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▶︎ 勇者も彼らに会いたかったはずなんだけど(美咲)

街で捕まった三人が気になった。


聖女を狙う他国の間者が王子達に捕らえられたのは一週間前の話だ。

それから春菜を含めて、異世界人の私たちの監視と警護の人数は増やされていた。

にもかかわらず、春菜は視察という名で、買い物をするために簡単に街に出る。

王子達も春菜の我儘はホイホイ聞いてしまう。

自重すべきだと思うし、そう意見も言ってる。

でも、彼女に聞き届けられることはない。


そして今日。

おかしな三人組が私達の前に現れた。

結局捕らえて地下牢に拘束した。

三人の尋問をいつするのかと確認したら、明日の朝とのことだった。


前回のことを考えるなら、尋問は迅速にするべきだし、一晩も放置しておくべきではないと思った。

でも、私とは違って、春奈はあの三人のことは気にならないらしい。

彼女は三人の目的、身元の究明よりも王子達との晩餐の方が大切で、それは王子達も同様のようだ。

それよりも殿下の邪魔をする発言は控えるべきだと、再三言われた。

私は納得いかないながらも引き下がるしかない。


あの三人を放っておける春菜が不思議だった。

だって、彼らは私達に似ていたから。


一人は黒い髪黒い瞳の少年。

一人は黒い髪黒い瞳の女性。


華やかな色彩の髪や瞳の多いこの世界で、髪も瞳も黒い人間が二人も同時にいるなんて偶然、あるものだろうか。


少年は一見日本人のようだけれど、整った顔立ちはハーフと言われれば納得行く感じで、日本人だとは断言できなかった。

女性の方は顔立ちが日本人にしか見えない。

けれど、平均的な日本女性よりも大柄で若干背が高く、体型も日本人の小柄でスリムなものではなかった。

この世界の女性なら平均的な体型だけども。


彼らが私達のように異世界から来た日本人かもしれないという期待があったのはもちろん、みんなが見えていなかったあの美女について、彼らに確認したい気持ちも強かった。


美女は中性を思わせる人間離れした美しさだった。

透き通るような白い肌、艶やかな黒髪、暗い赤色の瞳、そして鮮やかな真紅の唇。

それらが絶妙に配置され、人とは思えない妖艶さを醸し出していた。

こちらを見る、血を思わせる赤い瞳にぞくりとする。

セヴィが口にしていた、魔物や妖魔を超えるモノとは、こんな風に得体のしれないものなのかもしれない。

そんなことを感じた。


実際、精霊達が注意を引くように美女の周囲で騒いでいたのだから、あの美女が何らかの意図を持って私達に近づこうとしていたのは確かなのだ。


私にとって、三人が色々な意味で特殊に思えた。

どうしても春奈のように無関心ではいられなかった。


明日の王子達の尋問前に会えないかと、ダメ元でセヴィに頼んでみる。

夜の短時間ならと条件付きで珍しく許可が出、セヴィが二人の騎士を連れてついて来た。

一人で会うことの許可は出してもらえなかった。

私の監視なのだし、彼にとっては任務だから仕方がないのは理解してあげられる。

危険があるとの判断なのも、納得できなくはないのだ。

だけど、二人とはこの世界の人目がない所で話してかった私としては、完全な自由がないことに、やっぱり辟易してしまう。


私は騎士達を引き連れて、一時的に罪人を拘留する地下牢へ向かった。

地下牢への入り口は宮殿の離れにある兵舎奥だ。

そこは牢屋だけではなく、拷問部屋や拘束部屋などがあり、外部からも内部からも魔法が使えないように強力な結界が張られているらしい。


考えるだけで気持ちが悪くなる。

だって、私はただの女子高生なんだよ。

魔物を倒して、追い払っている間は現実感は乏しい。

多分、対象が異形のモノだからだ。

だけど、ここの施設の対象が人間だと思うと、途端に胸の奥がムカムカする。


春奈や先輩達が私ほど、人に対して力を振るうのに嫌悪感がないのは知ってる。

こんな風に感じている私があの中でも異質なのだ。

疎外感を持った時、彼らを思い出す。

由佳、東君、今頃どこにいるんだろう。

会いたいな。


捕らえられた二人の外見のせいか、帰郷心が強くなっているかもしれない。


私は、脳裏に浮かぶ友人達をかき消すように頭を振った。


地下牢の入口を守る衛兵が、私とセヴィに敬礼して、扉を開る。


「ねえ、やっぱり一人はダメ?」


上目遣いでお願いしてみるも、セヴィの鉄壁の防御は崩れない。

ま、今更ではあるのだ。

色仕掛け……と呼べるものかどうかは置いておいて、いろいろ試したのだ。

私の本当のお願いが聞き届けられることはない。


溜息をついて、中に入ろうとした私の肩を、セヴィが引き止める。


「何?」

「ガレス、先に行け。ミサキ様は私と共に彼の後からです」

「慎重なのね。地下牢で何かあるわけでもないでしょうに」


先に下りていく騎士に続きながら、呆れた口調で返した。


壁の淡い魔法の光に照らされて、階下の見張りがカードに興じているのが見えた。

こちらを向いて座っている兵士が、私達に気づいて手を止めてカードをテーブルに置く。

立ち上がって頭を下げる兵士は背が低く、装備のサイズが合っていないように感じたのと、精霊達が何かを言おうとしているのが同時だった。


でも、その時にはもう遅かった。


背の低い兵士の口角が上がった瞬間、こちらに背を向けて座っていた兵士の体が椅子から落ちた。

それに気を取られている間に、その兵士は私の隣にいたセヴィへ殴りかかっていて、拳を止められていた。


ボキリと嫌な音が地下牢に響く。


私の前にいた騎士は床に伏せていて、私の後ろにいた騎士も階段に体を預けて倒れている。


一瞬の間に騎士達を昏倒させた兵士が、小さく舌打ちした。


「くっそお、あんたが俺のスピードについてくるから、手加減できなかったじゃねぇか!」


後悔の言葉を発する兵士はその背丈同様、幼く思えた。


「ミサキ様、お逃げください」


私を守ろうとするセヴィ。

彼の言葉通り逃げればいいのに、躊躇いが足をその場に縫い付ける。


だって、セヴィの両腕は明らかに曲がっている。

これでは剣を持つ事だって、拳を構える事だってできないじゃないか。

そのまま見捨てて一人で逃げるなんでできるわけがない。


「バカ言わないで! 貴方を置いて行けるわけないでしょう!」


そう言い放つと、私はセヴィの後ろに立ち、魔法を放とうとした。


「ダメです、ここでは魔法が使えない。ここでは貴女はただの女の子でしかない。早く、逃げなさい」


痛みに顔を歪めながら、セヴィは傷ついた体で私を守ろうとする。

仕事だってわかってる。

任務だって知ってる。

だけど、こんな風に守られれば、絆されたって仕方がないじゃない。


私を気遣う精霊達を感じた。

いつも私を見守ってくれている存在達。

魔法は結界に阻まれるとしても、この世界に今まで存在していなかったこちらの能力なら、ここでも使えるのではないだろうか。


そう思い当たれば、セヴィを守るために持っている力を使うのは当然だった。


「お願い! 私達を守って! そして、セヴィを傷つけた敵を討って!」


真摯な願いは精霊達の好物である。

対価として私の魔力が彼らに食われていく。


彼らが願いに応えた刹那、地下牢に閃光が走った。

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