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Questing Beast  作者: 瀬戸内弁慶
前編~望まれざる銀の嫡子〜
9/32

9.

 オレンジジュースの缶をくわえながら病院から戻ってきた第四班班長は、病院前の階段で待ち受けていた村上清蘭の姿を認めると、すこし虚を突かれてように目を見開いた。

 足下で一礼する彼女に歩み寄ると、気まずそうとオレンジジュースを飲み干して、傍らの自販機そばのゴミ箱にシュートする。


「どうしてここに?」

「第五班の司馬(しば)大悟(だいご)班長からうかがいまして」

「あいつめ……」


 司馬大悟は、統括本部でもある第一班の早瀬(はやせ)須雲(すくも)班長の補佐も兼任している。事実上の『ハウンド・ドッグ』のナンバー2だ。

 そのためあらゆる事情に精通しているし、この錫日照慈を第四班長に抜擢、推薦したのは彼だ。

 だが、この世のありとあらゆるものを嘲弄するかのような陰険な性格は、推薦された本人どころか、上司である須雲からも忌み嫌われている。だが、部下からはやたらと人望があるし、卓越した指揮能力と、湯水のように湧き出す悪知恵……もとい智謀は評価されている。


「それより、『どうしてここに?』は、こちらのセリフでもありますが……」

「入院中のお宅らの班長に、報告と見舞いをな。それと、事件の背景を聴くために別室の『シルバー・ウィスパー』を訪問したが、そちらは門前払いを食らった」

「どちらにせよ、私を通していただかないと」

「申し訳ない」


 苦く笑ったのも一瞬のこと、顔を引き締めて錫日照慈はあらためてたずねた。

「では、経緯はともかく用件のほうを聞こうか。……どうして、ここに来たのかな?」

「まず、第三班の班長代行を錫日班長が兼任されることが、決定しました。須雲さん……いえ、早瀬班長じきじきの辞令です」

「承知した」


 錫日照慈は顔に喜びも不快も浮かび上がらせることなく、ふたつ返事でそれを承諾した。

 あるいはそうなるだろうと、班内の台所事情をかんがみて読んでいたのかもしれないが、逆に清蘭が当惑するほどの快諾っぷりだった。


「……と同時に、すぐさま第三班、第四班に出動命令がかかりました。すでに両班招集をかけています」

「早いな。で、場所は?」

「伊勢湾自動車道。昨晩襲撃された『デミウルゴスの鏡』が、時州一族の護送中、つまり現在進行形で不特定多数の勢力に再度襲撃されています」

「遅すぎる……! 監視してた二班はなにをやっていた!?」


 数秒前とは相反する怒号を清蘭に浴びせる。

 これは逆に清蘭のほうこそが予想していた反応だ。だから、腹もべつに立たなかった。


「報告はすぐに上がりましたが、国の認可が下りませんでした。というより、今も下りていません。司馬班長が無断で出動命令を出しました」

「あの露悪趣味め」


 師匠筋にあたる人物に容赦ない悪態を吐いたときには、彼は冷静さを取り戻していた。

 彼らの目の前に、高機動の武装ヘリが到着し、タラップに足をかけた錫日に、


「でも、少し安心しました」


 と声をかける。


「貴方のような、信頼のおける大人の下で戦えることになって」


 これは彼女にしては珍しく、私情のまじった賛辞だった。

 振り向いた錫日は、ややぎこちなく笑ってうなずいた。


 若い兵士たちを運び、ヘリは一路、西の空へと向かう。

 自分たち猟犬が、必要とされる狩り場を、駆けるために。

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