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勇者さん達に会いたかっただけなのに 5

テーブルの上に散乱するカード。

だらしなく眠りこけているかのように見える兵士二人。

少年が見張りの一人を。私がもう片方の呼吸と脈を確認する。

二人とも気を失っているだけのようで、ひとまず死んではいない。

ホッと安堵の息を吐いて、私は白雪の頭をなでた。

彼女はどこか得意げな様子だ。


そんな様子を見ると安心する。

先程湧き上がってきた畏怖や恐怖など、いつの間にか消えていた。


「この階段を上がった所にも兵がいる」


少年の言葉に、先ほどと同様に階上へ腕を伸ばす白雪。

それを少年自身が止めた。

白雪は不満そうだ。


「階下に降りる入口に見張りがいないと分かれば、すぐに脱獄の事はバレる。早くここを離れられるようにまずは方針を決めよう」

「方針? ここから逃げるんだよね?」

「おねえさん、何のために捕まったんだよ? このまま宿に逃げ帰るだけなら、捕まり損じゃねぇ?」


あう、確かにその通り。

何のために捕まったって?

勇者と呼ばれている高校生達に会うためだよ。

今はそれ以外の目的なんてない。


「高校生達に会う算段をつけなきゃいけないって事だね」


私の発言に、少年が首肯した。


「この城の人に会わずに、高校生にだけ会う。それ以降は、あの人達との話し合いの結果かな。後、荷物の回収もしたい。だけど、最優先事項は身の安全だから、危ないと思ったら、おねえさんを抱えてでも、白雪を見捨ててでも逃げるからね」


捕まる前に白雪を囮にするのではないかと思ったのは勘違いではなかったようだ。

躊躇いを感じた私に気づいたのか、少年が少し考えてから続けた。


「おねえさん、白雪は庇護の対象じゃないよ。彼女だけじゃない、カークもリアンも、誰であっても俺は真っ先に切り捨てる」


私を掴む少年の腕に、僅かに力がこもる。

痛くはないけれど、本気だって事は伝わる。

でも、私はそう言い切ってしまう少年が怖い。


この世界に辿り着いて一ヶ月以上が過ぎている。

環境に順応せざるを得ないのが人間で、子供ほど順応力は高く、歳を取るほど新しい環境に合わせられないものなのかもしれないし、守ってくれてる少年と、守られてる私の意識の差なのかもしれない。

実際、少年との乖離が気になるのは今回が初めてではなかった。

それでも私は……。


腕を振り払い、両手で少年の頰を包んだ。


「切り捨てるなんて、そんな冷たい言い方はしないで。私以外の人の強さを信じてるってことよね。信頼するのはいい事だもの。それでいいじゃない」


彼は逡巡した後、頰を包む私の手を両手で上から包み込む。

剣蛸のできた手の平は少しガサガサしていた。


あれ? こんなに少年の手って大きかったっけ?


「うん。ごめん」


俯いて素直に反省する姿が可愛くて、思わず抱きしめたくなったが、そんなことをしている場合ではないことを思い出し、慌てて少年から離れて自制する。


「とりあえず、高校生達だよね。いる場所が判ればいいんだけど」


誤魔化すように言葉を紡いで、はたと気づく。


「そういえば、白雪、勇者の場所がわかるんじゃなかったっけ」

「ウチダテヒナタに似ている力の強い人判る。こっちに三人。こっちに一人」


注目された白雪は嬉しそうに答え、少年が額に手を当てて溜息をつく。


「曖昧過ぎ。その情報、どう活用するんだよ。建物の構造もわかんないし、地図があればいいけど……普通ないよなあ」

「うーん、白雪、どっちか近い?」


そりゃそうだけど。

ホテルやテーマパークみたいに避難マップとか、館内案内図とか、あるわけないしね。

そんなこと思いながら、私は白雪に続けて質問してみた。

すると、彼女からは予想外の質問が返ってくる。


「一人の方は近づいている」


私も少年もギョッとした。

何しろ我々は脱獄中だ。

近づいて来る勇者が一人ならまだいいが、城の兵や昼間の騎士などと一緒にいれば確実に騒ぎになる。


「単にどこかに移動するのに、こちらの近くを通っているってことはない?」

「それは分からない」

「……いや、もしここに来るなら、これはチャンスと思おう。どうせ騒ぎになるなら、高校生と接触するべきだ」


少し考えて、少年は決心したようだ。


「ここの兵士の強さは分からないけど、白雪と俺の二人いればそうそう負けることはないと思う」


確信を持って少年が断言した。

まあ、私もそこは否定する要素はないし、同意する。

でも、何だかその少年の自信に不安を覚える。


「だから、もしここが目的なら、周りの人間を倒して、勇者を拉致っちゃおう。ついでに荷物の場所も聞けるかもしれないしな」


ニヤッと笑った顔が、何故か悪どい事を考えているように見えた。

あれぇ?

恵人君、悪役みたいなんですけど。


それに呼応するように白雪が妖艶に微笑む。

勇者以外は倒していいと言われたのが嬉しいらしい。


「ねえ、相手は人間だからね。調子に乗ってやり過ぎちゃダメだよ」

「大丈夫、大丈夫」


私の忠告も話半分で、二人はそそくさと勇者達を出迎える準備を始める。

具体的には先程気絶させた兵士の内、背の低い方の装備を剥ぎ取って少年が身につけ、裸の兵士は白雪のいた房へと転がす。

もう一人の兵士は待機所のテーブルを囲むように椅子に座らせる。

向かいに少年が座りテーブルにカードを並べると、先程の見張り達のようにカードゲームに興じているように見える。

特に、階段を降りて来た人には兵士の一人が気絶しているなんて分からないだろう。


「お姉さんは、一番近い房で大人しくしててよ」


と、指示を出されたので、その通り、一番近くで彼らが見える房で認識阻害のマントを被って静かにしていることにする。

私が出来ることはないから、見てるだけになるんだけど、なんか不安だ。


「ここに来る」


不意に白雪が呟いた。

彼女は階段からは死角になる位置で息を潜め、水を糸のように伸ばして気絶中の兵士を操っているらしい。

白雪さん、何気に万能なんですけども。


「じゃあ、白雪よろしく」


またも、少年がニヤリと笑い、白雪が婉然と笑みを浮かべた。


何、この魔王軍の女幹部とショタ担当みたいな構図は。

御誂え向きに、ターゲットは勇者と呼ばれる異世界人だし。

君達、物語間違えてませんかね。



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