7.
病院から失敬してきたであろうシーツに、聖女が包まれて運ばれていく。
それを支えていたのは、我らが班長だった。
「ご無事でしたか」
撤収の準備にはいっていた隊の中から、ほっと安堵の息をつきながら清蘭は近づいた。
彼が向かった先で爆発が起こり、黒煙やら白煙やらが充満した時には、肝が冷えたものだ。
錫日照慈はバツが悪そうに唇を引きつらせた。
「君たちの班長のことを笑えんな。まったく無用な蛮勇をふるってしまった」
たしかにあればかりは、彼の言動から逸脱した無茶だった。
だが、彼なりに思惑があってことだろうし、現に『シルバー・ウィスパー』を無傷で確保している。
そこに、重量感たっぷりの銃をかついだ美青年が、そうとは感じさせない軽い足取りで彼女たちの間に割って入った。
『パルケルスス』の狙撃手、斎藤だった。
実質初対面となる清蘭は、やや丁重に彼に頭を下げた。
彼女へのあいさつは適当に切り上げて、「あれれ」と聖女と血を吸ったシーツを指さして言った。
「なんだ、けっきょく殺っちゃったんスか?」
言葉の軽さに似合わない不穏当な発言に、錫日はため息をついた。
「揚げ足とりたいところ悪いがな。まだ生かしてある」
と、シーツを引き剥がしてみせると、あさく呼吸しているし、出血や打ち身数多く見受けられたが、致命傷というほど大げさなものはなさそうだった。
「なーんだ」
と残念がる斎藤には、はたして自分が重要な使命を帯びた国家公務員だという自覚はあるのか。
その場を離れようとする彼をいったん呼び止めて、錫日は自身のサイフから万札を数枚引き抜いて斎藤に手渡した。
「これで第三班の生き残りも含めて他の奴らに美味いものを食わせてやれ」
「マジすか!? あざーす!」
「ただし、俺のおごりだとしっかり言っておけよ」
「うーわ、器ちっちぇー」
「なんとでも言え。こっちはクセモノどもを代わる代わる使役しなきゃならん立場だ。そのためならせせこましい手を使ってでも、信頼を作らなければな」
そんな気心知れた容赦ない応酬を、クスリと微笑して清蘭は見守っていた。
そんな彼女の胸元で、携帯端末が震えていた。
それを手に取り、通知を確認した彼女の顔は、一転してけわしいものへと変わったのだった。