表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/93

召喚されました? 5

腕時計を見ると、再出発から三十分経っていた。


簡易で作ってもらったクッションはなかなか性能が良く、私のお尻は守られている。


自転車は早すぎもせず遅すぎもせず、適度な早さで道を駆け抜けて行く。


アスファルトではないけれど、踏み固められた土の道は草原よりも余程快適だった。

道は比較的幅が広くて、馬車がすれ違えるぐらいの広さかなと、少年が呟いていた。


私は西の空を見上げた。


地球と同じように、太陽が東から昇って西に沈むのであれば、暗くなるまでそう猶予はない。


左よりこちらの方向の方が建物に近いと断言したものの、本当にそれが正しかったのか不安になってくる。


私だけが不利益を被るならいいのだけど、少年と一蓮托生の今、何かがあると少年も一緒に巻き込まれてしまうというリスクがあるのだ。


何事も起きませんように。


信じてもいない何かに祈ってみた。


「この道、大きいのに、誰も見ない」


不意に少年が声を上げた。


「人の通らない所に大きな道って作らないよな?」


日本の場合、地元政治家の名誉欲のためとか、不況対策の公共事業の一環だとか、後は豪雪地帯は除雪のためのスペースが必要だから道幅が広かったりするけど、多分聞きたいのはそういうことじゃないんだよね。


「そうね。まだ一度も人に会ってない」


「それって、変じゃね?」


変かどうか判断するほど、この辺りの知識がないしなあ。

過疎化していて、人口が少なかったらすれ違う人も少ないだろうし。


そもそも、ここって本当に異世界なのかな?

道がアスファルトじゃないってことは、人が居ない所だからで、道が広いのはそれこそ豪雪地帯だからとかで、実は北海道の奥地とかの可能性とか。


北海道と思ったのは、四方にはっきりした山影が見えなかったからだ。


日本で山がないのどかな平原を見ようと思ったら、北海道へ行くしかない。

昔々は南関東でもそういう景色があったかもしれないけど、これだけ天気が良ければさすがに富士山が見えるし、ビル群が見えない訳がない。


確かに、一瞬で知らない場所に移動しているなんて、常識では考えられないんだけど、小説の題材って言うならタイムスリップとか、テレポートとかも考えられると思うんだよね。

異世界って発想が一番初めにくる辺り、年の差を感じるなあ。


まあ、どれも現実的ではないけれど。


「テンプレなら、この辺で何か起こるんだけど。説明なしの置いてきぼりを食らった時点で、テンプレからは外れてるしなあ」


「天ぷら? 食べたいの? 確かにお腹すいたよね」


「それこそ良くある勘違いでテンプレ化してるボケだな。テンプレート。小説とかである、良くある設定とか、展開の事。こういう場合、テンプレならモンスターに襲われてる商人を助けたり、こっちがモンスターに襲われてる所を冒険者に助けられたりかな。夜なら野盗という場合もあるかな」


「モ、モンスター?!」


運転しながら少年が、素っ頓狂な声を出した私を一瞥した。


「いないとする根拠がないしさ、可能性は考えておくべきじゃん?」


「考えるって言っても、そんなの出てきたらどうしようもないよ? ただのOLと中学生じゃ逃げるしかないからね! 戦っちゃダメだよ!」


慌てた私は、少年の背中に声を荒げてしまう。


「あはは、そんな無謀な事しないよ。おねえさん乗せてるし、自転車で逃げるって」


そのセリフに一旦は安堵したものの、彼には無謀な運転をしたという前科があるから安心はできないと思い直した。


ギュって強く少年の腰を抱き締める。


すると、自転車がピタリと停止して彼は荷台を振り返った。

約束は守ってくれるらしい。

その行為にホッとした。


私の様子に、少年は試された事を悟ったらしい。

でも、気を悪くするでもなく、自転車を再出発させた。できた中学生である。


またしばらく道なりに進んでいると、道から離れた小さな林の端、疎らな木の間に家らしきものが何棟か建っているのが見えた。


再度、運転している少年の腰に抱き着く。

先ほどと同様に、自転車が止まった。


私は少年が何かを言う前に自転車の荷台から降り、建物が見えた方角へ目をやる。

うん。やっぱりそうだと思う。


「あそこ、いくつか屋根みたいなの見えない?」


指をさした方向へ、少年も目を向けた。


「本当だ。柵みたいなのも見える。人が居そう」


「あそこに行ってみるべきよね」


「もうすぐ夜になりそうだし、行こうか」


方向を変えた自転車の荷台に乗ろうとして躊躇った私に、少年が怪訝な目を向ける。


「道がなくなるのよね。また跳ねるね。あまり距離がなさそうだし、歩いて行っちゃダメかな」


困った事に、しっかりトラウマになってしまっていたりします。


少しばかり考えて、少年は首肯した。


「自転車で行くのはまずいかもな。ちょっと遠いかもしれないけど、歩いて行こう。あそこにある木の間の茂みなら見失わないかな。自転車、隠してくる」


彼が指定した木立は確かに特徴があって、後日場所を特定しやすそうだ。


行って帰ってくるのに数分かかりそうだったので、恥ずかしながらその間に、草むらで生理現象を済ましておいた。


さすがに何時間もトイレに行かないなんて無理だし、カッコなんかより体調優先だ。

人間、二十五歳にもなると図太くなるものである。


戻ってきた少年にもトイレ休憩を提案してみた。

彼も格好を気にするタチではないらしい。

ま、野外での用足しは、男の子の方がハードルは低いと思うけどね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