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▶︎ 王都脱出 1 (東晃誠)

何故王都の港が壊滅的な被害に遭ったのか。

その一端です。

長くなったので、高校生男子その1の晃誠君の王都脱出編2話に分けました。

「晃誠先輩! 先輩達、反逆罪で殺されちゃう!」


聞こえてきたのは後輩の柿谷の声。


次の瞬間、奴の体当たりを食らった気がしたが、何の衝撃もなく、柿谷自身もどこにもいなかった。


豆鉄砲を食らわされた鳩のような心境である。


しかし、今聞こえてきた言葉は冗談で済ませるような内容ではなかった。


反逆罪?

何に対しての?


思考は、目の前の赤毛の鑑定師によって遮られた。


「ど、ど、どど、どうなってるんですか?!」


驚愕しながら俺の体をペタペタ触り出す。


て、いきなり男に身体中撫で回される方が驚くわ!


コソコソ隠れてないで、言いたいことは直接口にしてくれと告げたばかりではあるが、これは予想外である。


「どうもなってないから、触りまくるな! この鳥肌どうしてくれるんだ!」


力尽くで押し退けて睨んだが、この赤毛の鑑定師には話が通じていないらしく、また俺の体を触ろうとする。


「うおおお、だ、か、ら、やめろと行ってるだろう」


しかし、やはり聞く耳を持たない鑑定師に押し倒される。


いや、ちょっと待て。

この体格差だぞ。

何で、俺ってば力で負けてんの?


「何で突然魔法のスキルなんて」


ブツブツ呟いているが、そんなことはどうでも良い。

俺は男に押し倒される趣味はないんだよ。


「なあ、あんた」


奴の前髪をかきあげると、いつもは隠れている左目が露わになった、

綺麗なエメラルドグリーンの瞳が驚いて俺を見る。


やっと声が届くようだ。


「あんた、いわゆる同性愛好家か? 俺は女の子が好きなんだけど」


呆れたように尋ねると、赤毛の鑑定師は白い肌を真っ赤にして慌てて飛び退いた。


「し、し、失礼いたしました! びっくりしてつい」


びっくりする度に押し倒していては世話ないぞ。

てか、何にびっくりしたんだ?

俺は柿谷の声に驚いたが、あんたはそうじゃないだろう?


「何に驚いたんだ?」


俺の声に、彼はびくりと肩を震わせた。


「さっきも言っただろ。聞きたいことは口にしてくんなきゃ、分からないんだよ。残念ながら、俺は心を読むなんて器用なことできないしさあ」


先程の勢いなどなかったかのように小さくなってオドオドしている鑑定師。


「誰も、とって食おうなんて思ってないから。そんなに怯えるなよ」


溜息と共に吐き出す。


大体、俺よりも強いんだから、怯える必要なんてないじゃないか。


「ああ!もう!」


ガシガシと頭を掻き毟ると声を上げ、彼の手を取って俺は歩き出した。


されるがまま引きずられてついて来る鑑定師を、自分が割り当てられた部屋へと押し込んで、ベッドの上にに放り投げる。

あんなに力強いくせに、彼の体はびっくりするぐらい軽かった。


彼の目は前髪に隠されて見えないが、キョトンとしているか、目を見開いているかのどちらかだと思う。


俺は上半身を覆う服と靴を脱ぎ捨てると、奴の待つベッドに乗り上げた。


ふかふかのベッドはぎしりとも音を鳴らさなかった。


「ほら、なんか調べたかったんだろう? 交換条件だ。好きなだけ触らせてやるから、怯えてないで質問に答えろよ」


上向きに大の字に寝転がって天井を見る。


や、結構、これって恥ずかしいよな。


ちらりと一瞥すると、赤毛の鑑定師は耳まで真っ赤になっている。


「す、す、すみません、すみません、すみません」

「謝られたいわけじゃないんだけど。俺さ、のんびりしてる時間がそんなにない気がするんだよな。だから、さっさとして欲しいんだけど。ほら、さわっていいからさ。さっき、何に驚いたのか教えてよ」


