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▶︎ 召喚されました 4 (男子高校生その一)

異世界に召喚されました。


そんなこと言う日が来るとは思ってもいなかった。

当たり前だよな。


平凡な高校生で顔もルックスも十人並みで、成績が悪いわけじゃないけど特別頭がいいわけじゃなくて、運動が苦手なわけではないけれどレギュラーになるには少し何かが足りない。

かといって、いわゆる弱者が異世界に行ったら俺つえーで無双しました系のハーレム主人公ができるほど不運でもいじめられてもいない。


ま、主役張るほどのアクの強さがない俺は、その辺にいるモブなんだろう。

異世界にいてもそう思った。


理由は色々あるけど、先輩や後輩が不思議な力を使っていると言うのに、俺にはそんな力が一つもないのもモブらしくって涙が出るね。

ここまで、モブの中のモブだと、いっそ、極めてやろうかとまで考えてしまうよ。


次々に能力を手に入れる部活の先輩や後輩、同級生の女子を眺めながらそんな事で思考を紛らわせていた。

異世界召喚なんて、何かの冗談だとでも思わなきゃやっていけない。


ハズレの俺なんか、特にそうだ。


王宮で客人として世話になっている俺達だが、明らかに俺と他の奴らへの対応が異なると感じる瞬間がある。

だからこそ、ちやほやされている彼らでは気づかない事に気づくのかもしれない。


何かが変だと思い当たったのは数日経った頃だ。


常に周囲に人がいて、一人になる事がない。

歓待されているようでいて、俺達は監視され王宮に軟禁されているようだった。


その中で、彼女は他の奴らとは違った。


王宮に連れてこられた初日、現実味のない状況に流される俺達の中で、パニックになって騒ぐ彼女は俺には嫌にリアルに感じた。

そんな彼女を、彼女の友人や俺の部活の先輩と後輩は呆れたように見ていた。


部屋に閉じこもって出てこない彼女に日々の食事を届けていたのは、調子に乗っているあいつらと俺は違うと誰かに認めてもらいたかったのかもしれない。


俺には、王宮の姫様や王子の行為に疑問を感じない彼らが、薄気味悪いもののように思えたのだ。


彼らとは違い、彼女は日本の自分の家族を大事にしていて、日常に戻りたいと切に願っていた。

だから帰ることを求める。

居心地の良さを異世界に求めない。

日本の現実から逃げない強さがあるのだとも思った。


俺は、彼女を日本に帰してあげたい。


帰るための情報を集めるべきだと動き出した頃、一人の女子に見られているのに気づいた。

彼女、由香さんの友達の赤羽根春菜あかばねはるなさんだ。


彼女はいち早く能力を自覚し、その希少性から、王宮では最も尊重されている存在だった。

それ故に、最近は俺達に対する言動が少しばかり傲慢になっていた。


始め、俺を見る視線の冷たさに、嫌われていると思った。

次第に険を含むようになっていく眼差しと、口調の刺々しさに、恨まれているのかと錯覚しそうな時がある。

そして、そんな赤羽根さんの態度が周囲にも伝染していくようだった。


元々、共に召喚された部活仲間はそれほど仲がいいわけではない。

あの日は引退した三年が部室に顔を出し、まだ着替えてなかった二年の俺と一年の柿谷を荷物持ちに選んで連れ出しただけなのだ。

レギュラーでなかった俺は、レギュラーだった三年の先輩達とはほとんど接点がなかった。

先輩達だって、俺の事は名前すら分からないのではないだろうか。


柿谷は俺に気を使いながらも、先輩達へのよいしょを忘れない。

女の子達とも上手くやってるようだし、逞しい奴だなと羨ましくなる。


あの二人がいなければ、あの時間にあの場所にいることもなく、今頃は楽しくサッカーしてたのにな。


今更言っても詮無いことではある。

俺は大きく溜息をついて、遠目に見ていた先輩達と赤羽根さんを視界から外した。


同じ城内に寝泊まりしているのだから、お互いにこうして目に入ることは多い。

でも、意識していればできるだけ顔を合わさないようにすることは容易かった。

それぐらい城は広かったし、一日を幸野由果ゆきのゆかさんの部屋や図書室で過ごす俺と、王族や騎士達と過ごす彼らでは行動範囲が違いすぎて、出会うことはほとんどなかった。


