召喚されました? 6
太陽が沈む前にたどり着いた私達は、初めに会った人にものすごく驚かれた。
ちなみにその人は国が派遣した小隊の兵士達だった。
だから、会ったというよりも、発見されてしまったという方が正しい。
私達がいた石柱群の丘は神聖な場所で、何らかの儀式のため、ここ数日立ち入りを禁止されていたのだそうだ。
更に、今日は街道の通行も止められていて、村人達も村から出ないようにとの御達しがあったらしい。
儀式の際の魔力に惹かれて、有象無象の魔物がこの辺りにも集まってくる可能性があるからというのが理由で、小隊が派遣されているのも有事の際に村を守るためなのだそうだ。
何それ。
私一人で夜を明かしてたら、確実に命がなかったのではないでしょうか。
少年、私の命の恩人だわ。
ていうか、魔物がいるのね。
そしてやっぱり異世界なのね。
少年の言う通り、意識して聞くと彼らの話す言語が日本語ではない事が認識できた。
もちろん、言語は日本語で聞こえるんだけどもね。
このおかしな現象一つ取っても、明らかにファンタジーである。
間違いなく異世界なのだ(泣)
人がいればいいなと思っていたそこは、それなりに大きい村だった。
私達が見た屋根の家は村はずれに建っているもので、さらに奥に村の中心が広がっていたのだ。
「そんな事情があったのね。街道で人とすれ違わない訳だわ」
私が諸々の説明に頷いていると、兵士が次はそっちの番だとばかりに事情を聞いてきた。
「知らない場所に置いて行かれてしまって、困ってるんです」
正直に答えたら、少年に足を踏まれた。
何をするんだと睨んだら、またも睨み返される。
ううう……余計な事は話すなってことかしら。
私達は、自分たちがどういう存在なのか設定をちゃんと決めていなかった。
その話をしている時に見つかったからだ。
「旅芸人の親子かな? 変わった服を着ているし」
おや、何やら兵士が勝手に勘違いしてくれた。
ていうか、親子って……私、幾つに見えるわけ?
地味にショックなんだけど。
「兄弟です!」
ムッとした様子での訂正は私ではなく、少年だ。
「これでも、俺は十四歳なんで!」
兵士はそれを聞いて驚いていたが、すぐに悪かったと謝ってくれた。
私が老けて見えるんじゃなくて、少年が幼く見えているようだ。
確かに、私も小学生でもおかしくないって考えてたし、兵士の顔立ちや体格を見ると明らかにモンゴロイド系じゃないから、日本人は幼く見られるのだろう。
そんな日本人であるにもかかわらず母親と思われた私は、やっぱり老けて見られてるんだろうな(泣)
私の心の傷は誰にも知られないまま、話は続く。
「四日前に一座とはぐれてしまって、次の興行先の街は分かっているので、追いつこうと思って無茶してしまいました」
兵士の勘違いに肉付けしていく少年。
設定がぺらぺら出てくるんだから、すごいよね。
私はというと、もう喋らないことに決めた。
「マーダレーか。ここからは3時間ぐらいだもんな。今日中に追いつくつもりだったんだな」
うんうんと、頷きながら、兵士も勝手に話を作ってくれる。
この人達、警戒しているのが魔物だからなのか、私達に対しては全く無防備だった。
色々軽い兵士って良くないんじゃないかと思うけど、しっかり情報もくれるあたり、私達にはありがたい存在だ。
それに、私達を村長に紹介までしてくれるという気の利きよう。
素晴らしすぎるよね。
でも、私はあなた達の今後が心配です。
人が良すぎて、きっと昇進できないんだろうな。
なんて、内心同情していた時だった。鋭い質問を投げられたのは。
「どんな芸をするんだ?」
話を振られて、頭が真っ白になる。
芸なんて持っているわけがない。
答えに窮した私の隣で少年が気軽に口を開く。
「このくらいの玉を足で操るんだ。うーん……説明は難しいな。見せようか?」
意味がわからなくて怪訝な表情を浮かべた兵士へ、少年が気軽に提案した。
意味が分からないのは私もだ。
思わず彼の腕を掴んでしまう。
そしたら、私の混乱など御構いなしで、無茶振りされた。
「フリースタイルフットボールって知ってる? 曲ないとさみしいから、何か歌ってよ」
歌うって、人前で?!
さらに混乱する私を尻目に、少年は荷物からサッカーボールを取り出した。
軽く足先で転がしてから、膝を経由して、またボールは地面へ。
「ほら、適当に歌って。合わせるからさ」
急かされて、とりあえず思いついた曲を口に乗せた。
それは、卒業入学シーズンになると取りざたされたり、スポーツの国際試合でよく聞く、日本人ならまず知っているはずの曲だ。
アカペラでも、この歌ならそう音程が外れないはず。
聞こえてきた歌にずっこけそうになっていた少年を横目で見ながら、言われた通りに最後まで歌う。
途中から、ゆっくりな動作で、少年がボールを足で操り始めた。
足先でリフティングしていると思ったら、頭、肩、胸を使ってボールをコントロールする。
手以外の全身でボールを支配している様は、紐がくっついているのではないかと思ってしまうぐらい自然で滑らかな動きだった。
「……こーけーのー、むうすうまあぁでー」
余韻を残していると、テンポアップでもう三回続けてと指示が入る。
こうなりゃ、ヤケである。
ノリの良いエイトビート調にアレンジして、更に君が代を歌った。
それで良かったらしい。
緩慢だった少年の動きがより速いものになる。
後ろから前に、右から左に、下から上に、自由自在にボールが少年の周囲を動き回る。
私の歌が終わる瞬間、ボールが一際高く上がり、落ちてきたそれを少年が足元でピタリと止めた。
彼のお辞儀と共に、周囲からいくつもの拍手が鳴った。
拍手しているのは兵士だけではない。
いつの間にか、村人が集まってきていた。
「坊主、すごいな。旅芸人か」
「一座とはぐれて、マーダレーに行く途中なんです。姉共々、一晩、この村でお世話になります」
如才なく答える少年。
兵士の対応でも思ったけど、この世界での旅芸人の地位は低くないらしい。
娯楽が少ないからかな。
今も、何人もの人が、宿の提供を申し出てくれた。
気がつくと、今夜の宿が決まっていた。