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砦にて 4

塔の屋上まで来ると風が冷たい。

やっぱり、薄手の上着が欲しいな。


そんな事を考えながら、少年達の後をついて行く。

砦見学ツアー中である。


砦に厄介になってから二晩が過ぎた。

カークさんはまだ戻らない。


「竜の爪跡? そういえば、グラーツさんがそんな事言ってたね。意味がわからなくて流したけど」


説明の中に出てきた意味のわからない比喩表現に、疑問を呈したのは私である。


あの時は竜の住処とも口にしていた。

竜ってのは飛竜を指すんだと思っていたんだけど。


「この辺りが呪われた大地というのは有名な話だよ。あんた達はどんな田舎国から出てきたんだ?」


生意気そうな少年兵にそう言われた。

昨日、食堂で少年と一緒にいた若い兵士だ。


やっぱり必要なのは同世代の友人な訳よね。

なんだか仲良さそげにしている少年二人を見てると、微笑ましい。


「昔、火口に火竜の一族が住んでいたんだ。今は荒地になっている山の麓には大きな街があって、竜と交流していたらしい。ある日人間の傲慢が火竜の長を怒らせ、火竜達によって街は一日で滅ぼされた。その時の竜の呪いが大地を蝕み、生物の育たない不毛の大地となった。って言われてる。その呪われた地が竜の爪跡と呼ばれてる」

いわゆる伝説の類らしい。


この辺りの山と麓が荒地となっている理由ということだろう。

地球なら昔の人がこじつけて伝承として残した物語と考えるのだけれど、ここは科学的な法則が当てはまらない異世界である。

事実であったと考えるべきなのかもしれない。


森林限界でもないのに草木が育たない理由は呪いな訳だ。

ファンタジーだなあ。


「火竜ってのは魔物じゃないんだ?」

「あれ? そういえばそうだな」

少年の疑問に、同じように首を傾げる少年兵。


「火竜族はドラゴニュートだったと言われている」


同じく話を聞いていたリアンさんが口を挟んだ。

聞き覚えのある単語だ。


「そういえばカークさんが前に説明してくれてたね」

「ドラゴニュートはライカンスロープの一種だという研究者もいるぐらいだからね。獣化できたとしてもおかしくないと思うよ。まあ、僕にすれば、ドラゴニュートは僕達とは全く異なった存在なんだけどね」

「ドラゴニュートなんて、作り話だろ?」


まるでドラゴニュートに会ったことでもあるかのようなリアンさんの言葉に、少年兵が反発した。

彼がやれやれといった様子で肩を竦める。


「物語だからね。竜の爪跡と呼ばれるようになった伝承の登場人物がドラゴニュートでもおかしくはないよね」


にっこり微笑む美少女な仕草に、少年兵は真っ赤になってそれ以上何も言わなかった。


お前あんなの相手に照れるなよ、とかなんとか少年が口にしてるけど、少年兵の反応の方が思春期の正常な姿だよね。


「そういう訳で、昔竜が住んでいたこともあって、この辺り一帯は竜の住処と言われてる。かつてはSランク討伐対象のドラゴンも住んでいたらしいけど、現在は飛竜の巣しかないな。しっかし、ホント多い」


気を取り直した少年兵がそう締めくくり、倒された飛竜の死体を塔の上から見下ろす。


そこには飛来した二体の飛竜。


倒した飛竜の死体ってどうしてるんだろう?

埋めるにしても大きすぎるしなあ。

首を傾げた私の疑問に少年兵が答えてくれる。


「初めはちゃんと燃やして処分してたんだ。でも、あのサイズだから、魔道士が大変でさ。今は面倒だから一時的に近くの谷に落としてる。隊長が落ち着いた頃に対処するって言ってた」


魔道士の魔法も無限ではない。MPの概念はないが、それに当たるものはあるらしく、魔力が体から取り出せなくなると魔法が発動しなくなるらしい。

だから、魔法で燃やすのも限界があるのだそうだ。


魔法ではなくて、物理的な火を使えば良いのでは?と、私なら思うんだけどな。


「そうか、ここには枯れ木がないから、燃やすための燃料が容易に手に入らないんだ」

「うん。そういう事。ここでは薪は貴重なんだよ」


あ、なるほど。

禿山だもんね。


少年二人の会話を聞きながら納得した。


そんな風にカークさんが帰って来るまで砦に厄介になりながら、時折やって来る飛竜の討伐を眺めて穏やかな日を過ごしていた三日目。


突然響く山鳴りに続いて、遠くで起こる天地を繋ぐ光の柱。

そして追従する大地を揺るがす咆哮。


リアンさんが魔法の光だと呟く。


どんな魔法かまでの言及はなかったけれど、あの大きな咆哮は威嚇よりも悲鳴に近かった。

つまりは、咆哮の主は攻撃らしきものを受けているようだった。


光の柱はすぐに消えて視界は静かになったものの、響く咆哮はそのままで、まだ現象が続いていることを遠く離れたこの場所へ知らせていた。


次いで砦に召集の声が響くと、少年兵が慌てて去って行く。

塔の上に取り残された私は光の消えた先を無言で眺めるしかできなかった。


何故か分からないけど、その中心にカークさんがいる気がした。


何かがあったんだ。

きっと、調査をしなければいけなくなった理由に遭遇したんだ。


カークさんが無事だと良いんだけど。


帰ってこなかったという冒険者の話を思い出して、私は胸の前でぎゅっと両手の拳を握った。


そんなのは嫌だ。

ちゃんと帰ってきて、あの豪快な笑い声を聞かせてくれなきゃダメだ。


「ひな?」


リアンさんが何かに気づいた様子で私の名を呼ぶ。

振り向くと、彼が大きな目を瞬いて私を凝視していた。


「あれ? ごめん、なんか変な感じがしたから。気のせいかな」


要領を得ない彼の言葉に、私と少年が互いに顔を見合わせた時だった。

また、天まで届く光の柱が現れた。

そして、先程より長い時間周辺を照らしていたと、不意に消える。

しばらくの後、光の消えた方向に飛竜よりも大きな何かが空に浮かび上がり、私達は絶句してしまった。


ドラゴン……と呟いたのは、やはりリアンさんだった。



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