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只今バイト中 6

水棲モンスターさん達の襲撃の後、夕暮れ時にまた魔物達と遭遇した。


今度は水棲モンスターと飛行モンスターの連携だ。


一度目よりは数が少ないのと、少年とリアンさんが水棲モンスターに慣れたのもあってか、結構あっさり片付いたように見えた。


私?

もちろん飛行モンスターから逃げ回っていましたよ。

水棲モンスターと違って、動きが早いんだもの。

何度かピンチになりながら、その都度、少年とリアンさんの助けで無傷である。


先程と同じように水棲モンスターの死体は川へ流し、飛行モンスターは解体して必要部位を剥いだ。


全ての死体の処理が終わると、動くのも億劫になった私達に、甲板で夕飯が振る舞われた。


あと数時間で難所と言われる場所に近づくらしい。

難所に入り込んでしまうと抜け出ることは難しく、切り立った崖に激突して沈没の憂き目に会う。

航路の中でも細心の注意が必要な地点らしい。


その前に英気を養う必要があるようだ。


この航路って、定期航路だって言ってたじゃない?

定期的に行き来しているのに命懸けなのだ。

この世界で安全なんてものはないってことは理解したつもりだった。

それでも、定期的に往復しているなら危険はあまりないと、勝手に頭が判断してしまったのだ。


難所を抜けると流れも穏やかで、平野が続くから落ち着けるよと、誰かが安堵させるように言っていた。


それだって魔物に遭遇すれば、途端に危険地帯の出来上がりだ。


昨日までの平穏が懐かしい。


視線を彷徨わせると、カークさんが涼しい顔で参加しているのを見つけた。


文句の一つでも言いたいが、さっきの少年の予想とか思い出すと心中は複雑である。


結局はカークさんに頼ってる。

彼がいなければ右も左も分からない私達は路頭に迷ってたし、最終的には彼がなんとかしてくれるって、依存してる。

いつの間にか全幅の信頼を寄せている私がいる。

以前は懐疑的だった少年だって、今はカークさんを信頼している。

最後の所では絶対に裏切らないと思ってしまうのだ。


そんなことを考えながら、カークさんのイケメン顔を眺めた。


疲れてる素ぶりはないけど、船を守って魔法を使っていたのなら消耗はしてるはずだよね。


暗くなっていく周囲に反して、船の甲板に魔法の光が灯されていく。

燈は、魔物を刺激しないように足元をほのかに照らす程度のものだった。


「幻想的に見えるね」


呟いた私の隣で、少年が欠伸をした。


「ん……さすがに疲れた。眠い」

「だよね。中で寝てくる?」

「入っちゃうと魔物に襲われた時にすぐに対応できないから、ちょっと仮眠とっていい?」


そう言うと、少年はこてんと私の肩に頭をのせた。

すぐに健やかな寝息が耳に届く。


私は少年の頭を膝まで下ろして、柔らかな髪を指で梳いた。


眠ってる姿はあどけないんだけどなあ。


リアンさんの成長の振り幅が大きくて目立たないけれど、少年の身体もどんどん成長している。

昼に支えられた時に気付いたけれど、この世界に来た時は私の顎の辺りだった身長が、今は鼻の下ぐらいになっていた。

彼の宣言通り、すぐに追い越されそうだ。


髪を梳いていると、寄ってきて非難をするのはもちろんリアンさんだ。


「ケイト、ずるい!」


ああ、もう、仕方ないなあ。


私は隣の床をポンポンと叩いて座るように促した。


「誰かに固執してもらえるような、立派な人間じゃないよ、私って」


腰を下ろしたリアンさんが口を開いたと思ったら、何も言わずに口を閉じ、先程の少年と同じように肩に頭を預けてくる。


参った。

こっちも可愛いんだよ。


溜息をついて、私も、リアンさんに頭を預けた。







暗闇が広がる甲板。


やばっと、頭を上げる。


モンスターと闘ったのは私ではないのに、どうやら疲れて眠っていたらしい。


私が眠っちゃダメじゃん!


どのくらい眠っていたのだろう。

もう難所は通り過ぎたのかな。


太ももに重さを感じるので、少年はまだ眠っているのだろう。

右隣にいたはずのリアンさんの温もりは感じられなくて、彼が場所を移動したことを知る。


甲板の足元を淡く照らす魔法の燈が、先程とは異なり、不気味に思えたのは何故だろう。


目を覚ました時から違和感はあったのだ。


宵闇の中、人の気配はするのに、物音がしなかった。

船が川波を切って進む水音が静寂の中で現実感を齎している。


目を瞬いて、現状を把握しようと私は周囲を見渡した。


船員達がいなくなった訳ではない。

各々様々な格好で、眠っているのだ。


甲板の離れた所で誰かが動いているような音が聞こえた気がして、そちらに意識を向ける。

船首の方だろうか。


更に何かが聞こえたと思って耳をすました私は、思わず眉をひそめた。


女性の笑い声に聞こえたからだ。


何かがおかしい。

船に流れる空気が異様だった。


怖くなって、私はぐっすり眠る少年を強く揺する。


「何? また魔物きた?」


慌てたようにむくりと起きかけて、何かに気づいて少年が再び私の膝に頭を戻した。


「……歌が聴こえる」


そう呟いて、私の腰に腕を回した。


「え? ちょっと、恵人君? 何? 何で寝ちゃうのよ」


少年を乱暴に揺さぶると、また瞼を開いて顔を上げたが、やはり横になったままである。


「歌が……」

「何のことよ?」

「綺麗なお姉さんが……」

「だから、何のことなのよ?」


そして、またもやそのまま眠ってしまう。

BGMは誰だか知らないけれど、女の人のクスクス笑いだ。


「何なのよ、これ」


がっしり掴まれた腰を少年の腕から自由にしながら、耳障りな笑い声に舌打ちする。


よく考えたら、この船って、私以外の女の人が乗ってたっけ?

思い出してみても、女性の姿なんて一度も目にしていない。


三度目の正直とばかりに少年を起こそうとして、私はふともう一度周囲を見回した。


難所を通り抜けた安堵で全員が眠ってしまうなんてあり得ない。

通り過ぎる直前に、リアンさんやカークさんなら私達を起こすはずだ。

なら、船員たちがが話していた難所はまだ通り過ぎていないんだ。


視界に眠る船長と魔術師が映った瞬間、あることに思い当たって、私はゾッとした。


現在、この船を制御しているのは誰?

誰か一人でも運行に携わっているのだろうか。


怖くなった私は、現実から逃げるように少年を抱き締めた。



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