3.
村上清蘭はあらためて第四班のメンバー十数名を見た。
みな、それなりに年若い。ヘタをすれば未成年も混じっているんじゃないか、とも思えるほどに若い。
だが、政府の機密にかかわって仕事をしている以上、この場にいる誰しもが実績と実力を持っているといって良いだろう。
まぁ、かくいう清蘭本人も二十そこそこで、民間から登用された組だが。
――それに、第四班にもとめられているのは、華々しい活躍とかじゃない。
〈錫日サン、そこの学級委員長の柿崎くん、あとでしばいていいスか?〉
そのタイミングですかさず、通信がはいった。これもまた、ハリのある、口調からしても若い男の声だった。
錫日はため息まじりにその回線をオープンにし、周囲にただしく伝わるようにしたようだった。
「斉藤、位置にはついたのか」
〈へい。中にいる敵は、洗脳されたスタッフ、ウチの手勢ふくめて三十五名。人質役は大半がホールに集められていて、玄関先で例のオンナが信者あつめて演説ぶっています。詳細は、『パラケルスス』で座標データ送ります。ああ、それと〉
「なんだ?」
〈彼女、射程内に入ってます。撃てますけど、やっちゃいます?〉
陣営内の空気が、より一層引き締まったものになった。
無理に力押しするよりも、狙撃でこの困難の元凶を排除し、虚を突いて一気に突入する。そのほうがより効率的で、一理ある。
だが、その思考の果てに待つのは……銀髪の聖女の死体だ。
彼の提案が可か不可か。その判断をくだせるのは、この場においてはただひとりしかいなかった。
「却下だ。予定どおり、『バンシー』を彼女の手前へ撃ち込み、生け捕りにする」
そして彼への提案は、決定権を持つ錫日によって、にべもなく却下された。
〈……『猟犬』が生け捕り、ね〉
「不服か?」
〈いえ、ただお優しいことで、と思いまして〉
「べつに温情から言ったわけでもないがな。相手もわざわざ狙える位置に立ったとも思えん。非暴力、無抵抗でおとなしく命を差し出せとは言わん。だが、指にかけた引き金は、重いに越したことはない」
〈……〉
沈黙から、無言の非難が聞こえてくるようだった。
ことさらに煽るような口ぶりで、錫日照慈は言った。
「それともお前は、女子供を手にかけて名誉として称賛されたいのか? そんなことをして喜べるか、そうでないか。……われわれと病院に立てこもった連中をへだてるものがあるとすれば、そこだろう? 『フェアリー・テイカー』」
〈あっ、やだなー。そのコードネームいま持ち出すんスか? ファンシーすぎてあんまし好きじゃないっつーのに〉
方針としては反目していた彼らではあったが、それなりに良好な関係ではあるらしい。
「では勇名で呼ばれるようなクールな男になることだな。……ちょうど、パワフルな新人の重役出勤だ」
錫日たちの思わせぶりな視線に呼応して一同が振り返れば、少女が息せき切りながら、テントの出入り口に立っていた。童顔気味な丸顔と、マッシュルームカット。このなかでもっとも小柄な背丈。多少肉感的であっても、その肉体をスーツで包む姿は、まるで就活生のようでもある。不釣り合いな成人男性用のスポーツバッグをかついで、そのヒモを直しながら、左手で敬礼した。
「すみません! ちょっと目覚まし時計が行方不明に……じゃなかった、電車が混んでまして! 新人、童嶋やよい、着任しましたッ」
なんというか。どこからツッコんでよいものやら。
困り果てた清蘭は別の部署の人間相手を責めるわけにもいかず、その上司にうたがいの目を向けた。
「彼女が件のルーキーですか」
「そうだ」
「……実践投入するには、若すぎません?」
自覚があるのか、別の話せない事情や思惑があるのか。
ふいに視線をそらした錫日は、微妙に唇をうごかして、
「そうだな」
と、相槌をうつにとどめた。
「だがうちの班は、あいにくとそういう所なのさ」




