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王都にやってきました 4

初対面でいきなりナイフを突き付けられたにもかかわらず、親切で善人なアルトさんは私達へ更にケーキと紅茶をご馳走してくれた。


そう、二人ともナイフを突き付けてたのよ!

アルトさんが許しても、私がそう簡単に許すわけがないのである。


という事で、午後のお茶会に満足して宿屋へ戻った彼らは、目の前で仁王立ちをする私の顔色を伺うように、下からおずおずと見上げてくるのであった。


宿に帰ってきたカークさんが、ギョッとして少年とリアンさんへ目をやったほどである。


「何をやってるんだ?」

「教育的指導で、正座させてます」


私の答えに、彼は首を傾げた。


「セイザ?」


なるほど、この世界にない概念や言葉はそのまま日本語の発音になるのか。


「私の国で、子供が悪さをした時の反省に使う座り方のことです」


状況に合わせて説明してみた。

本来は座作法であるから、説明は言葉足らずだろうけど、端的でわかりやすいと思う。


「変な座り方だな。膝を折って、小さくなる感じか。反省に使うと言うことは、何らかの肉体的苦痛があるのか?」


不思議そうに尋ねてくる。


「ある程度の時間膝の血管を圧迫することにより、膝下の血流が下がり、結果的に足が痺れて数分ほど動けなくなります。興味があるなら、カークさんもやってみます?」


物珍しそうに観察していたので、軽く勧めてみた。

しかし、彼は慌てて拒否し、子供二人へ同情の眼差しを送っただけだった。

一人は子供なのは見かけだけで、中身は立派な大人だけど。


少年もリアンさんもプルプルしている。

そろそろ我慢も限界かな。


「まあ、そのままでいいか。残念な知らせがある」

「?」

「充てにしていた鑑定師だが、魔物襲撃の日より行方不明らしい」

「行方不明?」

「正確には、その日以降の行方不明者は何人かいるんだが、そのうちの一人がこの国唯一の鑑定師だ」


カークさんの歯切れが悪い。

何か思うことがあったのか、少年は口を開きかけたものの、すぐに我慢するように歯を食いしばる。


しばらくして、軽く手を挙げて、彼は私を呼んだ。


「おねえさん、これじゃ、話に集中できない」

「仕方ないなあ。やたらと一般人に威嚇したり絡んだらしないって約束してね」


子供に言って聞かせるように言葉を紡ぐ。

二人とも少し不満そうな表情を浮かべたが、勢い良く首肯を返してきたので、許すことにした。


安堵の息をして足を崩した直後の彼らの悶絶を一瞥して、私は白雪に顔を向けた。


彼女は正座のまま、涼しい顔をしていた。

その理由は分かってる。


「白雪、少し浮いてズルしてたのは、まあ良いよ。あなたも無闇に他人を傷つけるのは禁止だからね」


私が指摘すると、神妙な顔をして彼女は頷いた。


「ウチダテヒナタの言う通りにする」


うーん、素直は素直なんだけどなあ。

逆に誤魔化してしまえばいいのに律儀にお仕置きを受ける少年とリアンさんも従順すぎないかな。

従順は美徳ではあるが、過ぎれば悪癖にもなる。


なんてことを考えていたら、足の親指をぎゅっと握って、悶絶からいち早く復活した少年が話を元に戻した。


「あのさ、何人かの行方不明者っていう言い方、それなりの身分の人がって事だよね?」


首を傾げる私に「ほら、災害の規模からして行方不明者が数人で済むとは思えないんだよ」と、少年が説明すると、カークさんが頷いた。


「魔物襲撃の日より以前に、王宮に七名の客人がいたという話だ。しかし、勇者として人前に姿を見せるのは四人しかいない。残り三名が行方不明と考えるべきかもしれんな」


きっと、その客人七名が高校生達という事だよね。


あれ?

客人で勇者?


……昼間のあれか!


はたと気付く。


勇者達を見に行けばすんなり会えたってこと?

ニアミスしてるんじゃん!


石柱群がそびえるあの不思議な丘で別れた、学校帰りの高校生達を脳裏に浮かべる。

誰一人として顔も分からないんだけど。


「おねえさんとすれ違ったってのはなんとなく分かってたけど、高校生は見てなかったから、俺も顔なんか分かんねえや」


少年が口を開いた。


「声に出てたよ」


キョトンとする私に、彼は平然と告げる。


慌てて口を抑えるが、覆水盆に返らずである。


「ひな、勇者に会いたいのか?」


足の痺れから復活してきたリアンさんが興味深げにこちらを見た。

それはカークさんも同じだった。

てか、カークさんは私達が高校生と会いたいって思うのは当然だと考えてくれてて然るべきでしょう。

何で今更そんな目で見るかな。


「そりゃあね。会ってみたいよね」


私は少年に目をやる。


「城にいるんだろ? 難しいんじゃねえの? 昼みたいに城下にいれば別だけど」


さすが少年、正しい現状把握。

やはり、さっきのあれは千載一遇のチャンスだったのか。

あの時に気づかなかった事が悔やまれる。


項垂れかけた私は少年の言葉に動きを止めた。

そして、顔を上げる。


「城下にいれば別? そういえば、勇者達が街に来て大騒ぎになるのはいつものことだって言ってた。それを狙えば会うことができないかな」


アルトさんが言ったのだ、いつも勇者達が去れば騒ぎが落ち着くと。

勇者達が民衆の前に姿を現してから三週間。

その短期間に「いつも」と言われるほど街での目撃があるということだ。

それは、彼らが足繁く城下に来ている証左ではないだろうか。


「ウチダテヒナタは勇者に会いたいのだな。ウチダテヒナタの願いなら、誰にも邪魔させずにシラユキが会わせてやるぞ」


不穏当なセリフを吐きながら、妖艶な美女が微笑んで私の腕に腕を絡ませてくる。

それを気に入らないとばかりに睨みつけるのはリアンさんだ。


「物騒な考えはやめろよ」

「うん。おねえさんは悲しむと思う。無闇に他人を傷つけるなって言われた所だろ」


リアンさんと少年が口々に白雪を非難する。

彼らの言い様が不満だったらしく、彼女は不快な面持ちで二人から視線を外し、不安そうに私を見てきた。

少年達の言葉を肯定するために、何度も首を縦に振る私。


会わせてやるって、それって白雪の能力でって事は、力尽くって事だよね?


