ランクアップしました 3
「それって、ギフトってやつ?」
「ギフト? 何それ? だって、ヒナ達は女神の加護を持ってるんだろ?」
首を傾げる少年に、同じように首を傾げて質問を返す美少女な青年。
「加護を与える能力? まあ、言われてみると、そうだな」
カークさんも顎に手を当てて首を傾げている。
「そんな風に感じただけだけどね。加護持ちの能力なんて、千差万別だから、鑑定持ちじゃないと詳しくは分からないけどさ。時々ヒナって、何かしてるよね?」
と、問われたものの、リアンさんの言ってることを一番理解できてないのは私のような気がする。
だって、確信を持って何かしてると指摘されても、私自身には心当たりがないのだから。
私達は近くにあった食堂で昼食を取りながら、みんなで首を傾げるという、奇妙な状態にあった。
何のことを話してるの?
リアンさんだけではなく、カークさんも納得してるっぽいんだけど。
ギフトの能力ってやつ?
力なんて全然使った覚えがないんですけど。
とりあえず笑みでごまかしながら考える。
話の流れから、バッグからブラッ○サ○ダーとのど飴を取り出してることを指摘されているわけではないよね。
でも、それ以外何もしてないよ?!
私の様子にリアンさんが腑に落ちたように口を開いた。
「そっか、無意識なんだ? 僕、そういうの……何かの力が働いている感じみたいな、変な気配に敏感だから。ほら、猫だしね」
猫と何が関係あるんだろうか。
自己完結中の猫耳美少女青年をじっと見てしまう。
「猫って第六感とか、不思議な力があるとか言われるな。猫の獣人もそういう部分があるってことか」
こちらも、何故か納得といった様子の少年。
異世界の猫と地球の猫が全く同じかは不明だけど、猫と訳されているということは同じと考えて良いのだろう。
でも、猫ならありかで納得するあたり、論理的ではないよなあ。
「それだけでもないけど。旅の途中、あれだけ魔物に襲われてたっていうのに、ケイトや僕が無傷っていうのは経験上、変だとも思ってたんだ。ヒナが加護の力で補助していたんだと納得してた」
リアンさんの説明に、私同様少年もピンとくるものがなかったようだった。
反対にカークさんはリアンさんの言葉を支持する。
「五体満足で無事にこの街に辿り着いたのは嬢ちゃんのお陰だってことだな。つまり、Cランク冒険者については正当な評価だって事だ」
それ、絶対におかしい。
人並外れたカークさんというSランク冒険者と、獣人族で実力はAランクでも充分通じるリアンさんというBランク冒険者、それに女神のギフトというものらしい子供離れした能力の恵人君。
この三人がいたからこそであって、本当に、真剣に、冗談なしで、何もしていない私のお陰であるはずがないのだ。
当然のことながら、そんな事百も承知の彼等には、私の主張なんてあっさりと無視される。
ううう……。
頭を抱えてテーブルに突っ伏した私にかけられる声。
「リアンの言う通り、無意識ならしてないとも言えないんじゃないかな」
「むっ。恵人君までそんなこと言うのね」
思わず、上目遣いに睨んでしまった。
「ここでうだうだ言っててもはっきりした事は分からないんだろ? なら、とりあえず、お昼ご飯を美味しく食べてから考えようよ」
私の悪態など意に介した様子もなく、にっこり笑って少年が取り分けた皿を私に差し出した。
その可愛い笑顔に毒気を抜かれてしまい、私は差し出された皿を受け取り大人しくフォークを肉に突き刺した。
食欲を優先させてしまうこの身の悲しさよ。
諦めた態で口に放り込んだ肉をもぐもぐ噛んでいると、カークさんが苦笑と共に口を開いた。
「はっきりさせたいなら、あれだ、リアンが言った通り鑑定持ちに見てもらうのが一番だ」
「鑑定?」
少年の目が輝いた。
「何? 人に鑑定とか、普通にできんの? ステータスとか、スキルとか、わかっちゃうわけ?」
あ、なるほど。
物だけではなく、人に対しても鑑定できれば便利だ。
「ステータスってのはわからんが、鑑定持ちは加護持ちの能力を視る事ができるからな。嬢ちゃんだけでなく、ケイトの能力も正確に分かるかもな。ただ……」
カークさんはガシガシと金色の頭を掻いた。
彼の言いたい事を察して、リアンさんが言葉を引き継ぐ。
「鑑定の加護は希少で有用なんだよな。だから、公の機関に所属している場合は鑑定師の情報公開することになっているし、依頼があれば貴賎関係なく鑑定の能力で視なければならない。建前上は。確か、今この国は王宮に一人いるんだけだっけ? ギルド所属の鑑定師はいないんだよな?」
「て、ことは、王都に行くってこと?」
「そういうことになるのか」
カークさんの歯切れが悪い。
「何か問題でも?」
リアンさんが不思議そうに尋ねた。
彼でなくとも疑問に感じている。
「鑑定士が視える結果は、その人物の能力によるらしいから、正確さは分からんぞ」
「そこは視てもらわないとなんとも言えないな。それとも、あんたはその鑑定士に視てもらったことがあるのかな?」
「二十五年前はへっぽこだった。今は知らん。前は王宮にいて、忙しくしていたのは確かだ」
何かあったのかな?
目の合った少年が、口の動きだけで伝えてきた。
確かに、何かあったんだろうな。
でも、この流れでは、カークさんの事情は無視して王都へ向かう事になりそうだ。
私達には都合が良い。
頷き、私は更に唇の動きだけで付け加えた。
王都に行こう。
そして、彼らを探そう。
と……。
その流れで遺跡のことを忘れてくれれば、尚、良し!です。