出会いは偶然、二度目は必然 2
簡単に王城内にいる経緯を話すと、アルトさんは少しばかり憮然とした表情ではっきりと言葉を紡いだ。
「犯罪には加担しないですよ」
うんうん、当然です。
頷く私を一瞥して、更に続ける。
「人を傷つけたりもイヤですよ」
もちろん私もです。
そんなの同感だし、否はない。
「近衛に目を付けられるのも遠慮したいのですけど」
平穏に生きていくためには、それだけは譲れませんよね。
私にしても、一番肝心なのは厄介事に巻き込まれないことだし。
とは言いつつ、上手くいかないものではあるのだけれど。
「近衛の地下牢にいたって時点で三つ目に引っかかってるんですけどね」
うん、まあ、そうとも言えますが。
グッと拳を握って、アルトさんの瞳を見る。
「大丈夫です。バレなきゃ、目も付けられません」
「……君、諦めないね」
「ここは諦めてはダメだって、私の勘が言ってます。いつも当たらないけど、今は当たってる気がします」
「え、その勘、当たるの当たらないの?」
「さあ? どうでしょうかね。それはともかく、私、やっぱりアルトさんは良い人だって思うんです。それに同じ日本人顔だし、親近感が湧きませんか? 私は湧きまくってますよ。仕方ないから助けてやるか、とか、思いませんか?」
私の台詞がどのように訳されてアルトさんに聞こえているのかは私にはわからない。
彼にしてみれば私の親近感なんて、何のこっちゃ、だろう。
でも、逃げて行かずにこうして付き合ってくれているあたり、お人好しだと確信している。
「えーと、何だか面倒になってきたなぁ」
良い声で、投げやりに言われた。
「冤罪ですよ。私たち可哀想じゃないですか?」
それほど目線の高さが変わらないアルトさんに、ずいっと攻め寄る私。
「被害者意識を持ってない時に限って、被害者であることを殊更主張して、善意の第三者を巻き込むところとか、ホント、似てるよな」
ブツブツ呟くその言葉に、心当たりがあり過ぎる私は聞かなかった振りをする。
確かに、そういう言い方をする傾向にはあるかも。
アルトさんは諦めたように溜息をついた。
「城の外に一緒に出れば良いわけ?」
さっきから、アルトさんの口調がぞんざいだ。
多分、これが素なんだろうな。
「一度の出会いは偶然でも、二度目ってことは異世界人である君とは何らかの縁があるんだろうな。まあ、初めて会った時にそんな予感はしてたよ」
何やら自分を納得させているアルトさん。
って、異世界人である私って、何でバレてるの?
「君が今言ったじゃないか。同じ日本人顔だって。僕の祖母は二十世紀の日本人で、僕は祖母にそっくりらしいよ」
「おばあさまが日本人?」
彼がこくりと頷く。
クォーターでこんなに日本人の血が色濃く出るんだ?
アルトさんよりも恵人少年の方が、西洋人の血が混じってるって言われて納得できる顔立ちをしている。
でも、アルトさんも日本人としてみた時に、鼻筋が通っていて整った顔立ちをしているのは確かだ。
「おばあさまということは、四分の一、異世界人の血が混ざってるってことですよね」
私の言葉に、アルトさんが改めて答えることはなかった。
「誰か来る」
警戒しながら、彼が灯りを消す。
すると、灯りに慣れていた目は何も感知できず、私の周囲は暗闇に包まれた。
アルトさんは誰かが来ると言ったけれど、これだけ暗いと私にはこちらに来る人の判別がつかない。
それに、こちらに向かって来る足音とか、息づかいとかが全く聞こえないんだけども、本当に誰か来てるの?
そんな疑問に首を傾げた瞬間、私はアルトさんに引き寄せられた。
「あれ? あ、ちょっと待って、うわ!」
「え? アルトさん? あ、きゃ!」
私を引き寄せた直後、慌てて口を開きながらバランスを崩したアルトさんと一緒に地面に転がってしまう。
周囲が暗すぎて、鳥目の私には何が起こっているのかが分からなかった。
うわ、重いのにごめんなさい!
