冒険者さんと出会いました 4
城壁から外に出た騎兵がワイバーンを牽制しながら、街の方へ向かわないように誘導しているのがわかる。
騎兵をサポートしながら、弓兵は特に蝙蝠によく似た羽を狙って矢を放つ。
降り注ぐ矢の中に、幾つもの異なった攻撃がある。
それに、戦ってる兵士達を取り巻いてキラキラ輝いている光らしきものも見えた。
あれらが魔法なのだろうか。
各攻撃が届く低空まで下りてくれば討伐も可能だろうが、高度を上げられると途端に攻撃手段を失ってしまう。
倒し方としては、羽を断って大地に下ろし、足を潰して転がしてから命を奪う手順になるのだろうか。
だけど、始めの羽を断つに苦戦している。
ワイバーン戦を観察していると、同様に見学しているらしき人の会話が聞こえて来た。
「ありゃ、またでかいやつが匂いにつられて来たもんだな。飛竜の生息地は西の山岳地帯だろう」
呆れた口調は壮年の男性で、少し長いボサボサの髪や手を入れていない無精髭など、いかにも冒険者といった風態だった。
「まだ落ちねーのか」
「元々、あまり需要がないので、この街にクラスの高い魔道士や弓兵がいないんですよ。このままだと、高度を上げて街に来るかもしれません」
そう返すのは秘書風の若い女性だ。
三人目は白髪で細身の年配のおじいちゃんだった。
「それは厄介じゃな。坊ちゃんは出てるんじゃろ?」
「先程まで街の中にいらっしゃいました。今は指揮をとってらっしゃると思いますが、現在地までは分かりかねます」
おじいちゃんの質問に即座に答える女性。
ものすごく優秀そうだ。
「前線で無茶されても困るがの」
呟きに二人は苦笑いを返していた。
事情通っぽい会話に、思わず聞き耳を立ててしまう。
少年も同じだったらしく、視線はワイバーンを捉えながらも意識は三人の方を向いていた。
「案外、余裕があるみたいだ」
「だね。あのおじいちゃん、街の顔役さんかな?」
私が疑問を口にすると、少年は僅かに首を傾げた。
「街の住人避難の手伝いに回ってないから、違うんじゃないかな。どっちかっていうと、守備隊側の関係者っぽい。隣のおっさん、強そうだし」
その指摘は的を得ているように感じた。
三人ともただの町民には見えなかったから。
私達が三人に気づいたように、向こうも立ち止まって戦闘を見学している私達に気づいたようだ。
女の人に建物に避難しなさいと注意された。
その時、ひときわ大きな鳴声が響く。
誰もが声の主を返り見た。
ワイバーンが僅かに傷ついた羽を大きく広げ、空高く舞ったところだった。
攻撃の届かない上空まで上がったと思ったら、まるで目的でもあるかのように城壁を越えて、街中へ急降下して来る。
少年が、私の手を取って、慌てて逃げ出す。
そんな私達を守るように、ワイバーンとの間に先程の三人が立ち塞がった。
女の人がモンスターの気を引くように連続で何かを放つ。魔法だろうと思う。
それに合わせて冒険者風の男が剣を抜いて大地を蹴ると、大きく飛び上がった。
思わず目が点になったのは、明らかに飛んだ高さが普通じゃなかったからだ。
化け物じみた跳力に驚いて動きが止まってしまう。
やはり同じように二人の攻撃に見惚れて止まってしまった少年が隣で「すげえ」と呟いている。
魔法と剣の攻撃を受けて、モンスターが怯んだように見えた。
そこで、今度はおじいさんから叱咤の声が飛ぶ。
「観戦などしとらんで、さっさと逃げんか」
確かにその通り。
戦う術のない私達はとにかく逃げるしかない。
「おねえさん!!」
私がモンスターに背を向けて駆け出すのと、少年が焦った声で私を呼ぶのが同時だった。
お腹あたりに圧迫感を感じた瞬間、ふわりと私の体が持ち上がり、足が地面から離れる。
あれ?と、思う間も無く、私は宙に浮いていた。
1mほど下には慌てる少年とおじいさん。
更には冒険者風の男の人と、魔法を使う女の人も私を見上げて狼狽している。
彼らの様子や表情を見て、私もさすがにヤバイと理解した。
お腹を支えるのはモンスターの足の指。
私は、完全にワイバーンに捕獲されていたのだ。
私を捕まえたまま空へ浮き上がろうとしたモンスターの体に、男の人が切り掛かった。
続いて、おじいさんが杖を打ち付ける。
いや、杖だと思っていたがどうやら刃物が仕込まれている仕込み杖仕様の剣のようだ。
多分年齢以上に矍鑠とはしているんだろうけど、おじいさん、明らかに七十歳オーバーだよね。
見かけは知的で魔法使いっぽいけど、やってることを見るとどうも剣士っぽい。
年齢的に大丈夫なのか?
なんて、現実逃避している場合じゃなかった。
私、何故かワイバーンにお持ち帰りされそうになってるんだよ。
いい感じに脂肪が全体に行き渡っていて、美味しそうに見えたってこと?!
日頃の運動不足と節制不足が原因ってわけ?
モンスターに食われるぐらいなら、詰所から逃げ出さずに大人しく捕まってるんだった。
このままワイバーンの餌になる運命なんてヤダよ。
助けを求めて地上を見るが、男の人の攻撃もおじいさんの攻撃も女の人の魔法も、事態を打開するほどのダメージを与えることはできていない。
それに、これ以上高度を上げられたら、彼らの攻撃が当たらなくなりそうだ。
絶体絶命のピンチです。
自転車事故の恐怖だとか、スパイ容疑での拷問の可能性とか吹き飛ぶほど、現状手の施しようがないほどの危機に陥っている私がいた。
だから神様、ハードな展開はやめてくださいってば(泣)