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従属魔法で使い魔ゲットです2

緊張した空気が彼らの間に流れる。


獣人族の青年が怒っている。

身体中の毛を逆立てているんじゃないかと錯覚を覚えるほどだ。

少年はというと、どうやら仲が悪いはずの獣人族の青年の味方のようである。


そして、この展開に一番ついて行けてないのは私だ。

何もできないまま、引き攣った笑みを浮かべ続ける。


彼らの言動に、今まで鷹揚に構えていたカークさんが険しい表情で慌てて口を開いた。


「ま、待て。お前らなんか勘違いしてるだろ。ここに匿うのはあくまで、王都を出るまでの話だ。それ以上でも以下でもない」

「どうだか分かったもんじゃない。権力者ってのは二枚舌が得意だしな」


冷めた声音でリアンさんが応じる。

愛嬌を完全に消した猫耳青年の姿は珍しい。

警戒の矛先はカークさん。


「俺に二心あれば、もっと上手くやってるぞ」

「懐に自分から飛び込ませてるんだから、十分上手くやったって考えられるよね」

「穿ち過ぎだ」

「そうかな? ヒナ達が異世界人であるなら、そう的外れとも言えないと思うよ。今まで気にしたこともなかったけど、この世界に実は異世界人が沢山いて、各国が人間兵器として自由を奪って拘留しているって陰謀論、強ち都市伝説では済まないのかもよ」


リアンさんの吐き出した言葉で、カークさんが忌々しそうに舌打ちをした。


「くそ、なまじその陰謀論ってがデマじゃないからタチが悪いんだ。おい、リアン、ケイト。俺にそのつもりは全くないんだ。信じろよ。大体、お前の雇い主は俺だろうが」

「あんたがヒナの障害になる可能性があるなら、あんたと敵対でもするさ」

「カーク、俺はあんたが俺達をどうにかするつもりなら、出会った時からもっとやり方があったと思う。でも、なんの思惑もなかったとも思えない」


ちょっとあなた達、会話が不穏すぎだよ。

リアンさんてば、カークさんが私達に不利益をもたらすって警戒してるってこと?

んでもって、少年もその意見に一部賛同してるのね。


あれ? 何故そんな結論に?


「腹を割ってと言ったのは俺だが、お前ら勘ぐり過ぎだろ」


ほとほと困ったといった様子で頭を抱えるカークさん。


「あんたの不自然な行動に色々理由付けしてはみたけどさ、やっぱり微妙に納得いかない部分も多かったしな」

「魔物に襲われやすいのわかってて、初めの宣言をさっさと撤回して俺達を砦まで同行させたこととか」

「カレダでの滞在とかもな、出航待たずにマーダレー経由の陸路で王都目指してもそれほど時間はかからなかったはずだしな」


あ、うん。

それは私も感じてた。

カークさん側の事情があるんだろうなと、物分かり良くしてた。

実際、どれがカークさんの事情で、どれが気まぐれに楽しんでるだけなのかは判断つかないとも思ってた。


「あのな、俺の立場は案外不安定なんだよ。実際、敵も多い」


「王子様は気苦労が多そうですね。カークさん、お兄さんとは幾つ年齢が離れているんですか?」


睨んでいても埒があかないので、私は殊更呑気に聞こえる声音で三人の間に入った。

突然の質問に、カークさんが目を瞬かせる。


「陛下の御歳は七十九だ」


うわあ、二倍以上か。

一つ前の国王、カークさんのお父さんは年配になってからも頑張ったんだなあとか、女の人大好きだったんだろうなあとか、変な感想をまず持ってしまった。

それだけ年が離れていれば異母弟だろうし、間に何人か異母兄弟がいてもおかしくない。

それに、現王太子の叔父でありながら、おそらく大分年下なのだろうし、大甥、大姪達がたくさんいるのではないだろうか。

とすれば、王位継承者としての位はかなり低く、王家の中でも血筋的な地位も低く見られてると思う。

後は、国王からの信任とか、過去の偉業とかを加味されてどのくらい自由が効くのかといういったところだろうか。

この場合、実が名を遥かに超えてしまっていると、名しか持たない人たちからすれば忌々しいものだろう。


「そっか、カークさんは継承順位が高い王族によく思われてないんですね」


勝手にカークさんの立場を推測して(正しいとは言われてない)、私はしみじみした口調で言葉を紡いだ。


「おねえさん、また何言っちゃってるの」

「え? 腹を割って話そうって提案されてるので、気になる事を聞いてみただけだよ。ほら、ケイト君もリアンさんもそんなに怖い顔しない」

「ヒナ……」

「空気ぶち壊すの大好きだよな」

「あのね、どんな物語でも悲劇は会話をしないから起こるんだよ。ちゃんと話し合いをして、相互理解を深めれば悪い事は結構回避できるんだよ」

「世の中、狡猾な権力者の好きにされてしまうというのも、歴史上知られてる事なんだけどなあ」


少年が呆れたように呟く。


「ヒナの呑気な所も可愛くて好きだけど、馬鹿なほど警戒心がなさすぎるよ。騙されてからじゃ遅いんだよ?」


リアンさん。その台詞、前半部分に照れればいいのか、後半部分に腹を立てればいいのか難しいんですけれど。


「ま、確かにリアンの言う通りではあるな。まさかそこまでお前らに警戒されるとは思わなかったが、二人がここまで警戒しているのに、嬢ちゃんの危機感のなさは危うい」

「あのね、良くみんなはそう言うけど、私にだって危機感と警戒心はちゃんとあります。カークさんは私が嫌な事はいっぱいするけど、私を傷つけるような事はしない人だって信頼してるって、どうして考えられないかな」

