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豪邸に泊まりました 3

いきなり頭を下げられたからびっくりした。

だって、衆人環視の中だよ。


多分この町では結構偉いさんだと思うんだ、この人。


私達を遠巻きにしている人々がざわついている。

これって絶対、イケメンさんも有名人だよ。


只でさえカークさんという冒険者の中で有名人らしき人と行動を共にしているというのに、今度は町の偉いさんらしき有名人に頭を下げさせているのだ。

目立たない訳がない。


少年も私同様驚いた顔をしていたが、どこかバツの悪そうな様子で口を開いた。

声音は先程よりも落ち着いたものだった。


「分かってくれればいいいいよ。頭なんか下げる必要はない」


なんて、上から目線的なことを少年が言うと、何やら周囲がどよめいた。


この場を去りたくなった私を責められる人はいないはずだ。


「おねえさん、どこ行くの?」


無意識に後退りしていたらしく、少年が私を掴んだ。

イケメンさんも私を見ている。


「え? だって、目立ちたくないなあって、私向こうで待ってるから、二人で話しててよ」


そう囁いたら、少年に変な顔をされた。


「いや、当事者俺じゃなくて、おねえさんだろ?」


いつ私が当事者になったの?

睨んでたの、恵人君だよね。


あ、また見慣れた呆れ顔。

少年と出会って丸二十四時間しか経っていないのに、見慣れるほどそんな顔させてる私も大概だな。

とか、思っちゃった。


「短い間とはいえ、あれは立派な軟禁だからな。て、おっさんが軟禁してたのは、俺じゃなくて、おねえさんだったんだからな。ちゃんと覚えてる?」


そういえば、そんな事もあったりなかったり。

私って、基本的に負の感情が続かないんだよね、昔から。

イケメンさんもお仕事だったんだろうしな。


「軟禁されてたけど、別に拘束されてたわけじゃないし、今は自由だから問題ないよね?」


ああ、なんか、周囲の人増えてない?

騒ぎが大きくなってない?

私、ここから去りたいんですけど。


「私、問題ないですよね? 自由ですよね?」


改めてイケメンさんの方を向いて尋ねてみた。


そしたら彼はこの端整な顔を少し赤らめて、困ったように咳払いしてる。


「ああ。問題ない。本当に申し訳なかった」


きちんと私に応えてくれて、再度謝罪された。

あ、さっきの謝罪は少年に対してだけでなくて、私にもだったのか。


ごめんよ恵人君、話噛み合ってなかったね。


「あんたらは何をやっとるんじゃ? 坊ちゃん、部屋を貸してやるから、その子ら連れて二階へ上がるんじゃな」


輪の外から上がった声に、周囲の人混みが割れる。


ここから逃げたい私を助けてようとしたくれたのは、飛竜退治の時にいた魔法使いに見える剣士のおじいさんだった。


でも、二階に上がるというのはちょっと抵抗がある。

二階に軟禁されたのは今日のことだったし。


「私達、カークさんを待っているだけなので」


「ふむ、なら都合が良い。ついて来なさい。坊ちゃん、あんたもじゃ」


という訳で、増えた観客を後にして、私達はおじいさんに二階の一室に案内されたのだった。


このおじいさんも偉いさんなんだろうな。


少年が言うような場面はないのに、彼の望む展開になっているような錯覚がする。


だって、カークさんがいることが都合いいって言ったんだよ、このおじいさん。

ちゃんと聞いてないけど、彼って明らかに高ランクの冒険者だ。

ギルドがその高ランクの冒険者に求めることなんて、強い魔物退治とか以外に何があるっていうの?


カークさんは女神の残り香とかいうのに私たちが対応できるまで一緒にいるつもりらしい。


だったら、彼への難易度の高い依頼があったら私達はどうなるのだろう。


こうなると嫌な予感しかしない訳ですよ。


状況を楽しんでしまえる少年が心底羨ましいよ。


部屋に入るとカークさんが憮然とした様子でおじいさんを睨んだ。

中ではカークさんと、飛竜退治の時にいた秘書風の女性がソファに腰を掛けていた。


「しばらくは依頼を受けないと言いに来たんだがな」


「そういう訳にもいかんじゃろうて。この件は王宮が儀式を強行したのが要因じゃ。飛竜が昨夜の防衛線を越えて来たのを考えれば、放置できる問題ではなかろう?」


カークさんが納得いかない様子でガシガシと頭をかく。

その手が止まって、おじいさんの後ろにいる私達に視線が移動した。


「なんだ? 二人を連れて来たのか?」


「坊ちゃんに絡まれておったんでな」


「絡んでいた訳ではありません!」


慌てて訂正したのはイケメンさんだ。


それを見たカークさんは僅かに目を細める。


「嬢ちゃんはお前に怪しまれるような人間じゃねえぞ。お前に付きまとわれるような人間でもない」


剣呑さの含まれた声音だった。


「……誤解がありましたが、先程謝罪しました。まだ許しはいただけておりませんが」


イケメンさんがそんなことを言いながら私をちらりと一瞥した。


確かに謝罪は受けた。

あれは私の何かに対して疑ったことへの謝罪だったらしい。

あれ? 私、許してないことになってるの?


「許されるかは嬢ちゃん次第だからな。それはそうと、解体した飛竜はどうするよ? どうせじいさんもその件でこいつを連れてきたんだろう?」


「領主には優先権があるからの」


と、おじいさんとイケメンさんの間で商談が始まった。


私達、ここにいなきゃいけないのかな。


手持ち無沙汰で扉のそばに立ったままでいると、少年が私の服を引っ張った。


「俺達、ここにいる意味ある?」


囁きは、私の心の声と同じものだった。




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