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冒険者さんと出会いました 2

「簡単に出してもらえないって、じゃあ、どうすればいいのかしら。やっぱり逃げるのは解決方法としては悪いと思うの」


話しながら、私は声が震えているのを感じていた。


先程の兵士達の表情が怖かった。

男の冷たい笑いが怖かった。

旅一座なんていないと彼らが知った時、私達がどうなるのか分からない事が怖かった。


今にでもあの男の人が入ってくるかと思うと、ソファに座る気にもならない。


部屋の中央で立ったまま、どうすることもできない私とは対照的に、少年は落ち着いているように見えた。


その冷静さが不思議だ。


「見張られている現状に関して、一座の話が嘘かホントかってのは関係ないんだろうな。じゃあ、なんでこんな扱いなんだろう。何を見て、俺たちを不審だと考えたんだろう?」


いっぱいあると思う。

服装や自転車もそうだし、通行止の街道を移動してたこととか、この世界の常識を知らないところとか、明らかに異国人である顔立ちとか、いくらでも上げる事ができる。


なら、どれが一番敵意を持たれる事柄なのだろうか。


それがわからない。


文化が違う。価値観が違う。考え型が違う。

だから、判断基準がわからない。


とりあえず思いついたものを上げてみる。

すると、少年が考えながら口を開いた。


「通行止と国家の儀式……本来人がいないはずの場所に人がいて、そこが国家機密の場所だとしよう」


実際に機密かどうかは別として。と、少年が付け加えながら続ける。


「そんな場所から現れる俺達って、他国のスパイだとかに思われてもおかしくないよな?」


ス、スパイ?


これまた、突拍子もない言葉が出て来た。


「中世では、旅芸人が諜報活動をしていたってのは、現代では歴史上の事実として知られてる事だし、ここぐらいの文明レベルなら、あり得る話だ」


う、確かに、それは聞いた事がある。


人の移動の少ない中世では、旅芸人はその行動範囲の広さから、郵便配達や諜報活動に従事している者も少なくなかったって。


でも……。


「敵意を持たれているのは私だけだったよね」


あの男の人の少年に対しての優しげな様子が思い出された。


「うん。おねえさん、大人だからだよ。……これ、推測だから、絶対そうだという訳じゃない。でも、スパイだと思われてるなら、何を言っても信じてもらえないかも」


私は息を飲んだ。

そうか、そういう可能性があるのか。

背中を冷たいものが流れる。


そんな中での朗報は、幼く見える少年は疑われていないらしいことだ。


日本でも二、三歳下に見られてるだろう少年は、この国では幾つに見られているのだろう。

わかるのは、十歳以下だろうということだ。

十歳以下は主体的に知的犯罪を犯せる年齢ではないと考えるのは、時代や場所を限らないと思う。


ピンチなのは私であって、少年ではない。

その事に何故か安堵している私がいる。


「ダメだ。おねえさんが捕まってる間に俺が逃げるとかは絶対ないから」


何を察したのか、突然少年がきつい口調で言った。


「そんな事、一言も言ってないんだけど」


「思っただろ。顔に出過ぎ」


びっくりして反論するも、腹芸が苦手なのを簡単に指摘された。


「おねえさんは俺が守るから」


真面目な顔で、真剣な口調で言われて、私は思わず赤面してしまった。

そんな場合じゃないのに。

ちょっと少年、カッコ良すぎだよ。

中学生のくせに。


「だからさ、やっぱ、ここから逃げよう。さっき、おねえさんがいない間に窓を調べてたんだけど、下の見張りは一人っぽいんだ」


そう口にしながら、少年が部屋の窓を開いて外に顔を出す。

それを真似して下を見ると、確かに見張りらしき兵がいた。


「ここ、二階だよ? どうやって下りるつもり?」


飛び降りるには若干高さがありすぎる。

もちろん部屋にハシゴやロープが置いてあるわけがないし、壁を伝って下りるような取っ手や出っ張りもない。


「おねえさんも、俺も、マフラー持ってたよね。それとボールケースを固結びで繋げたら三m弱にはなるはずだ。そこからなら、飛び降りてもかすり傷程度だよ」


説明しながら、少年が互いのマフラーを結び、ボールケースの肩掛け紐に括り付ける。

それを更に窓の開閉部分の隙間を使って固定した。

確かにロープ代わりになっている。


私の身体能力で可能な範囲なのか不安ではあるが、実行可能な方法なのは確かだ。


「見張りはどうするの?」


「今度は俺がトイレに行く番かな」


そんなことを言ってボールを手にする。


「ちょっと騒ぎを起こしてみるからさ、チャンスと思ったら、下りて。で、合流できないと思ったら、ひとまず逃げろよ。おねえさんが逃げるのが優先。わかった?」


私は首を横にブンブンと振った。


「一人では逃げないよ」


少年は私の答えに、少し困ったように頭をかいた。


「俺さ、昨日からなんか身体の調子がいいんだよ。フリースタイルフットボールもキレッキレだったし、自転車漕いでても疲れないし、力も強くなってる気がする。まあ、あくまで気がするって程度なんだけど」


自信満々な様子で少年が言葉を紡ぐ。


「なんか、誰にも負ける気がしねえ。だから、俺を信じて逃げてよ」


根拠のない自信だと思った。

思ったんだけど、少年自身を信じてあげるべきだと感じた私は、無意識に頷いてしまっていた。


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