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獣人さんに出会いました 2

ブ◯ックサ◯ダー祭りをカークさんに邪魔されてしまったが、いつでも手に入れられるチョコレートとレモンティーは旅の私の密かな楽しみとなった。


また、私と恵人君の旅支度から水を排除でき、荷物が軽くなったのも良かった。


この現象をカークさんに話そうとしたら、少年に止められてしまったから、あくまで私達二人にしか恩恵はないけれど。


でも、これが私の能力って言われてもピンとこないし、やっぱりささやかな便利さだけのものだよね。


それに、私達の持ち物の特殊性に少年だって気づいているからこそ、自分の荷物で検証しようとしたんだと思うんだ。


私のバッグだけじゃない。

あれだけ豪快にひっくり返ってたのにカゴが全く曲がっていなかった自転車も、肉体強化されているらしい少年が全力で蹴って飛龍に当たったボールも、どちらも壊れていないなんて冷静に考えるとあり得ない事だ。


あれらもバッグと同じだと考えられないだろうか。

相変わらず、原理はわからないけどね。


質量保存の法則とか、タイムパラドックスとか、諸々の物理法則がどうなっているかなんて気にしてたら負けである。

そういう現象だと受け入れ、利用する柔軟さが必要だという事だ。


少年がそういった事を口にしていたけど、私も同感だ。


馬車の荷台で揺られながら、私は僅かにミントの香りのする喉飴を口に放り込んだ。


私達の乗っている乗り合い馬車は、地球ではいわゆる幌馬車と言われるもので、荷台の上に幌が被せられていて中が見えなくなっている。

荷台には私達以外にも十数人が乗り込んでいて、かなり大きなものだった。

荷物も結構な量を載せているから、そのうち半分は護衛なのかもしれない。


口の中に広がるミントの香りに私は顔をしかめた。


普通の喉飴をバッグへ入れていた事を後悔している。

どうせなら、フルーツ系喉飴とか、は◯みつキン◯ン喉飴とか、キ◯リ◯ール喉飴とかを選択しておくんだった。

ミントや薄荷のツンとくる香りは苦手だ。


「おねえさん、何口にしたの?」


横のカークさんが目を閉じているのを一瞥して、少年が小声で尋ねてきた。


眠っているのだと思ったら、起きていたらしい。

ということは、カークさんも目を閉じてるだけで起きてるのかもな。


「喉飴。ミント苦手なの」

「……苦手なのに食べたの?」

「だって、口が寂しくない? 恵人君も食べる?」


ポケットに入れていた喉飴を取り出して渡すと、少年は小さく溜息をついてからそれを受け取った。


「なんか、色々わかるよね。ま、いっか」


私を頭から足まで見てから、彼は呟いた。


言いたい事があったけど、口に出したら失礼だからやめたって雰囲気がプンプンしてるんだけど。

やめた台詞も推測できる。

確かにその通りなので、否定はしないし、できません。

自制できるなら太っていないもの。


喉飴を口に入れる少年を睨んでいると、荷台の奥から足元を移動してくる小さな影が見えた。


「いい匂いがする」


そう呟いてクンクンするのは少年と同じぐらいの背丈の女の子だった。


用心棒も兼ねているカークさんが有事の際にすぐに動けるように、私達の席は荷台の後ろ入口周辺だ。

この辺りは太陽の光が届いているので、奥とは異なって周囲が見える。


だから、その女の子の頭に猫耳のアクセサリーがあるのもすぐ確認できた。


アクセサリーだよね?


もう一度じっくり女の子を見つめると、猫耳のがピクピクと動いた。


「おねえさん、良い匂いがする」


そう口にして、私の膝に両手を乗せてクンクン匂いを嗅いでくる。


えっと、これ、犬か何かに匂いを嗅がれている気分なんだけど。


戸惑って動きを止めていた私から、女の子を引き離したのは少年だった。


「何固まってんの。変なのが近づいてきたら抵抗ぐらいしろよ。犬猫じゃないんだから」


女の子の首根っこを捕まえた状態で、私を睨む。


「でも、子供だし」


言い訳は一蹴された。


「猫耳ついた? おっさん、猫耳ってのは友好的って考えて良いのか? 残り香ってのに反応してんじゃないのかよ?」


少年の言葉に閉じていた瞼を開き、カークさんが女の子を視界に入れる。


「この辺りでは珍しいな。セリアンスロープか。人族に対して獣人族とも言う。残り香に反応するなど聞いた事がないが……」

「あんたもおねえさんと同じ匂いがする」


女の子は呟いてクンクンしたかと思うと、少年の手を払いのけて、再び私の上に乗った。

かと思ったら、突然唇を舐められた。


少年とカークさんが吹いた。


あ、あれ?


呆然としている間もペロペロ私の唇を舐め、更にはその隙間に女の子の舌が入りかけた瞬間、再度少年が首根っこを捕まえて私から引き離した。


「お前、良い加減にしろよ。おねえさんも抵抗しろって!」

「同じ匂いしてるけど、お前嫌い!」


そう言って抜け出そうともがくが、少年も今度は簡単に逃がさない。

女の子が暴れても少年はビクともしなかった。


「それは良かった。俺もお前が嫌いだから、お互い様だな」


吐き捨てるように口にした台詞にカークさんが笑ってる。

それ、笑う所じゃないと思うんだ。


少年よ、女の子に対して優しさが足りないぞ。

いつもはあんなに紳士なのに、一体どうした?


私はポケットからもう一つ、喉飴を取り出した。


女の子の鼻がピクリと動く。


やっぱりだ。

私の口に反応してたってことは、ミントに反応したってことだよね。


「落ち着いて、何もしなかったら、これあげる」


彼女に飴玉を見せた。


カークさんが少年の隣で「何だそれ」って言ってるのは無視する。


飴玉の匂いを嗅いで女の子が大人しくなったので、少年に拘束を外すように頼んだ。

ものすごく不本意そうな表情で、彼は女の子を下におろしてくれた。


匂いの元である飴玉を手に入れて、女の子はご機嫌だ。


「獣人族か。剣と魔法の世界なんだから、いてもおかしくないよね。ちょっと感動するね」


おそらく同様に感動しているだろう少年に同意を求めるように声をかける。

が、帰ってきた反応は予想以外のものだった。


「可愛い猫耳女の子ならな。ヤローは興味ない」

「え? だって、女の子……え?」


カークさんを見ると大きく頷かれ、


「ま、嬢ちゃんが生娘ってのは十分理解した」


と、しみじみと囁かれた。


って、どういうことなのよ?

勝手に男連中だけで納得されても困る。

私には意味がわからなかった(泣)



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