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王都にやってきました 2

中心地から程よく離れ、手ごろな宿泊代である、カークさん馴染みの宿に部屋を取り、その一室で一息ついた後、我慢できなくて散歩を提案してみた。


だって、今日はこのまま休んで冒険者ギルドへは明日行くって言うから。

まだ昼下がりで、時間はたっぷりあった。


私が行くなら自分もと手を挙げたのはカークさん以外全員だった。

まあ、そうなるよね。


カークさんは顔を出すところがあると言って、一足先に宿を出ていた。


「人が多い。恵人君、白雪、迷子になっちゃダメだよ」

「おねえさん、フラグ立てんなよ。それって、絶対あんたが迷子になるパターンだろ?」

「ん、シラユキはウチダテヒナタから離れない」

「ひな、僕の心配はしてくれないんだ」

「リアンが迷子になるなら、俺達はもう迷ってるだろ」

「君は失礼だな。私を何歳だと思ってるの。二十五だよ二十五。今更都会で迷子になるわけないじゃん。ちゃんと案内標識を確認してれば大丈夫なんだから。それよりも、初めてきた大都会で迷子になって重要人物と出会うフラグは主人公のものでしょう? それって私じゃなくて、恵人君のフラグじゃん」

「あのさあ、今更だけど、おねえさん思考がおかしいよね」


なんて、気楽に軽口を叩きながらの市街地観光。

宿を出て気ままに行く方向を決めながら。

ヨーロッパの中世の街並みさながらの光景は、浮かれた気分を更に興奮させた。


しかし、このメンバーでぞろぞろ歩いていると、家族にしか見えないんだろうなあ。

子供二人がお母さんの手を繋いで観光中ってところだ。

白雪はフードを被っているので、カークさんの言によれば認識されていないらしい。


「ねね、リアンさん。人がたくさん入って行くあそこの大きな建物は何?」

「ウチダテヒナタ、シラユキはあそこが嫌いだ」


一際大きい建物に何人もの人が入って行くのが確認できる。


「大聖堂だよ」


リアンさんの回答に、私は納得した。

そりゃ、魔人の白雪には苦手かもね。


「あれ工事中じゃねーの?」

「例の襲撃で魔物にやられたんだろうね」


大聖堂周辺は大きな広場があって、他と比べて建物も綺麗で大きいものが多い。

行って見たいと思ったけれど、白雪に無理強いするほどの興味もなかったので、工事中の大聖堂には近づかないように迂回することとした。


「なあ、リアン。あそこの人集りは避けた方がよくね?」


しばらくして、僅かに眉をひそめた少年とリアンさんが相談を始めた。


何やら通りの様子がいつもと異なるらしい。


でも、事が起こるのは、いつだってあっという間なのである。


私からは離れないと言ったのは白雪だった。

案内役で私の右手を握っていたのはリアンさんだった。

フラグ立てるなって言って私の左手を握ってきたのは少年だった。


なのに、ねえ、あなた達は今どこにいるの?


空になった両手を呆然と凝視する。


しかし、考える間も無く私達一行を引き離した人波と熱狂の渦に、再び呑まれてしまった。


「勇者様達がいらっしゃってるんだってよ!」

「この国の守護神だ」


人々に揉まれながら、そんな言葉が聞こえて来る。


突然街に現れた芸能人に人が集りだす現象のようだ。

この世界の場合、テレビはないから、芸能人ではなくて英雄だったりするのかもだけど。


流れに逆らうように、人波をかき分けてやっとの事で一息ついたところは見知らぬ路地裏。

それも行き止まり。


周囲を見回しても知ってる姿はない。

何てこったい。


少年の言った通り、迷子になったのは私でした。


私はその場にへたへたと座り込んでしまった。


やばいよ。

宿に自力で戻る自信ないよ?

こんな時、日本ならタクシー乗って目的地を告げれば連れて行ってもらえるのに。

警察に頼るとか。


ガバッと、私は立ち上がって小さくガッツポーズをとった。


そうだよ。

警察だよ、交番だよ。

迷子になったら頼るべきはお巡りさんだよ!


と思ったけども、その警察自体、何処にあるわけ?


少しばかり来た道を戻ってキョロキョロ周りを確認すると、道二つほど向こうではまだ喧騒が続いているのが分かった。


あれが収まるまでは動かない方がいいのかなあ。


私は壁にもたれて再度座り込んだ。


大通りの騒ぎが嘘のようにその路地は静かだった。

その事が不安を煽る。


でも、地球の知らない外国の知らない街で迷子になるよりマシな状況ではあるんだよね。

言葉は通じるんだから。


うん! 頑張って人に聞きながら宿まで帰りますか!


立ち上がった時だった。

背後から軽やかな鈴の音が聞こえたと思った瞬間、背中を押されてつんのめる。

そしてそのまま大地とごっつんこしてしまう。


「何かが引っかかって……あれ?」


聞こえてきたのは耳に心地よい優しそうな男性の声。


「うわ! ご、ごめん!」


どうやら、私は彼の家の扉を背に座っていたらしい。


身を起こして振り返った私の瞳に映ったのは、私と同じぐらいの歳で、私と同じような黒髪黒眼の、優しそうな外見の男性だった。


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