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従属魔法で使い魔ゲットです1

「うふふ。高級な馬車、二回目だなあ」

「おねえさん、呑気に現実逃避しすぎ」


馬車に揺られながら遠い目をして感想を述べる私に、少年がチャチャを入れる。

私を現実的な思考に誘導しようとする悪魔がいる。

黙って彼を一瞥してまた遠くへと視線を彷徨わせる。


「結局戻ってくるわけだ」


同じく無言で外を眺めていたリアンさんが、王城内に入った瞬間呟いた。


馬車はそのまま王城の内郭に入り、王宮から程近い区画の門を通り抜けると、緑地公園のような庭をぐるりと大きく回って、大きな広場の奥に建つ屋敷の前に止まった。

門を入ってすぐに建物がないあたり、この屋敷の敷地の広さが伺える。


少年とリアンさん二人のエスコートの手を取り馬車から降りた私は、建物の前でぼんやり全体を眺めながら、またもつい一言洩らしてしまった。


「豪邸も二回目だなあ」

「おねえさん、考えることを先延ばしにしても結果は一緒だから」


そんな事はない。

悶々とする時間は短ければ短いほどいい。

ならば、ギリギリまで考えないに限る。


突然異世界に召喚されたと思ったら召喚主に存在を気づかれてなかったとか、犯罪者として尋問受けそうになったから逃げ出したらワイバーンに襲われたとか、猫耳美少女が実は三十路前の中年に片足突っ込みかかってる男性だったとか、ドラゴンを倒して冒険者ランクが招集義務の生じるとこまで上がってしまったとか、これまでが色々振り切れすぎている所為で、何が起こっても受け入れられるし、何でも来いの心境なのだ。


だから、変えようのない結果にうだうだ頭を悩ませるよりも、事態が動くまで穏やかな気持ちでいたいものである。


少年の背後、馬の手綱を馬丁に渡してこちらへ向かってくるお貴族様が視界に入った。


だってね。今まで散々直視しなかったものだよ。

なかったことにできるなら、もちろんそうしたい。

ううう……あの時、私が屋根から落ちさえしなければおそらく違う結果だった。

今更なのは理解してるから、これ以上は言わないけども。


「ほら、入れ」


私達へと声をかけて彼はスタスタと、それはそれは大きな扉へと向かっていく。


左右に立っている二人、扉の中央にも二人。

四人が四人とも恭しく頭を下げる。

頭を下げられ慣れてない庶民の私としては気後れしてしまう。

少年もリアンさんも同じ思いのようで、少しばかり頰を引きつらせている。

イケメン領主の屋敷でも感じたけれど、場違い感が半端ない。


トイレ借りるために入った高級ホテルの入り口でドアマンとベルボーイにいらっしゃいませと深々と頭を下げられる居心地の悪さとでもいうか。

……うん、チップのいらない高級ホテルと思い込もう。そっちの方がまだ精神を安定させるには良い気がする。


小市民の私は扉を開けてくれているドアマン風の人達にお礼を言いながら中へと入り、そのまま促されるままに居間らしき場所に通され、フカフカのソファに沈み込んだ。


これはさすがにもう思考を放棄してらんないかな。


ソファを堪能しながら、お茶を注ぐ執事さんらしき男性を観察すること数秒。

悪足掻きを止めることにした。


大体、気づかないフリはしてたけど、初めっからカークさんが隠す気なんかさらさら無かったであろう事は知ってた。

イケメン領主さんとのやりとりとか、クレアさんとの会話とか、どう見てもあんた高位の貴族か王族でしょと、何度も突っ込みたくなったものだ。

Sランク冒険者ってだけじゃあ説明のつかない横柄さがあったことだし。


それに、アルトさんからも指摘されてた。

異世界人のことはこの世界では常識ではないし、機密事項であるため、詳細を知っている時点で各国の中枢にいる人物である証左なのだと。


そういえば、異世界転移の魔術が可能な高位の魔術師は王弟殿下ぐらいではないか、と言ったのもアルトさんだ。


絶対面倒臭い人だと、初対面の時感じたはずなんだ。

感じてたのに敢えて無視してズルズルこんな所まで付いて来ちゃったのだ。


言いたいことは山ほどあったりするけれど、ひとまず。


「まあ、ぶっちゃけ気づいてたけども、ここでバラしてくるとは思わなかった」


カークさんが執事さんを下がらせるのを確認した少年が、心の声を代弁してくれた。

私が察してたんだから、もちろん少年だってカークさんの素性に気付いてたに決まってる。

因みに、少年は私の隣に腰を下ろし、リアンさんはソファの背後に立ったままだ。


「目立たないように情報収集と冒険者ランク上げをしてると思ってた誰かさん達が、街で一騒動起こした末に勇者暗殺未遂犯として王城の地下牢に捕えられ、あまつさえ傷害と脱獄の罪も追加して指名手配受けるなんて事態に陥ってなければな」


頭痛がするようで、罪状を並べ立てるカークさんがこめかみから額を押さえて小さく呻く。

カークさんの羅列した罪に反応して、少年が表情を曇らせたのに気づいたけれど、その後の聞き捨てならない呟きに、私はその反応を流してしまった。


「嬢ちゃんを軽視していた俺の認識不足だったか」

「それじゃあ問題児じゃないですか! 人を厄介事ホイホイみたいに言わないでください」


思わず口をついて出た。

カークさんが胡乱げに私を見返す。

何故か少年とリアンさんにもジト目で見られた。


君達の私の認識ってどうなってるんだ。


「おねえさん、厄介事ホイホイって、上手いこと言ってないからね」


上手いこと言った覚えもないし、思ってもいません!