「それが警戒心がないって事なんだけどなあ」


小さく洩らすのは少年。

くるりと首だけ二人を振り返る。


「それに、ケイト君とリアンさんが必ずこうやって守ってくれるってのも信じてる」


まあ、それに関しては信頼というより寄生に近いかもだけど。


リアンさんには背後から両肩をがっしりと掴まれた。


「ヒナあ〜。信じてくれるのは嬉しいんだけど、それって信頼を裏切らないように僕が慎重にならざるを得ないってわかってる?」


猫耳青年が可愛らしく嘆けば、呆れた様子でため息をつくのは少年だ。


「人がいいというよりも、人使いが荒い、かな。 おねえさん、面倒くさくなってない?」


この状況が面倒で誰かに放り投げてしまいたい私の心境は、しっかりバレております。

険悪な雰囲気とか、喧嘩とか、争いとか嫌いなのよ、私は。


「うーんと、カークさん、やっぱ凄く面倒なので二人をさっさと説得してください」


向かいに座るカークさんを見据えてビシッと言ってやった。


「嬢ちゃんには敵わんな。リアン、ケイト、俺が嬢ちゃんを裏切らない保証があればいいんだな?」


苦笑しながらカークさんはテーブルを回って座ってる私の前に跪く。

行動の意味がわからなくて首を傾げていると、右手の甲を上にして持ち上げられた。


「おい!」


少年とリアンさんから抗議の声が上がるも、それはあっさりと聞き流され、持ち上げられた右手の甲にカークさんの大きくてゴツゴツした右手が重ねられる。


「やってみるか。嬢ちゃん、俺に続いて声に出してみな。……我は汝の主」


カークさんの意図が読めなくて、混乱しながらも、請われるままにリピートしてみた。


「われはなんじのあるじ……」

「汝は我の僕」

「なんじはわれのしもべ……って?え?」

「女神の承認を以って契約せん。ほら、続けて」

「めがみのしょうにんをもぅてけいやくせん???」


言い切った瞬間、右手の甲が熱くなった。


「え?え?え? なんか、やばくない? カークさん?!」

カークさんは、慌てふためく私の右手を恭しく掲げ、そのまま口元へと近づけた。


これ知ってる。

男性が高位の女性へ行う挨拶だ。

もしくは、忠誠の証……だっけ?


「おいいいい!」


リアンさんが背後から私を羽交い締めにし、少年がカークさんの手を払って私の前に立っていた。


「僕達も迂闊すぎるぞ! くそー、なんで好きにさせてんだよ!」

「今の呪文、なんの効果の呪文だ? おねえさん、大丈夫?」


二人の心配に問題ないと答えて、少年を挟んで私の前に跪くカークさんを見る。

いつのまにか、右手の甲の熱さは感じなくなっていた。


「これで俺は嬢ちゃんを傷つけも、裏切りもできない。俺は嬢ちゃん(しもべ)だからな」


は? 何ですと?!


「……そ、それは、比喩的な意味で?」

「いや? 従属魔法で主従契約を行った」

「…………………………………………………………………………………………………………もう一度お願いします」

「従属魔法で主従契約を行った。魔術と女神の名での拘束があるからな、これで俺は嬢ちゃんを物理的に傷つけることはできないし、嬢ちゃんが苦痛に感じることを意識的にはできない。俺が嬢ちゃんを裏切らない保証だが、不十分か?」


カークさんがリアンさんへ視線を向けた。

私の背後で猫耳美少女が魚のように口をパクパクさせてる様はなんだか滑稽ではある。

側にいる少年は不満そうに顔をしかめていた。


「それは、あんたがおねえさんを裏切ったらどうなるんだ?」

「裏切らないさ。精神に干渉する魔術で、裏切れないという契約になっている」

「従属魔法って言ったよな。人に隷属魔法をかけて奴隷にする魔術とは違うのか?」


少年よ。そんなにすらすらと、不穏な単語を吐かないで欲しいんですが。

さすがに、私の拙いファンタジーの知識でも、ヤバい系の魔法なのではないかと頭の中で警告音がする。


「良く知っているな。隷属魔法は本人の意思とは関係なしに、従うことを強要するものだ。それ故に契約ではなく強制魔法になる。一方、従属魔法は本人同士の意思で互いに協力関係を築く契約を補助する魔法だ。だから、主従関係とはいえ、強制的な命令はできない。とはいえ、精神に干渉する魔術だからな、本来は動物や魔物に対して使用する。通称使い魔の魔法ってやつだ」


あ、やっぱり、人に使うものではないのか。

そりゃそうだよね。

他人に精神的な拘束を強いる魔法は良くないよね。


「まあ、なんだ。つまり、俺は嬢ちゃんの使い魔になったわけだ。使い魔は主人を裏切れないからな。これなら、お前ら納得するしかないだろ?」


自身を犠牲にして無実を証明しようとしているカークさんの発言に、リアンさんも少年もぐうの音も出ず、黙ってしまった。


待って。二人とも納得しないで。

そこは沈黙じゃなくて突っ込むところでしょ。

どう考えても問題有り有りでしょ。


私は嫌だよ。


じっと使い魔になったと主張するカークさんを見つめた後、私は決心して口を開いた。


「クーリングオフでお願いします」

「訪問販売じゃないからね?!」


すかさず私には突っ込んでくる少年。

さすがである。





(日向)「という事で、『最強の魔術師が使い魔になったから異世界で無双します』が始まります」

(恵人)「おねえさん、それ開き直りすぎ」

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