彼の謝罪を遮り、真面目な声で言う。


鑑定師は口を閉じ、じっと俺を見つめた。

ような気がした。

前髪が邪魔で、奴の目の動きが分からないんだよ。


「あの、スキルがあるんです」


躊躇いながら声を発する鑑定師。

俺は首を傾げた。

俺と幸野さんにはスキルがないと大勢の前で断言したのはこいつである。


「ないって言ってたよな?」


思わず出た言葉に、赤毛がびくりと揺れた。


あ、やばい。

またオドオドして喋らなくなるかも。


慌てて奴の腕を掴んで上半身を起こした。


「ないって言ってたスキルがあったから、驚いたんだな? じゃあ、毎日俺の後をつけて物言いたげにしていたのは?」


鑑定師はビクビクしながらも口を開く。


「あなたにスキルがないのではなくて、スキルが見える場所に括弧があって……そんなの初めてで、その、意味がわからなかったから。でも、今はその括弧の所に魔法のスキルがあって……」


括弧?

いや、俺もあんたの言ってることが理解できないんだけども。


今はスキルが見えると言うことは、俺には魔法が使えるのか?


「なあ、あんた、この事、姫様に言うつもりか?」

「あの、その、いつ消えるかわからないですし、括弧はまだあるので、報告するにしても説明できないままでは報告はできないから……」


これは僥倖と見るべきか。


「なあ、反逆罪って死罪?」


びくりと鑑定師が震えた。


「王族への反逆罪は王の裁定次第ではありますが、死罪となる事もあります。私は決して隠し立てしようとした訳では、そんな、反逆罪なんて……」


震える声がどんどん小さくなっていく。


いや、あんたのことじゃないけど。


恐らく、俺と幸野さんが邪魔になったのではないかと思う。

外に出してくれれば自分たちで何とか生きていく道もあるってのに、罪を押し付けて始末してしまおうなんて短絡的すぎる。

反逆罪なんて真っ平ごめんだ。


王宮から逃げ出すなら早い方がいい。


そのために必要なことは。


俺は掴んでいた鑑定師の手を自分の胸に押し付け、彼に顔を近づける。

鑑定師の赤毛の隙間から、困惑の色を浮かべるエメラルドグリーンが見えた。


「あんたさ、俺のストーカーをしてたんだ、暇だろ? 好きに体を調べてもらって構わない。代わりに魔法の使い方を教えてくれ」


さらに強く彼の手を押し付ける。


鑑定師は怯えながら、耳まで真っ赤にした頭をしばらく必死に振り続けていた。


怯えた赤毛の鑑定師を臨時の師匠にして、魔法の基礎を学ぶことにした俺は、脱ぐ必要のなかった服を着て、そのまま彼の講義を受けることになった。


剣と魔法の世界に来たのだから、魔法を使うことには憧れがあるよな。

魔法の素養がないと言われたからと、早々に諦められるものではない。

当然ながら図書室の常連だった俺は、魔法の基礎の学術書なども読んでいた。

いわゆる基礎の座学は済んでいる状態だったりする。


欲しいのは実践的に教えてくれる師匠だった。


ボソボソと説明を受け、実際に魔法で明かりを灯すところを見せてもらう。


呪文の詠唱は魔力の指針。

現象は術者の想像力。

原動力は体内に蓄積された魔力。

一番大切なのは、発動後のイメージを持続しながら魔力を行使する事と言われた。


体を巡る魔力は感じられないけれど、俺のにある力は何となく感じたから、試しに使ってみる。

自分の中にある魔法のイメージって、やっぱゲームなんだよな。


「ファイアアロー!」

「*******」


唱えてみたら、慌てて赤毛の鑑定師が被せるように魔法を唱えた。


なんと言ったのかは聞き取れなかった。

俺の前に現れかけた炎は、瞬時に姿を消す。


えーと?

これは、俺の魔法を消したってことかな?