「うん、たぶん、おそらく、きっと、悲しむかなあ」


知らない誰かが知らない所で傷付いたからって、涙を流せるような優しい心は持っていない自覚はあるが、怪我人が出るような強硬手段を取るのは私の性格には合わない。

大体、それで罷り間違ってお尋ね者のとかになってしまったりしたら、今よりもっと面倒ではないか。


「ウチダテヒナタが悲しむならしない」


私に少し体を預けて、白雪はしょんぼり呟いた。


世の男性が軒並み惚れてしまいそうな美女が、叱られたワンコのように意気消沈している姿はギャップがあり過ぎませんか。


何この可愛い生き物。


思わず手を伸ばして頭をよしよしと撫ででしまう。


「助けて欲しい時は白雪にお願いするから、その時はよろしくね」


私の言葉に、白雪が嬉しそうに頷いた。


「おねえさん、白雪に甘過ぎ」


呆れたため息と共に少年が呟く横で、リアンさんが猫耳をピクピクさせている。


「僕もナデナデされたい」


白雪を睨みながら羨ましそうに漏らしてるけど、こんなの大した事じゃないし、嫉妬するようなことでもないからね!

母親の愛情を奪い合う兄弟でもあるまいし……いや、それともそれに近いのか?


「て、あんたは何してんのさ」


突然少年と猫耳美少女の頭をガシガシ揺らし始めたカークさんに剣呑な声で抗議するのはリアンさんだ。

少年も不思議そうに見上げている。

かなり乱暴だけど、ナデナデのつもりじゃないかなあ。


「城には魔物は入らないように結界が施されている。実際、魔物襲撃にも王城の被害は皆無だった。勇者に何かするにしろ、シラユキでも城にいる間は手が出せんはずだ。で、お前ら、じゃれ合うなら後だ。話を戻すぞ」


嫌がる二人の頭をガシガシしながら、カークさんが宣言した。


「王都での目的を確かめておこう。第一目標は」

「こ……勇者に会って話を聞きたい!」


カークさんの言葉尻を奪って、はっきりと発言する。

私と少年にとっては一番重要な事だ。


その勢いに押され気味に「お、おう」とか応えながら、カークさんが話を続けた。


「鑑定師の方はどうする?」


少年の能力に関しては興味があるが、自分の能力に関してはそれほど重要視していなかった。

それに、予想外の変な能力があってカークさんがまた調子に乗っても困る。

どうやら、まだ例の遺跡とかいうのに連れて行きたいらしいし。

正直、鑑定師が行方不明で良かったと思っていた。


「両方同時進行でいいじゃん。鑑定師を探しながら勇者に会えばいいんだろう? 俺は、能力気になるな」


とは少年。


そうか。

やっぱり気になるか。


「ここはセオリー通り、ギルドでの情報収集からだね」


至極真っ当な意見を述べる猫耳美少女のリアンさん。

私に固執する性癖さえなければ、この面子の中で彼が一番の常識人だ。

という事で、少年のDランクアップを狙いながら、しばらくは勇者と鑑定師の情報収集に重きを置く方針で決定したのだった。


しかし、方針は方針に過ぎず、一寸先は闇であると改めて実感する事になるなんて、この時の私達にはわかるはずもなかった。








(恵人)「前から気になってたんだけど、セリアンスロープの本能って何?」

(カーク)「特に雄に顕著なんだが、つがいとなる相手を見つけると病的なほど保護欲が高まるらしい」

(恵人)「つがいってのは、オスとメスのセットってことだよな? 結婚とは違うのか?」

(カーク)「基本的には同じと考えていい。結婚という儀式は人族が作ったシステムだからな。人族とは違うのは、保護欲の塊になった獣人族が互いを束縛したがる傾向にあるというところだな。ようは、つがいと認めてしまうと本能的にその相手から離れられなくなるのさ」

(恵人)「束縛を喜ぶやつばっかりじゃないだろ?」

(カーク)「大抵は同種族でつがうから、互いに互いを束縛することで問題は起きない。たまに異種族間でつがう場合があってな、そうすると、セリアンスロープの束縛に他種族のつがいがついていけなるなるのはままある事らしい。つがいか逃げようとするから更に束縛し、負の連鎖に入っていく。そうなるともう狂気の世界だ」

(恵人)「おっさん……あんたそれを知っていて、リアンを旅の仲間に引き入れたのかよ」

(カーク)「怖い顔で睨むな。リアンもまだ若い。狂気に走るとは限らんだろう。大体、嬢ちゃんがつがいになることを受け入れるとも思えんしな」

(恵人)「無責任な」

(カーク)「怒るな怒るな。何かあったとして、俺なら嬢ちゃんをリアンから守ってやれるだろうさ。……何で、そこで更に怒るんだ、お前は」

(恵人)「(お姉さんを守るのは俺だって言ってるだろ。それに関してはあんたも敵だからな)」



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