彼に体重をかける状態で転んでしまった私は、まずそこが気になった。
しっかりと守りながら転がってくれたアルトさんだったけど、私の重量は細身の彼には辛いと思うんだ。
明らかに私の方が体重あるだろうし。
急いで彼から離れようとしたのだけど、その前に強引に私をアルトさんから引き剥がして抱き上げた手があった。
それが少年だってことは、体の小ささからすぐに理解できた。
「帰って来るのが遅いと思ったら、何してるんだよ」
不機嫌そうな声音からは、心配させたことが読み取れる。
「アルトさんと会ったから話してたんだけど……ねえ、恵人君、今アルトさんに何かした?」
「おねえさんが、何かされてただろ」
いえ、何もされていませんでした。
最後のは、何かから私を守ろうと引き寄せたっぽかったし。
「あの店の店長が何でこんな所にいるんだよ?」
私を抱き上げたまま、少年が不信感丸出しで疑問を口にする。
「それを言ったら、お互い様なんだよ、ケイト君。ね、下ろしてもらっていい?」
少年は、一瞬言葉に詰またものの、その後の私のお願いに渋々応じて下ろしてくれる。
足の裏に地面を感じて、安堵と共に私は更に続けた。
「アルトさんはお城のお偉いさんの注文を受けて、配達で厨房に来てたんだって。で、今から帰る所だって言うから、さっきは、一緒に連れて行ってもらう交渉をしてたんだ。ほら、疑われずに城から出られそうじゃない?」
少し暗闇に目が慣れてきたのか、アルトさんらしき影が立ち上がって近づいて来るのがわかった。
「え? いや、だって、それ無理じゃねえ? さすがに入る時より人数が増えていれば怪しいし、尋問されるだろ」
少年が私の期待を打ち砕くようなことを指摘する。
うわー、ホント、その通りだ。
一緒に、とかって無理。
いい案だと思ったんだけどな。
諦めかけた私が口を開くのを遮って、アルトさんが答えた。
「持ち主が持ち主だし、出て行く馬車の中まで検閲する度胸のある近衛兵なんていないだろうから、なんとかなると思うけど……私達って、君達二人だけ?」
こくりと素直に頷く私と、不審げな少年。
「なんか、出来過ぎで胡散臭いんだけど」
この人が俺達を助けてくれる理由もないしと、少年が呟く。
呟きのくせに、声が比較的大きいのは、敢えて聞かせるためなのだろう。
「普通はその反応が正解だ。君が警戒心なくぐいぐい来るから、心配になるよ。異世界人ならもっと慎重にならないと、この世界で自由に生きていくのは難しい」
自分の呟きに対してのアルトさんの発言にぎょっとして、少年が私を睨んだ。
ち、違うから、私がバラしたんじゃないから!
慌てて否定しようとした私の手を少年が握って、アルトさんと私の間に体を入れた。
彼は、自然に不都合なことから私を守ってくれようとする。
最近、そんな少年の仕草や素ぶりに気づくと気持ちがほんわかするのだが、今はのんびり浸っている時ではなかった。
「恵人君、アルトさんはおばあさまが日本人なんだって! 日本人だよ、日本人!」
「あ、え?」
少年が、今度はキョトンとして私とアルトさんを見比べる。
「コンニチハ、アリガト……とでも言えば信じてもらえるかな」
エセ外国人のような発音で、アルトさんが日本語の挨拶を披露する。
外見日本人でそれは逆に胡散臭く見えるぞ。
「信じる信じないというか、さっきも言ったけどこんなの出来過ぎだ」
「ヒナタさんと違って、警戒心があって結構」
あれ?
私ディスられた?
「君達が異世界人であるなら、僕とは出会うべくして出会ったと考えればいい。どちらかに、そういう強制力が働いてるのかもしれない」
「一度目は偶然、二度目は強制力? ですか?」
ふと、先程のアルトさんの言葉を思い出して口にする。
「なんだ、それ。一度目は偶然、二度目は必然ってのなら、聞いたことがあるけど」
少年が首を傾げた。
私も、それは聞いたことがある。
三度目は運命だっけ?
そういえば……異世界人の子孫であることが、カークさんが言ってた加護を持つ人の条件だよね。
アルトさんも加護を持ってるって事かな。
不意にそんな疑問が頭に浮かんだ。