「ファイアウォール!」

「*******」

「ファイアボー」

「*******! 何で失敗すれば被害の大きくなるファイア系ばっかりなんですか!」

「え?だって想像しやすいから」


元気に俺を非難する赤毛のシャイな師匠に返しながら、内心では感心していた。


なるほどなあ。

魔法発動時に反対属性の魔法をぶつける事によって、相手の魔法を消すのか。


集まった力が霧散してるような気がするから、魔法の発動をキャンセルしているのではなく、文字どうり消している感じだ。


理屈は分かっても、自分ができるかと問われればできるとは思えない。

少しでもぶつけるタイミングが異なれば、どちらかの魔法は発動してしまうのだ。


「なんで初っ端から攻撃的な大技を出してくるんですか。呪文も教えてないし、知らない言語の詠唱だし。魔力量だって王弟殿下レベルじゃないか。異世界人ってのは化け物のことなのか」


ブツブツボヤいているのは、あのオドオドしていた赤毛の鑑定師だ。


「なあ、普通に話せてるじゃん」


指摘すると、彼は真っ赤になった。

赤面症らしい。

そして、突然口ごもり始める。

二重人格でもあるらしい。


「俺達さ味方がいないから、嫌々でもこうして付き合ってくれるのは助かる」


そう口にすると、鑑定師はバツが悪そうに俯いた。


「その原因の一端は、私にもありますし、その、ごめんなさい」

「何であんたが謝んの? お仕事しただけでしょ」

「でも、王宮のあなた方に対する対応は良くないと思うし」


まあ、一時代に一人でも召喚できれば良い方らしい女神のギフトが、突然七人も現れたのだ。

その中の二人が何の力もなく、ギフトを持ってないとなれば、王宮としても前例がなさすぎて、どう対処して良いものなのか判断を迷っていてもおかしくない。


迷った末に反逆罪て死刑というのはおかしいけどな。


まあ、実際に俺にそのことを告げたはずの柿谷に会って、詳しいことを聞き出さないと。


不意に夕刻を告げる鐘が鳴る。


もう、そんな時間か。


「と、と、とにかくです。目立たないようにというのが、ご希望なら、トーチの魔法を瞬時に使える練習をしてください。魔術の基本です」

「始めにあんたが見せてくれたやつだよな。わかった。練習する。明日も教えてくれるか?」


彼は溜息をつく。

隠れている目を俺に向けたような気がした。


「し、仕方がありません。そそその代わり、あなたの身体を調べさせてくれるのでしょう?」


あれ?

なに、この微妙なツンデレ。


「おう、約束だからな」


俺はにかっと笑ってやった。







「晃誠君、楽しそうだよ」


クスリと幸野さんが笑う。

先日、赤羽根と喧嘩してから見なかった表情に嬉しくなってしまう。


彼女は俺を直視しない。

いつも視線は少し外れたままである。

最初の頃はそれが信用されていないようで悲しかったが、今は慣れてしまった。

信頼されていないようには感じないので、何か理由があるのだと思うことにした。


厨房からもらってきた夕食を食べ終えて、俺は彼女に今日の出来事を報告する。

毎日の日課だ。


もしもの時は王宮を出る。

その決心は二人ともとうに終えていた。

荷物もまとめてある。


「晃誠君。私、秘密にしていることがある」


彼女が告げてきたから、俺は頷いた。

中身まではわからないが、秘密があることは推測していた。


「私の目ね、この世界に来てから変なの。人をじっと見ると、その人についての説明文のような文字の羅列が見えてしまうんだ」


瞬間、頭に浮かんだのはあの赤毛の鑑定師だった。


彼もそんなことを言ってなかったか?


