始めた。


内容は騒ぎが起きる前にギルドで見ていた幽霊屋敷の依頼の顛末だった。


王都を拠点にしている冒険者パーティが依頼を受け、幽霊屋敷の調査を行った結果、幽霊屋敷の地下が現在は廃墟となっている大邸宅との抜け道の出入り口になっていた。

その抜け道のもう片方の出入り口が、王都北にある廃墟の墓所の中にあって、どうやら魔物が増殖しているらしい。


悲鳴や呻き声は、まさしくそのまま悲鳴や呻き声だったのだ。その音が、抜け道を通って時折幽霊屋敷から聞こえてきていたってことだ。

幽霊屋敷の方から侵入する冒険者もいるとのことだから、抜け道にまで魔物が侵入しているのだと思う。


良く今まで地上に上がってこなかったものだ。

カークさんの考察では、召喚された高校生達が王都にいたことで、廃墟の魔物が活性化していたのではないかとのことだった。


実際の遺跡化がいつからだったのか。

随分長い間、人知れず遺跡化していたようだ。


てか、いつ誰が作ったか判明しないという割に、遺跡化しているとはこれいかに?

いつ誰が作ったか判明しないという口上と、遺跡化という言葉が相反する物だと思うんだけどなあ。

というツッコミはひとまず置いておく。


建物が廃墟になった当時、何があったのかはわからず、王国に記録がある持ち主とは連絡が取れない。

そもそも百年以上前から、登記の変更がないらしい。

とは言え、地球とは違い、この世界の人類は様々な寿命を持つので、持ち主死亡として国が接収する訳にもいかないそうで。


持ち主に連絡がつかなくなって百年以上。

それで国有化してない事を疑問に感じたけれど、確かにね。

獣人族の血が混ざっていれば寿命三百年とかだって言ってたもんね。


維持できなくなった没落した貴族か商人に打ち捨てられた屋敷だ。

敷地内に立ち入ろうとする者もいない。

いたとしても後ろ暗い者達が寝ぐらにしていたぐらいだろう。

時折犯罪者の捜索や摘発のために屋敷周辺に手が入ることはあるが、それもごく稀なことで、滅多にこの敷地の門が開かれることはないそうだ。

そのような環境下にあったのだ。

埋葬された記録も辿れないほど古い墓所の地下に、魔物が生息しているなんて状況に、誰も気づかなかったのも不思議はないのかもしれない。

一族の墓所など、関係者でもなければ足を向ける気になるわけがないのだから。


「今話したような状況だ。王都内の話だし、国も放置するわけにいかないからな。これはギルドを通した正式な依頼だ」


カークさんの言葉に、例の如く、少年とリアンさんが嫌そうに顔をしかめた。


「まさかとは思うけど、そのギルドの依頼を俺らで受けろって話?」

「そうなるなギルドにはCランク以上のパーティ5組で依頼を出している。これを指揮するのが王太子の第二王子と勇者達とした」


ん? 王太子の第二王子と勇者?

それ、全然ダメじゃない?

もろ顔バレしてるよ?


「何考えてんだよ。俺たちお尋ね者だろ」


少年も同じ事を考えたらしい。


「だか、目当ての勇者と近づく機会が持てるかもしれない」


カークさんが褒めて欲しそうに私を見る。

褒めて欲しそう?

