獣人さんに出会いました 4
猫型セリアンスロープの青年、でも見かけは美少女のリアンさんが乗合馬車を降りた後もついてくることは、カークさんの予想の範疇だったようだ。
昨日出会ったセリアンスロープのリアンさんは町でも私から離れようとしない。
現在、明日以降の旅の用意のために町で買い物中なのだ。
因みに、この町周辺まではあのイケメン領主様の領地なんだって。
この後、私達はイケメン領主様の領地を抜け、南西に広がる森林地帯に入るのだけど、南に流れる川までは国王直轄地になっているのだそうだ。
ここの森林で切り出される木材は国の大事な収入源らしい。
旅の目的地は森を抜けた山岳地帯の国境近くにある砦だそうだ。
その山岳地帯の何処かに飛竜の巣があるのは冒険者なら誰でも知っている話なのだとか。
一方、少年の不機嫌はピークに達しようとしていた。
そこまで毛嫌いしなくてもいいのに。
外見だけなら、本当に可愛い子なんだよ。
ほら、猫耳の可愛い子が旅の仲間になるなんて、彼の好きそうな展開だよね?
性別に目を瞑れば、テンプレな展開だよね?
と、思うんだけど、口にしたら怒られそうなので黙ってることにした。
「大体、君はおねえさんの何なのさ。血縁でも恋人でもないだろ」
セリアンスロープの青年の指摘に、少年が言葉を失ったように見えた。
確かに他人だし、数日前までは会った事もなかったし、一緒に異世界に召喚されていなければ生涯交わる事もなかったはずだ。
今の私達の状況を説明する言葉なんかないよね。
少し考えて、私は言葉を紡いだ。
「運命共同体かな?」
少年が目を瞬かせ、青年が顔をしかめた。
「その言葉の響き、なんかヤだ。おねえさんがこんな奴と運命を共同しちゃダメだよ」
「リアンさん、おねえさんはやめて。私年下だから。日向だよ。ひ、な、た」
「んじゃ、ヒナね。ヒナも僕をリアンって呼んでね」
そう言って美少女な青年は、嬉しそうに私の周りをくるくる回る。
ヒナ、ヒナ、ヒナ、と連呼されるのはかなり恥ずかしい。
彼が私をヒナと呼ぶほど、隣の少年の態度が頑なになっていくんだけども。
「おねえさん……」
きゅっと少年に手を握られた。
「忘れてんじゃねーの? そいつ、おっさんだからな」
忘れてはいないけど、忘れそうになるのは事実だ。
実際、恵人君とリアンさんが並んでいると、可愛いカップルにしか見えないんだもの。
恵人君って、少し日本人離れした整った外見してるし、リアンさんは可愛らしい美少女だし、二人を並べて見ると眼福である。
カークさんだって、髭を剃って髪を整えたら超絶ハンサムになっちゃってるし、私を外せば見目麗しい集団なんだよね。
私だけが残念さんなわけで。
ポジション的には遠巻きに見てる群衆の中にいるのがベストだと思う。
ここは目立ちすぎる。
あっち行きたいな。
とか、思考に耽って現実から逃避していた私にかかる声。
「それは変な事考えてる顔だ」
少年の指摘はいつも的確だ。
「な、何も考えてないよ。君たちから離れたいなんて考えてないからね」
慌てて答えると、ジト目で見られた。
「おねえさん、俺達といないと出てきたモンスターに対処できないじゃん」
それを言われると、守られている立場としては弱い。
実際に、リアンさんと出会った後、私達の乗った乗合馬車は比較的多い魔物の群れに襲われ、カークさん達が撃退していたのだ。
びっくりしたのはその時のリアンさんの戦闘能力である。
十歳の美少女がナイフを両手に魔物を蹂躙している光景はちょびっと怖かった。
それもそのはずで、その後に見せてもらった冒険者カードはシルバーのものでランクの部分にはBの文字が刻印されていたのだから。
まあ、それらも少年がセリアンスロープの青年を嫌う理由の一つなのだろうけど。
生まれも育ちも、年齢だって違うのだ。
ライバル視する必要はないはずなんだけど、そういうものでもないのかな、男の子って。
カークさんに対してはそんな感情ないのに、セリアンスロープの青年は別らしい。
で、セリアンスロープの青年の少年に対する敵対心の理由もしっかり理解できた。
体は小さくても二十九歳のBランク冒険者が、十歳ぐらいの少年に抑え込まれるって、屈辱だよね。
ライバル心から友人になったりしないかな。
だって、十四歳って年齢は、友達が必要な頃だ。
実年齢はともかく、見た目は同じぐらいの年齢に見える二人なのだから。
その時の戦闘で、リアンさんの力量はカークさんのお眼鏡にかなったようだ。
役に立つと判断したらしかった。
「ヒナ」
呟いてうっとりと私を見る猫耳美少女、もとい青年。
彼が爆弾にならないことを祈りたい。
私としては、さっさとカークさんがお役目を果たしてマーダレーの街に戻ってくれるとそれでいい。
その過程で少年が怪我をしなければ良いのだ。
少年に視線を向けると、彼が私を見上げていた。
「俺から離れんなよ」
殊更真剣な声音で囁かれた言葉と握ってくる手の強さにちょっとドキッとした。