聞き流していたが、彼はスキルが文字で見えるような発言をしていた。


「それって、鑑定スキルと同じものかも。さっき話した鑑定師も他人のスキルが文字で見えるようなことを言ってた」

「鑑定のスキル? でも、私にはスキルがないんだよ?」

「んー、でもさあ、俺もスキルがなかったよ。でも今は、ほら」


トーチと小さく呟くと、掌の上に小さな明かりが灯る。


「すごい! 本当に魔法が使えるんだ?!」

「そう。だから、明日一緒に鑑定師に会おうよ。変な奴だけど、悪い奴じゃないから」


俺の誘いに、幸野さんは小さく頷いてくれた。


彼女と別れた後、柿谷の真意を確認するために奴の部屋を訪ねてみたが留守だった。

その件は翌日に持ち越すことにして、俺はさっさと就寝する。

明日の朝は早い時間から鑑定師と会う予定が入っていたからだ。


翌朝は、共に鑑定師へ会いに行く予定でいつもより早めに朝食を幸野さんの部屋へ届けた。

幸野さんの部屋の扉がノックされたのは、その朝食を食べて、一息ついている時だった。


「由香、入るよ」


そう告げて扉を開たのは、幸野さんの友人だった女の子だ。

テーブルを挟んで幸野さんの向かいに座っている俺に気づいて僅かに目を見張ったものの、彼女は意に介さず部屋へ入って来る。


「由香、春菜を怒らせたでしょ? 王子があなたを告発するために動いてる。今すぐ逃げて」


切羽詰まったような口調だった。

驚いて目を見張った幸野さんの口元が、しばらくすると次第に柔らかく綻んでいく。


「私は由香を助ける為に、今の待遇を捨てるようなリスクは取れない。忠告しかできなくてごめん」

「そんなことない。ありがとう、美咲ちゃん」


幸野さんが、僅かに俺の方へ視線を向けた。

俺はそれに答えるように頷く。


「美咲ちゃんが私のことを考えてくれるだけで嬉しい。晃誠君が助けてくれるから、私は大丈夫」


はっきりと、力強く彼女が口にする。

この世界に来て初めて聞いた彼女の前向きな声だと思った。


「東君なら、安心して任せられる。由香をお願いします」


幸野さんの友達が俺を見据え、ふわっと微笑む。

美人ではないし、美少女でもない。

どこにでもいるような、ちょっと可愛い女子高校生だ。

なのに、何故か一瞬その笑みに見惚れてしまう。


すぐに我に返って、取り繕うようにこれからの段取りを話し始めたけれど、俺って気の多いタイプだったっけと、思わず悩んでしまった。


幸野さんの友達も、先輩達も、悪い人ではないのだ。

だって俺達は、ついこの間まで平和な日本のただの高校生だったんだ。

ただ、今はちょっとばかり向いている方向が異なってるだけなのだ。

そう考えて、俺はまた柿谷を思い出した。

部屋を出る美咲さんの背を見送りながら、俺は顔を見せない後輩が気にかかっていた。








「そういう訳で、今すぐここを出ないといけないらしい。俺を調べさせてやるつもりだったが、そうも言ってられなくなった。すまんな」


部屋へ訪ねて来た律儀な赤毛の鑑定師に頭を下げた。

彼を巻き込むつもりはなかったから、黙って城を出るつもりだったが、訪ねてこられてはそういう訳にもいかない。


「ま、ま待ってください、昨日言ってた反逆罪って、あなたってことですか? そんな馬鹿な。いくら馬鹿王子だって言っても、道理が通ってないことを言い出すなんて」


おおっと?

今日はえらく饒舌だな。


「道理も何も、俺は聖女様を怒らせたからな」

「異世界からの訪問者である女神のギフトはあなたも同様でしょう」

「力の無い、換えの利く女神のギフトだからなあ」


予想外に鑑定師が怒りを露わにしているので、俺は場を和ませようと少しおちゃらけた口調で返す。


「愚かですよ。まあ、ここの王族が愚かなのは昔からですけどね」


ぼそりと低い声で吐き捨てる。

何か思い出したのか、更に怒りを募らせているぞこの人。


「分かりました。お二人の待遇は元々私の責任でもありますし、必ずお二人を王都から脱出させてみせます!」


決意新たに拳を握る赤毛の鑑定師。


いやいやいや。

鑑定師様、昨日と性格が変わっていませんか?