再び図書室へ向かおうと顔を上げ、ふと、自分が見られていることに気づいた。

自分に付いている護衛や監視とは異なった視線だ。


視線の主を認めて、俺は軽く頭を下げた。


歳は少し上だろうか。

でも、日本人は幼く見えるみたいだから、同じ歳ぐらいなのかもしれない。


178センチメートルの俺が頭のてっぺんを見ることができるのだから、背の高い人が多いこの世界では明らかに低い。


短髪だが、癖っ毛の赤毛で目は隠され、辛うじて肌の白いことがわかるぐらいだ。

目が隠れているためか、見事なストロベリーブロンドの印象だけが強く残る。


どこかオドオドした、小動物を思わせる小柄な男だった。


彼は、この世界に来た俺達のギフトを鑑定した人だ。


俺と幸野さんは、この男にスキルがないと言われて、今の待遇になったんだよな。

スキルがない人間には用がないとばかりの、いわゆる放置状態である。


彼は昨日も同じ場所から窺うようにこちらを見ていた。

ただ見ているだけだ。


話したいことがあれば話しかけてくればいいのに。

若干の苛立ちを感じながら、もう一度お辞儀して俺はその場を後にした。


図書室で、仲良くなった司書の人に相談しながら、いくつかの本を推薦してもらう。


まず気になったのは、先程の男だ。


スキルの方から調べていくと、これはこれで面白かった。


日本語のゲーム用語で言うところのスキルは、この世界では生まれた時に授かる女神の加護だと言われているらしい。

これは魔法とは異なる物で、様々な効果があるらしい。

大抵は、加護は一人につき一つ。

時折、二つ以上の加護を持って生まれてくる赤子がいるらしい。


様々な加護の中でも、いくつか重要とされる加護がある。

鑑定はその内の一つだ。

有用性と希少性から鑑定持ちは国家の重要人物になるらしい。


そりゃそうか。

鑑定のスキルで見ないと、誰がどんな加護を持っているかなんてわかりようがない。


「うーん? 偉いさんには見えないよなあ」


俺の呟きは司書さんの耳に入ったらしい。


「どなたの話ですか?」


少しばかり好奇心を覗かせた声音で尋ねてきた。

話を振ってもらえて、ちょうど良かったのかもしれない。


「名前は知らないんだけど、赤毛のくりくり天然パーマの人がいるじゃないですか」


それだけでちゃんと伝わったらしく、司書さんは大きく頷いた。


「鑑定師様ですね」

「うん、多分それ。俺達が姫様にここに連れてきてもらった日に会ったきりなんだけど、どんな人?」


俺の漠然とした質問に、司書さんは考えながら首を傾げている。


「不思議な方ですね。鑑定師というのは特別待遇で、踏ん反り返ってるものらしいですが、あの方は私が王宮に来た時から、今と変わらず人前に出るのを好まないみたいです。鑑定も、王宮を通してでないと受けないような話を聞いた事があります」

「やっぱ、そうだよな。この本に書いている通りなら、もっと威張ってるもんだと思ったのに、あの人、全然そんな感じないからさあ。まあ、どこにでも変わり種はいるんだろうけど」

「そういえば、私が王宮に来た頃に王族と何か揉めたみたいな話がありましたな。ま、なにぶん当時は私もまだ見習いのひよっこで、自分のことでいっぱいの未熟者でしたので、王宮の噂話は聞き流していてほとんど覚えてないですが」

「ふーん」


先程の赤毛の鑑定師が脳裏に浮かんだ。


「あれ? 司書さん、つかぬ事を伺いますが、お幾つですか?」

「私ですか? 今年四十になります」

「……」


まじか。

未熟なひよっこって言うぐらいだから、十年以上は前の話だよな。

てことは、あの鑑定師が俺と同じぐらいの年齢な訳がない。


「もしかしてなんですけど、この世界の人間って、寿命が二百歳だとか三百歳だとかだったりします?」


俺の質問に、司書さんは不思議そうな面持ちを、返してきた。


「そんなこと、ある訳ないじゃないですか。人間は百年以上も生きれば奇跡でしょうに。今の人族の寿命は七十歳ぐらいですかね」


あはは、そうですよね。

と、反射的に返してから、あれ?と、気づく。


「人族の寿命は、ですか。例えば、獣人族なんかがいるとかは……」

「ああ、ライカンスロープやセリアンスロープはそうですよね。種族によって異なるとは言いますが、人族よりも長寿ですから。そういえば、我が国では珍しいですが、件の鑑定士様もセリアンスロープですよ」


ちょっと待て。

知らない単語がさらりと出てきたぞ。


獣人族と聞いて帰ってきたのが「ライカンスロープ」と「セリアンスロープ」の単語だ。

否定がなかったから、俺が想像する獣人と同じような種族がいるのは確定だ。

しかし、二つの違いはなんだ?


「すみません。もう一冊探してもらっても良いですか? 獣人族について記載されている本を」


俺の注文に、司書さんは快諾してくれた。

良い人である。


最近、王宮での俺と幸野さんに対する雰囲気がどんどん悪くなっていると感じる中で、こういう親切は有り難かった。


俺は圧倒的にこの世界のことを知らない。

今は知識が必要な時期だと思う。


当初は帰る方法を探していたのだ。

しかし、この世界の人の手助けがなくては、調べるのも難しい。


姫様にも当たってみたが、快い返答はなかった。

それよりも、日本に帰りたがっている俺と幸野さんが問題児であるかのような対応だった。


王宮は頼れない。

それどころか、敵対されてしまう可能性を含んでいると感じた。


この先何かが起こって王宮にいられなくなっても、この世界の仕組みを理解していれば生きていくこと、日本に帰ることは可能かもしれない。


そう考えて、今まで生きてきた中でも一番本を読み、勉強している自分がいる。


何が起こっても、俺だけは幸野さんの味方でいてあげたいと思うから。


何故、当たって欲しくない予感に限って的中してしまうのか。

俺と幸野さん、そして、例の鑑定師が王都の混乱に乗じて王宮を抜け出したのは、それから数日後の事であった。



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