んなわけない。

リアンさんや白雪じゃあるまいし。

私は何を考えてるんだか。


「それにしたって、リスクの方が大き……」


言い募る少年を仕草で静止して、カークさんが続けた。


「リアンと白雪はそのままでいけるだろう。ケイトと嬢ちゃんは……性転換してみるか」


ニヤニヤ笑うカークさんに、少年とリアンさんが盛大に悪態を吐いた。


そして今に至る。


性転換とは言っても、魔法でどうにかなるわけがなく。

だって、呪文一つで願いが叶うような魔法はない世界である。

実の所、単なる女装と男装だった。

少年は少しは女の子らしい体のラインになるように胸に詰め物してる。

私は逆に胸をサラシっぽい布で巻いてるから、ちょっと息苦しい。

肝心の黒い髪はカツラでごまかした。

瞳の色は変えられないので、その部分にはカークさん特製の認識を阻害する魔法をかけているらしい。

この世界の科学ではカラーコンタクトはないしね。


後、全体の不自然さにも気づきにくくなる魔法もかけているとか。


「ヒナがヒナのままでよかった。まあ、ヒナが男になっても、僕は愛せるけどね」


とは、最終的にカークさんの案に快く歩み寄ったリアンさんの台詞。

何言ってんだか、リアンさんは。

と、呆れたものの、前半部分の気持ちは分からなくもない。

私も少年が少年のままで良かった。


けど、話が出た時は、性転換の魔法とか、変身の魔法とかあるのかと期待してしまったわ。

やっぱりこの世界の魔法って、便利なんだか、便利じゃないのか分かんないよね。


少年をチラリと見てから、私は口をギュッと引き締める。

日本語しか話せない私が喋っちゃったら、変装の意味がなくなる。

ここからは気を引き締めなきゃ。


覚悟を決めて、私達は廃墟になった屋敷前に集まる冒険者達に紛れ込んだ。


第二王子や勇者はまだ来ていないらしい。


あれから一週間だし、私たちの事忘れてくれてないかなあ。


都合良くならないかと考えていたら、繋いだ右手がびくりと動いた。

その先にいるのは、マントのフードを深めに被った小さい白雪だ。


彼女が振り返る先に勇者達がいた。

いえ、正確には、ミサキと呼ばれた女子高生だ。

白雪がこんな姿になった原因だ。


彼女の魔法攻撃を防いだ時の影響で、体を形作る水分量が減ってしまい、元の美女の形をとることができなくなってしまったのだ。


マドール河の「船の墓場(白雪のいた辺りはそう呼ばれているらしい)」周辺の水が、彼女の体を形作っているらしい。

体を形作る水分量が減ったからといって、他の水を混ぜれば良いというものではないらしい。

もう少し上流に上がったマドール河の水なら可能らしいが、王都周辺のマドール河は海水が混ざっているため使用できないのだそうだ。


だから、減った水でも形を維持できる子供に姿を変えたのだとか。


それだったら、魔物や動物に姿を変えてくれれば、テイマーのモンスターとして登録できたのだけど。

どうやら白雪自身は人型以外になる気がないようだ。


今の白雪の状態の直接的な原因がミサキチャンだから、トラウマにでもなってるのだろうか。

いつもの白雪の様子と比べると、ミサキチャンに過剰反応をしている気がした。


私は小さな白雪を抱き上げると、その耳元で「大丈夫?」と現地語で囁いた。

少年のお陰で、このくらいの言葉なら出てくるようにはなっていた。


「問題はない。だっこいいか?」


返しながら、私の首元にしがみつく。


結構な重さではあるんだけども、私もこの世界に来てちょっとは鍛えられているのか、しばらくなら大丈夫そうだった。


「うまく接触できればいいのだがな」


白雪にちょっかい出しながら、私の耳元に囁くのは、大柄な無精髭の冒険者。


そう、この王弟殿下、何故か冒険者として一緒に行動しているのである。


バレる可能性はあなたが一番高いでしょうが。

と、つっこみたいところなんだけども。


側に佇むカークさんを一瞥して、私は内心溜息をついた。


一ヶ月ぐらい伸ばしっぱなしにしていた無精髭と整えていない髪。

成長促進の魔法を頭髪と髭にかけているらしい。

無理矢理頭髪を伸ばしていたら、早めに禿げたりしないのかなあ。


出会った時のカークさんそのままの姿。

むさ苦しい中年冒険者である。


あの貴公子然とした王弟殿下と今の明らかに無頼者といった冒険者の風貌では、同一人物だと察するのは無理だと思う。


何がすごいって、雰囲気だけでなく、歩き方や仕草も全然違うから、体格から異なって見えるのだ。

そこは錯覚だと思うんだけど、違うのかな?

やっぱり認識を誤認させる魔法とか使ってるのかも。


「目立つことはしない。大人しくしてるんだ」


もう片方から、白雪に小さな声で指示するのは少年。


「シラユキは大人しい」


私の腕の中で、神妙な面持ちで頷く少女が可愛すぎる。

身悶えしてホクホクしていると、少年から白い目で見られた。


良いじゃないか、白雪の可愛さに癒されても。


目で訴えてみたが、呆れたように肩を竦められてしまった。


少年が冷たい……。






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