私の剣幕をカークさんはいつものように飄々と受け止めながら、それでも、珍しく苦々しい口調で言葉を紡いだ。


「正直、俺も状況を把握してねーんだわ。ただ、お前ら、王位継承権第三位、つまりこの国の王太子の第ニ王子に喧嘩ふっかけてんだよ。あのバカも何考えてんだか、変に意地になりやがって話を大事にしたがる。現状、穏便に済ませようと思ったら、国を出るか、より権力者の傘の下に入るしかないだろうが」


ソファに座らず、立っていたリアンさんが私達三人を確認してから、カークさんを指差した。


「より権力者……」

「より権力者なんだ?」

「権力者ってことは」


三人三様に呟く。

と、リアンさんがびっくりした様子で叫んだ。


「より権力者! マジか、閃光の魔導王と王弟が同一人物だっていうあのデマ、マジだったのか!」


リアンさんが今更そこで驚いてることが、私には意外だった。


だって、マーダレーのギルド長やイケメン領主は明らかに知ってただろうし、彼らの反応から王弟(その時は王弟とは思わなかったけど)が冒険者をしてるのは公然の秘密なのだと思い込んでた。


けど、リアンさんの言動から察するに「 Sランク冒険者カークと王弟は同一人物」という情報は、偽情報であることが周知の事実として認識されていたという。

何故そんなあべこべな状態になったのかは……まあいいや、私には関係ないことだし。


「て事は、高校生……勇者の事も、カークさんにお願いすれば会えるってことかな?」


僅かに声音に媚を含ませて、ダメ元で尋ねてみる。


「さすがに昨夜のあれじゃあ、無理だろ。重傷者も出てるしな」

「あ……その、怪我した人って……」

「ああ、あの場所で魔法は使えないからと油断したあいつの自業自得だから、ケイトが気にする事はない。怪我も今頃は勇者のギフトで治ってるだろうさ」


状況から少年の精神状態をちゃんと把握してる辺り、カークさんらしくて、少しホッとする。


「で?」


リアンさんが麗しの顔に僅かばかりの嫌悪を滲ませ、険のある口調で切り込む。


「ここは王家の離宮かなんかかな。ヒナたちは殿下に匿われるわけだ。公に」


あれ?

リアンさんがものすごく険悪だ。

確かにずっと機嫌が悪そうではあったけども。

今も何かを警戒するように私の背後に立ったままだし。


彼の言い様で、はっと少年が少し身を乗り出した。

いつでも立ち上がれるように準備したように思えたのは気のせいじゃない。


突然の空気の変化に、私は困惑の笑みを顔に貼り付けることしかできなかった。





(恵人)「納得いかない。フラグ立てまくって、重要人物に体当たりしてるのおねえさんじゃん。王弟殿下でSランク冒険者、獣人族の求愛者、チート級の人型モンスター、異世界人の血を受け継ぐ喫茶店店主……あ、これ、おねえさんの逆ハーレム物語?」

(日向)「まだ言ってる。恵人君、逆ハーレムものはね、身長が150㎝前半で童顔小柄少女じゃないとダメなんだよ。私みたいな年増でも、見た目が二十歳未満なら可能」

(恵人)「何、その基準」

(日向)「え? だって逆ハーでしょ? ヒロインは小動物系で可愛くないと」

(リアン)「ヒナは可愛いよ?」

(日向)「あ、ありがと。いや、でも、見下ろすんじゃなくて、見上げなきゃだめかなあ」

(恵人)「おねえさん、照れながらムカつくこと言わない。来年には、俺がおねえさんを見下ろしてるから!」

(リアン)「僕はきっとすぐにヒナを超えるよ。そうしたら、ちゃんと僕を見てくれるかな?」

(日向)「え、あの、リアンさん、手を撫でながら至近距離に近づかないでください」

(カーク)「なら、俺なら嬢ちゃんの要求基準を満たしてる訳だ」

(日向)「そりゃ、私より背が高いし見下ろすことはないですけど。カークさん云々じゃなくて、私が可愛くないので、そういう趣旨のものには向かないって話なんですけど」

(カーク)「ん? 可愛いぞ。嬢ちゃんは年相応に女らしくて可愛らしいと思うぞ」

(日向)「え?あ?う? な、何でそんなことそんな格好してる時に言うんですか。カークさん、そんなキャラじゃないでしょ〜」

(白雪)「ウチダテヒナタの頰が赤い」

(カーク)「いつも思ってることを口にしただけだ」

(日向)「…………いつも?!」

(白雪)「ウチダテヒナタ、もっと赤くなった」

(日向・リアン)「おねえさん!(ヒナ!)これはあの鬼畜ものぐさオヤジだぞ!目を覚ませ!」

(日向)「……(何を言ってんだか、この人達は)」


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