それとも本当に二重人格なのでしょうか。


やけに手伝う気満々の鑑定師に簡単な計画を説明しながら、内心では本当に信用して良いのか悩んでいた。


計画は簡単である。


毎日午前中、昼前に厨房へ食材が届く。

一週間調べた結果、この時刻はほぼ毎日同じだった。

この業者が帰る時、厨房周りの下働きで非番の者が一緒に城門を出ていく。

入る時には許可証が必要だが、出る時には必要ない。

入った者がちゃんと仕事をして出ていったかの確認はあるが、元々中にいる者の外出確認はしない。


俺達は戻って来るつもりがないから、許可証は必要ないし、下働きのフリをして出ていけば、誰に見咎められることもない。


そう話すと、赤毛の鑑定師は少し考えてから口を開いた。


「いえ、あなた方の黒髪や容貌は目立ちます。瞳の色はどうしようもないけど、髪は染めましょう」


大衆に埋もれてしまうモブだと思い込んでいたが、この世界では平べったい日本人顔は確かに逆に目立つかもしれない。


俺たち二人は言われるままに、鑑定師から貰ったアイテムで簡単に髪を栗色に染め、下働きに見えるように用意していた服を着た。


「本当は認識阻害の魔法なんかが使えると便利なんですけど。私はあまり得意ではなくて」

「充分してもらってます。ありがとうございます、鑑定師様」


幸野さんの感謝に鑑定師は照れて顔を赤くした。


「あ、あ、あの、その、鑑定師様っていうのは恥ずかしいので、名前で呼んでください。ルフスです」


ふむ。

俺も初めて名前を聞いたな。

そして、日本人の俺には発音しにくいぞ。


「えっと、ルーさん、その、認識阻害の魔法って難しい?」


鑑定師はルーさん?っとキョトンとした顔をして、何か言いたげにしていたが、問いかけには肯定を返してきた。


「物理的な現象を伴わない効果を持続させる魔法は大変難易度が高いです。力のある方が、お忍びのために開発した魔法なので、一般的ではないですし」

「簡単にできるものではないのか。それは残念だな」


まあ、便利な魔法が誰でも簡単に発動できる世界ってのも怖いけどな。

認識阻害なんて、それこそ後ろ暗い者の為にあるような魔法だもんなあ。


「じゃ、ありがとうな。時間もないし、俺達は行くから」


荷物を持って部屋を出ようとする俺達に、彼は慌ててついて来る。


「ま待ってください。あなた達、城下に下りたことないでしょう。二人だけでどこに行くつもりですか?」


下働きのフリをしながら廊下を歩く俺達の後を鑑定師様がついてきていては、目立たないようにしている俺達の努力が水の泡である。


「子供じゃないんだから、なんとかするさ。あんたがついて来る方が目立って仕方がない」

「晃誠君、そういう言い方は。ルーさんは心配してくれているんだよ」


じっと彼を見つめていた幸野さんが俺を窘める。

ルフスですと言い直す鑑定師はひとまず無視。


彼女が断言しているということは、彼が本当に俺たちの身を案じていることに間違いはないらしい。

幸野さんの瞳にはそういった文章が映ることがあるそうだ。


その能力のためだろう、今日会った瞬間から、彼女は鑑定師のことを信用していた。

どんな言葉が見えているのか聞いてみたいところである。


「悪い」


多分、俺はバツの悪い顔をしていたのだと思う。


「いえ。あなたの指摘は正しい」


ボソボソ言った後、建物から出ると彼はマントに付いているフードを深く被った。

あの印象的な赤毛が隠れるだけで、存在感が消える。


「時間がない。急ぎましょう。さっきから城内が騒がしい。あなた方の件以外にも、何かあったのかもしれません」


おや、饒舌に戻っている。

なるほど、ハキハキと発言するのは自分が会話の主導権を握っている時か。


頼りなさそうに見えた、中々に頼りになる鑑定師の促しに、俺達は庭側からの厨房への道を急いだのだった。



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