獣人さんに出会いました 3
カークさんの世界の常識講座その1〜人獣族編です。
ライカンスロープ、セリアンスロープ、ドラゴニュートの名称はノリで使ってるので、深く考えない方向で、お口にチャックでお願いします。
セリアンスロープって言葉を初めて聞いた。
少年も同様だったらしい。
ランカンスロープなら分かるんだけどなあと呟いていた。
「セリアンスロープってのは獣人族の一種だ。完全獣化ができるライカンスロープ、竜人のドラゴニュート以外の獣人族の総称と考えれば良い」
うーん、カークさんの説明はいつもざっくりだ。
「その説明だと、セリアンスロープは獣化できないってことですよね? 」
「獣化できればライカンスロープの括りだからな」
「セリアンスロープとライカンスロープはもともと同じ種族って事ですか?」
「そうだ。人族と混じったライカンスロープが獣性を失ってセリアンスロープになる。ライカンスロープは獣化していない時は外見は人と変わらない。セリアンスロープは獣化できないが、常にどこか一部に獣性を残している」
うん。やっと違いが分かったぞ。
「ドラゴニュートってのは?」
女の子、あ、違った。
セリアンスロープの男の子を牽制しながら、少年が続けて尋ねた。
「そいつはかなり特殊な種族で、竜の眷属と言われている。まあ、ドラゴニュートは伝説みたいなものだから会うこともないさ」
カークさんが断言してるけど、少年が質問した時点でフラグっぽくなってると思うのは私の頭がこの世界に感化されてきたからなの?
だって、いないとは言い切ってくれてないんだもの。
これで、エルフとドワーフと小人と巨人が出てきたら完璧かしらね。
「人獣族ってのは人間と異なる部分が見かけ以外にいくつかあってな。寿命と成長速度ってのがまず一つだ」
説明はまだ続いている。
「人の寿命は何もなければ七十から八十歳ぐらいだ。長生きしても百二十歳だな。それに比べると、ライカンスロープは三百歳、セリアンスロープでも二百歳近くまで生きる。そして、彼らは赤子の時代が短く、子供時代が長い上に個体差がある」
「個体差?」
「獣人族は発情期があるからな。発情期が来て、初めて成長期に入る。それまでは見かけも子供のままだ。かと言って、頭の中身や年齢が子供なわけじゃない。だから、獣人族、特にセリアンスロープは外見では実年齢が分からないんだよ」
苦笑と共に、セリアンスロープの男の子を見る。
「ミントの香りで発情するとは聞いたことがないが、お前、先程発情期に入ったばっかりだな。一人で旅をしていたということはそれなりの歳だろう。今いくつだ?」
カークさんが笑いを堪えながら尋ねる。
尋ねられたセリアンスロープの少年と、説明を聞いていた恵人君はどちらも憮然とした顔をしていた。
このセリアンスロープの少年は丁度第二次性徴期に入ったって理解でいいのかな。
ん? ということは。
「恵人君と同じ成長期ってことか。これから、ぐんぐん大きくなるんだね」
「僕は二十九歳だ、こんな子供と一緒にするな!」
そう口にして、少年を指差したのはセリアンスロープの少年だ。
「誰が子供だ! ジジイのくせに何可愛子ぶってんだよ!」
反射的に反論している少年。
私はというと、
「に、じゅう、く?」
言葉の意味がすぐには頭に入ってこなかった。
ゆっくりと口にしてから、私は慌てて唇を両手で押さえる。
え、だって、さっき舐められたよね。
びっくりはしたけど、あの時は女の子だって思ってて。
「!!!!!!!!!」
彼氏いない歴と年齢が同じ私が、今までの人生の中で恋愛的イベントをクリアしたことなどないわけで。
「キ、キ、キ、キ、キ……」
「おねえさん、今更だから。だから犬猫じゃないって言ったのに」
慰めるでもなく、呆れたように少年が指摘する。
ううう。
なんて事だ。
こんなことでファーストキスを経験してしまうとは。
今更夢なんて持ってなかったけど、女の子と思ってたら二十九歳の青年だったなんて詐欺も甚だしい。
外見はどう見ても十歳ぐらいの美少女なのに。
「二十九か。そこまで遅いのも珍しいな。セリアンスロープの世界でも一人前ではないがとうに成人しているはずだ」
カークさんが何やら確認するように呟いている。
その言葉を聞き咎めて、セリアンスロープの青年は頰を染めてプイッと視線をあらぬ方へ向けた。
その姿は可憐な少女にしか見えない。
何で、私以外の人には彼が男性だって分かるんだろう。
どの部分にショックを受ければいいか分からない。
「おねえさん、大丈夫だ。あれはノーカンだ。よく見ろ、猫耳がある。あれは猫だ」
少年が私の腕を取って、そんな慰めの言葉を言ってくれるが、慰めになってないからね。
猫耳があっても、私より年上の男性であることは変わらないからね。
そこに、何故かセリアンスロープの青年が乱入して来た。
「お前、おねえさんに気安く触んな!」
いや、二十九歳の青年におねえさんと呼ばれるほどおばさんではないのよ、私。
大体、どうして彼はさっきから、こんなに私に固執しているの?
匂いだけなら、少年にもカークさんにも青年自身にも喉飴をあげたから、私以外にもミントの香りプンプンしてるはずなんだけど。
喧嘩を始めた二人の前で、困った顔でカークさんへ助けを求めてみた。
なのに彼は面白がっている表情で私達を眺めている。
「嬢ちゃん、獣人族ってのは、人間と異なって一途な個体が多いことも有名でな」
なんて、語り始めてしまった。
「初めての相手と添い遂げる個体が多い種族でもあるんだわ。初めての発情期ってのも、結局は初恋ってことだしな。ま、そういうこった」
「どういうことでしょう?」
「うん、まあ、ガンバレ」
イケメン顔が、ニッコリ笑顔で私を応援する。
え?え?え?
だから、どういうことなの?!
ま、そういうことです。
おねえさん、人生初のモテ期です。